第2話 私を救ってくれた人
ザーザーと心地いい雨の音を聞きながら6時間目の授業を受けていた。といっても今日は先生が出張ということもあって自習の時間となっているせいか真面目に勉強をしてる生徒は少なく、皆スマホをいじったり友達と話したり好きなことをしている
そして俺もその中の一人だ
スマホでお気に入りのyoutuberの新規の動画をチェックしていた
すると
「自習中にyoutube見るなんて水瀬君も不真面目だねえ」
自分の椅子を俺の席に近づけながら木花がそう言ってきた
俺はyoutubeの再生を止めて付けていたイヤホンを一旦外してから
「あれ、木花さんもさっきまでスマホいじってましたよね?」
俺が適当に言い返すと、木花は俺のスマホを覗きながら
「あ!水瀬君もこの実況者見てるんだー!私も好きだよー」
無視すんな
というか距離感近すぎて死にそうです
「木花もゲーム実況とか見るんだ」
「意外?」
「ちょっとな」
「へーけど私も水瀬君がこういうの見てるの意外だったけど」
そう言うと木花は俺のイヤホンを右耳に付けた
「それ最新の動画でしょ?私も見たかったし一緒に見よ」
やっぱり距離感おかしいって
もしかして俺男として見られてない?
今だって恋人がするようなことを平然とお願いしてきているし
「いいよ」
「やったー!じゃあ最初からね!」
「えー俺途中まで見てたんだけど」
「せっかくだし一緒に最初から見よ?ね、お願い」
上目遣いでお願いしてくる木花
「はあ、分かったよ!」
そんな可愛い顔でお願いされたら断れるはずもなかった
放課後雨のせいで部活がなくなった俺は樹と駅まで歩いていたのだが
「あ、やべ教室にスマホ忘れた」
スマホを机の中にいれっぱだったことを思い出した俺は
「ごめん今から取りに戻るわ」
「それなら先に帰ってるわ。また明日な!」
「悪い。また明日」
早歩きで学校まで帰ってきた
静まり返る廊下を歩いて教室の前に到着
そして教室に足を踏み入れた瞬間俺の思考が止まる
そこには最近仲良くなった白髪美少女がうずくまって泣いていたから
美麗side
「今日も水瀬といちゃついてたでしょー!」
放課後の部活の時間
同じ家庭科部の紗香がさっきから私をからかってくる
「別にいちゃついてないよ?ただ一緒の動画見てただけ」
「だからそれをいちゃついてるって言うんだって!そんな事ばっかしてると皆に水瀬と付き合ってるって勘違いされちゃうよ?」
「それならそれで男子から告白されずに済むしいいかも……」
「それモテない女子が聞いたらすごい嫉妬されると思うよ?でもそっか美麗ならそっちの方がいいのかもね。ちなみに高校入ってから何人に告られたの?」
「先輩含めたら10人ちょっとかな」
正確な人数は覚えてないけどこのくらいだと思う
「多すぎないっ!?」
そんな風に話していると
「木花さん!あそこの扉にいる人に呼ばれてるよ」
そう同じ部員の子に言われて教室の扉の方を見てみると、先輩だろうか。チャラそうな見た目の男子生徒がいた
「美麗の知り合い?」
「知らない人」
「だよね」
「なんの用かな。とりあえず行ってくるね」
私に用があるってことは大体察しが付くけれど、とりあえず先輩のもとへ向かう
「美麗ちゃんいきなりでごめんなんだけど二人で話したいんだけどいいかな?」
予想が確信に変わった。おそらくこの人は私に告白するつもりなんだろう
「分かりました」
「二人きりになれるとこどっかないかな」
「なら私のクラスでいいですか?もうみんな帰ったはずですし」
「いいね!じゃあいこっか」
「――付き合ってください!」
教室に入ったとたんすぐさま告られた
でも最初から返事は決まっていた
「先輩の事知らないし今は誰とも付き合う気はないのでごめんなさい」
そう言うと先輩の表情はあからさまに曇った
「美麗ちゃんが入学してきたころに話しかけたことあるんだけど覚えてない?」
入学したころはたくさんの男子に話しかけられた。おそらくその頃に話しかけてきた人なんだろう。でも残念ながら私はこの先輩を覚えていない。というかそもそも男子とはあんまり話したくない。あ、でも水瀬君は別だけど
「すいません」
「……そっか」
それから数秒の沈黙の後
「あの、実は今の嘘告なんだよね」
もしかしたら私はこの先輩のプライドを深く傷つけてしまったのかもしれない
じゃないとこんなあからさまな嘘つくはずもない
「……そうなんですね」
