第792話、ジョンブル魂


「日本海軍、Tフリートより報告です。敵戦艦戦力の半減に成功」


 その知らせは、イギリス艦隊旗艦『ライオン』のブルース・フレーザー大将を喜ばせた。


「結構。彼らは、常にフェアな戦いを演出してくれるね」


 敵艦隊には、戦艦20隻。これはイギリス艦隊の戦艦の倍だ。普通に考えれば、数で圧倒されるのが目に見えている。

 だがそれが半減したとあれば、互角に立ち回ることもできる。


 艦隊は、空母とそれを守る11隻の防空巡洋艦と駆逐艦を分離し、異世界帝国の前衛艦隊と交戦すべく、夜の海を進んでいた。



●イギリス艦隊:司令長官、ブルース・フレーザー大将


戦艦:「ライオン」「テメレーア」「サンダラー」「コンカラー」「モナーク」

  :「ヴァンガード」「エジンコート」「エリン」「センチュリオン」


重巡洋艦:「ケント」「ベリック」「カンバーランド」「サフォーク」

    :「ロンドン」「サセックス」「コーンウォール」

    :「ドーセットシャー」「ノーフォーク」「デフォンシャー」


軽巡洋艦:「ベルファスト」「ジャマイカ」「ケニア」「セイロン」

    :「ニューファンドランド」「モーリシャス」


駆逐艦 :16



「B部隊より通信。敵艦隊を捕捉」


 前衛を形成する巡洋艦戦隊が、異世界帝国の前衛艦隊を掴まえた。水平線に無数の発光が観測されたので、場所自体はおおよそ判明していたが。


「こちらも向かうぞ、増速せよ!」


 フレーザー大将率いる旗艦『ライオン』以下、戦艦部隊――A部隊は単縦陣で突き進む。

 しばらく移動していると、敵前衛と接触したB部隊が、敵巡洋艦戦隊と交戦中と連絡が入った。


 B部隊は、重巡洋艦『ケント』『ベリック』『カンバーランド』『サフォーク』『ロンドン』『サセックス』に、軽巡洋艦『ベルファスト』『ジャマイカ』『ケニア』『セイロン』、駆逐艦6隻からなる。


 重巡部隊がレーダー射撃にて、異世界帝国のプラクスⅡ級重巡洋艦と激しく8インチ砲の応酬を繰り広げる。

 蛇行するように機動する英巡洋艦戦隊。異世界帝国巡洋艦戦隊は、それを追いかけ、複雑な針路を刻ませた。水柱を乱立させつつ、機動する英B部隊。

 そして、戦場にA部隊が到着する。


「目標、敵重巡洋艦! 射撃開始!」


 夜陰と共に距離を詰めたイギリス戦艦群は、その砲門を開いた。

 キング・ジョージ5世級戦艦を、再生する際に改造設計し、計画中だった新戦艦のエッセンスを加えて生まれ変わったフネ、それがライオン級戦艦だ。

 全長240メートル、艦幅32メートル、基準排水量4万トン。キング・ジョージ5世級の45口径35.6センチ砲10門から、45口径40.6センチ三連装砲三基九門に主砲は換装され、攻撃力は、米軍のノースカロライナ級やサウスダコタ級戦艦に匹敵する。


 そしてその自慢の砲が火を噴く。レーダー射撃による攻撃は、恐るべき正確さで、プラクスⅡ級重巡洋艦に突き刺さった。その一撃は、横っ面を殴り飛ばしたかのように1万5000トンの艦体を震わせ、その足を止めた。


 たちまち二方向からの挟撃にさらされ、異世界帝国重巡の艦列が乱れる。自身も巡洋艦のように猛進するイギリス戦艦。その主砲弾によってプラクスⅡ級重巡は次々に失われていく。

