第788話、日本海軍 対 異世界帝国前衛群


 ムンドゥス帝国前衛・第四群は、日本海軍の水上打撃部隊を目指して西進していた。

 護衛すべき上陸船団を失い、さらに遮蔽部隊――T艦隊の奇襲により、空母群を失った。残っているのは戦艦を中心とする水上打撃部隊。この戦力で、正面にいる日本海軍と戦わねばならない。


 指揮官、ウォークス中将は、ほとんど喋らず、じっと日本艦隊がいるであろう正面を見据えている。


「……」


 内心では、怒りと苛立ちが募り、口を開けば八つ当たりの言葉が出てしまいそうだった。元より短気な傾向にあるウォークスは、それを自覚していたからこそ、今は耐えの一手だった。


 現在、第四群と同じく、船団も空母も失った第五群が、第四群に合流すべく急行中である。

 第一戦闘軍団の総大将たるパニスヒロス大将は、第四、第五群で、目の前の日本艦隊を叩いたのち、第三群と合流するよう命じられた。

 故に、航空機のカバーがなくとも、逃げるわけにもいかなかった。


 第四群は、T艦隊の奇襲もあって、戦艦14、重巡洋艦11、軽巡洋艦13、駆逐艦44という戦力だ。

 対する日本海軍の水上打撃部隊は、偵察機によれば、戦艦約20、空母3、大型巡洋艦10ほど、重巡洋艦20、軽巡洋艦25前後、駆逐艦50から60という報告が入っている。


 最初からわかっている艦隊だが、上陸船団を破壊した航空部隊は別であろう。さらに第五群を攻撃したのも、目の前の日本艦隊ではない。


「気がかりは、航空機による横やりか」


 ウォークスは呟く。

 現状の戦力、第四群のみでは、日本海軍と砲撃戦になった場合、不利である。戦艦、巡洋艦、駆逐艦、どれをとっても第四群よりも数で勝っている。

 急行中の第五群が合流すれば、数の劣勢は覆るのだが、それは航空攻撃を抜いた話である。


 空襲を受けて、第四群、もしくは第五群のどちらかを撃滅するだけで、残る艦隊も日本海軍の戦艦部隊によって苦戦を強いられるだろう。


「ここは、合流を優先すべきだろうか……?」


 口に出してみたものの、正直悩みどころである。こちらが合流を図ろうとすれば、日本軍はそうはさせじと仕掛けてくるのではないか?

 その場合はおそらく空襲だろうが、それを受けた後、敵戦艦部隊と交戦できるだけの戦力が残るだろうか。


 空母が自分の艦隊にいないというだけで、こうも不安を掻き立てられる。そのことが、ウォークスをさらに苛立たせた。

 そこへ、通信士官が参謀に何事かを報告した。ウォークスが視線を向ければ、通信参謀がやってきた。


「長官、第一群から、軍団司令部宛てに緊急通信が発せられたのを傍受しました」

「第一群?」


 ウォークスは反射的に鼻をならした。あの鼻持ちならないカログリアの第一群と聞いて、自然と眉間にしわが寄った。


「あれは、何と?」

「はっ、英軍との交戦中に、敵航空機の奇襲を受けたとのこと。空母、上陸船団共にかなりの損害が出ているようです」

「はん、そうか」


 ウォークスは、ざまあみろと声に出したくなるのを堪えた。普段の言動がいけないのだ。バチが当たったのだと、同僚の不幸を笑いたくなる。


「確か、第一群が相手をしていたのは、イギリス……だったか? 日米に比べて、空母航空隊が貧弱だと聞いていたが、後れを取ったのか」

「は……、それが第一群を襲った航空隊は、どうやら日本軍のようで――」

「何だと!?」


 日本軍――おそらく空母航空隊だろうが、それがこの海域より遥かに遠い北方の第一群を攻撃している。

 日本の水上打撃部隊はこちらにいるから、空母機動部隊もまた、この辺りで機会を窺っていると思っていたが、どうやら健在な空母や上陸船団を叩く方を優先していたようだ。

 この距離をどう稼いだか……。おそらく転移であろう。ともあれ、第四群は空襲を受ける可能性がほぼなくなった。


「しめた。この時間で航空隊を放ったということは、今日はこちらに空襲を仕掛ける余裕はないだろう」


 夕方となり、直に夜となる。敵が第一群に攻撃隊を差し向けたならば、目の前の日本艦隊との砲撃戦に集中できる。時間から見れば、夜戦となる。


「よし、第五群との合流を急がせろ。我が第四群は、第五群と共同し、日本艦隊を砲撃戦にて撃滅する!」


 ウォークスは宣言した。



  ・  ・  ・



 その少し前、前衛艦隊五個の中で、一番北に位置する第一群は、正面のイギリス艦隊との接触に向けて進撃していた。

 攻撃隊によって痛打し、残存戦力を戦艦部隊による砲撃戦で決着をつける――第一群司令長官、メリサ・カログリア中将はそう考えていた。


 何ら特別なことはない。

 正しい物量の使い方。王道でねじ伏せるは、偉大なるムンドゥス帝国の戦い方だ。

 しかし、彼女の思惑は、航空攻撃が極めて不成功に終わったことで、頓挫してしまう。


 事前の情報と違う結果。英軍空母の艦載機は、第一群空母航空隊の半分以下――その想定で放った攻撃隊は、多数の戦闘機に取り囲まれ、ほぼ壊滅してしまった。

 それで敵に与えた損害は、ほとんどなかったというのだから、完璧を求めるカログリアは爪を噛んだ。

 カモー参謀長は言う。


「敵防空網はかなり厚かったようですな。しかし、逆にいえば残っている敵航空隊はほぼ戦闘機のみとなりましょう。我が艦隊の足を止めることはできますまい」


 カログリアが頷けば、カモーは続けた。


「敵戦艦は索敵報告によれば9隻。我が艦隊は倍の20隻の戦艦があります。このまま艦隊戦を仕掛け、一気に撃滅しましょう」

「そうね。当然よ。このまま一気に――」


 言いかけた時、緊急報告が入る。


『対空レーダーに反応! 至近に未識別機、多数出現!』

「!?」


 それはあまりに突然だった。南方にいると思われた日本軍の航空隊――第二機動艦隊の奇襲航空隊が、第一群にその牙を突き立てた。

 紫電改二の殴り込みに、上空直掩機が蹴散らされ、流星改二が、転移誘導弾を第一群の空母群を撃ち込み、揚陸艦に爆弾を叩きつけた。


 シールドを張ったリトス級大型空母、アルクトス級中型空母は、転移弾によって大破、爆沈。500キロ爆弾が水平甲板を貫通し、揚陸艦は派手に吹き飛んだ。

 カログリアにとっては、悪夢の数分となった。何ら有効な手を打つ間もなく、第一群は第四、第五群と同様、航空戦力と上陸部隊を失ったのであった。

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