「ああ、実は友達との罰ゲームで誰かに告白しなくちゃならなくてさ、それで美麗ちゃんに告白したって訳!」
私が先輩の嘘を信じていると思ったのか、先輩は先ほどまでとは別人のように話し出した
「というか本当に嘘だから、勘違いしないでね?」
「わかってます」
「そっかそっか。てか気になってたんだけどさ美麗ちゃんの髪って染めてるの?めっちゃ目立つよね」
あんまり髪について聞かれるのは嫌いだ
昔のことを思い出しそうになるから
「染めてないです」
この話題について話したくないしもう先輩の用も済んだと思った私はさっさと話しを終わらせて部室戻ろうと思ってた。先輩の言葉を聞くまでは
「へぇーなんか病気みたいだね。地毛でそれって」
先輩からしたら何とも思わずに言った言葉なのかもしれない
けど、私にとってその言葉はつらい中学時代を思い出させるトラウマみたいなものだった
私は自分の目から涙があふれてることに気づいた
高校生になって強くなったと思ってたのに私はなんも変わってなかった
先輩は私が泣くとまで思ってなかったらしく
焦ったように
「なんかごめん。俺もう行くわ!」
そう言い残して教室を後にして行った
誰もいなくなった教室、ざーざーと雨の音だけが鳴り響く教室。その中で私は一人、体育座りをしながら泣いていた
まさか高校生になってあの言葉を言われるなんて思ってもなかった
中学時代ある一人の女子から「木花の髪って病気みたい」と言われたのが始まりだった。それから髪の毛のことをよく馬鹿にされるようになり、その次は教科書を隠されたり、いじめへと発展していった
いじめてくるのはほとんどが女子だった
私の中学はほとんどが小学校からの知り合いでそれなりにみんなとは仲が良かったと思う。実際いじめてきた女子たちの中には小学生の頃よく遊んでた子もいた
だから当時の私はショックだった
そして中学3年生になったと同時に私は不登校になった
今思えばいじめられた原因は嫉妬だったんだと思う
嫉妬の原因は色々あると思うけど一番はそのころリーダー格だった女子の好きだった男子に告白されたからだと思う
もう高校生になったのに思い出すたび泣いてしまう
こんな姿誰にも見せれない
そう思ったとき教室の扉が開いた
「……木花?」
入ってきたのは水瀬くんだった
私が高校に入って唯一仲良くしたいと思った男子
趣味も会うし何より話してて楽しいから
最高の友達
でもタイミングが悪いよ
こんな最悪な顔見せたくなかった
すると水瀬君は慌てた様子で私の前まで来た
「なんかあったの?」
心配してくれる水瀬君
「ううん。なんもないよ」
そうとっさに嘘をついた
でも流れてる涙が止まることはない
「何かあったのなら言ってほしい。木花が泣いてる理由知りたいから」
話してしまいたい。でも中学時代のいじめのことは誰にも話したことはなかった。だからどんな反応されるかが怖い
「どんな話でも木花のこと嫌になったりしないよ」
私の心を読むかのような言葉をかけてくれる水瀬君
「……ほんとに?」
「うん。ほんとに」
……そんな優しい声で言われたら断れるはずないよ
「わかった」
それから私は今日あった事と中学時代いじめられてたことを話した
話し終えたころには涙が止まっていた
「つらかったよな」
「うん」
「俺は木花の髪本当に綺麗だと思う」
そう言うと水瀬君は私の髪を優しく撫で始めた
男の人に触られたのは初めてだけどなんだか水瀬君の手は大きくてあったかくて心が落ち着く
「こんなきれいな髪してたら女子からは嫉妬されるだろうな。でもさ今は中学時代みたいに一人じゃないだろ?俺もいるし、山下もいる。だから大丈夫。安心していい。今はもう怖がらなくていい。何かあっても絶対木花は俺が守るから」
そう言われたらすごく心の中がすっきりした
そうだ。もう怖がらなくていい。水瀬君が守ってくれるって言ってくれたんだから
そう思ったらまた自然と涙が流れ始めた
それを見た水瀬君は
「ごめん!おれなんか変なこと言ったかも!」
ううん違うよ、これはうれし泣き
ずっと苦しんでた私をやっと救ってくれる人が現れたから
私は水瀬君の胸に思いっきり顔をうずめた
水瀬君は今どんな顔をしているのだろうか
好きだよ。水瀬君
想いを伝えるのはまだ早いと思った
だから
「――ありがとう」
私は精いっぱいの感謝を伝えた
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