 だが、主戦場に、異世界帝国のオリクトⅡ級戦艦群が到着した。50口径40.6センチ三連装砲の砲弾が、友軍巡洋艦戦隊を守るように英戦艦群に降り注いだ。


「取り舵! 敵戦艦の頭を押さえろ!」


 フレーザー大将は、単縦陣のまま、向かってくる異世界帝国戦艦の横陣に目標を変更させた。


 戦艦『ライオン』を先頭に、『テメレーア』『サンダラー』『コンカラー』『モナーク』が続き、新戦艦の『ヴァンガード』、日本から返還された改クイーン・エリザベス級戦艦、その際、名称変更された『エジンコート』『エリン』、そして初代キング・ジョージ5世級改造の『センチュリオン』は、白波を蹴って見事な回頭を見せる。


撃てファイア!』


 7隻の戦艦の40.6センチ砲、『ヴァンガード』の38.1センチ砲、『センチュリオン』の34.3センチ砲が、異世界帝国戦艦に吸い込まれる。


 爆発、水柱、装甲が弾く音など、それぞれの結果を見届ける前に、オリクトⅡ級戦艦も三連装四基十二門の主砲を発砲した。

 地球の主力戦艦が、側面方向に全砲門を向けられるのに対して、異世界帝国のオリクト級は、前方に全砲門を指向できる。


「どちらが艦隊練度が上か、勝負といこう」


 フレーザーは好戦的な笑みを浮かべた。単縦陣は、前の艦艇についていけばよいという比較的やりやすい隊形だ。

 もちろん、細かなところで気をつけねばならないことは多々あり、一斉に回頭するとなると、それなりに合わせも必要だ。しかしそれを気にせず、ただついていくだけでよいならば、比較的、共同で艦隊運動をしていない者同士でも、何とか合わせられる。


 しかし、横陣となると、真っ直ぐ航行している間はよいが、回頭、機動の際にその隊形を維持するのが難しくなる。とくに内側のフネが速度を落とし、外側のフネほど速度を上げねばならず、一斉回頭時の隊列維持は一定の技量を求められる。

 イギリス戦艦の機動に合わせると、異世界帝国戦艦は一斉回頭をし続けなければ、全砲門を正面に向けられなくなる。一方のイギリス側は、ひたすら先頭に続いて旋回を続けても、全砲門を敵に向けたままでいられる。


 もし異世界人が、正面にこだわらず、同航戦を選べば、側面の主砲一基が射角がとれず、使用できなくなるのだ。


「反航戦をとることはないだろう」


 敵は必ず、イギリス艦隊と同じ方向へ艦首を向ける。反航戦の場合は向けられる砲が限られる上、距離が離れると艦首側の主砲も射角がとれなくなるからだ。

 敵の取り得る機動を先読みしつつ、イギリス戦艦群は、砲撃を続行する。


 はじめは横陣にこだわっていた異世界帝国戦艦だったが、イギリス戦艦がその周りを半周したあたりで、隊列維持ができなくなりつつあった。

 被弾による損傷したオリクトⅡ級が1隻、2隻と、周囲の艦と速度を合わせられなくなり、歪に陣形が崩れはじめたからだ。


 敵将も横陣は諦めて、同航戦へと陣を移行した。この間、被弾はすれど、主要装甲が致命傷を拒み、脱落した艦は、舵が故障した1隻のみ。速度が若干落ちているが、まだまだ25ノット以上を発揮している。


 一方のイギリス戦艦だが、こちらも無傷とはいかなかった。旗艦『ライオン』も被弾し、高角砲群がやられ、他艦艇も損傷が相次いだ。

 そして最後尾の『センチュリオン』が大破、洋上にほぼ停止状態で脱落した。やはり改造されたとはいえ、13.5インチ砲対応装甲の旧式では、オリクトⅡ級の主砲には耐えきれなかった。

 だが――英軍将兵の士気は、なおも挫けることなく血気盛んであった。


 そして、新たなプレイヤーが、戦場に介入する。


閣下サー、友軍より通信。『我、ドイツ大洋艦隊、貴艦隊を援護す』」

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