第787話、米航空隊の猛攻


 イギリス・カナダの連合艦隊が、異世界帝国前衛・第一群との航空戦を経て、お互いにその距離を縮めていた頃、いや、その少し前。

 アメリカ大西洋艦隊第6艦隊は、前衛第二群と熾烈な航空戦を繰り返していた。


 朝から続くその戦いは、まず異世界帝国側の上陸船団を半減させ、米側が一歩リードした。

 対する異世界帝国第二群が放った第一次攻撃隊は、米戦闘機と凄まじい対空砲火の洗礼を受けて、多くの機を喪失。それで上げた戦果は、空母『ボクサー』の大破と、数隻の護衛艦への打撃と駆逐艦2隻の撃沈。


 攻撃隊の規模にしては、物足りない。それだけ米艦隊の迎撃は洗練され、かつ苛烈であった。戦闘機の誘導も熟達のレベルにあり、また高角砲には、マジックヒューズことVT信管による命中率向上もあり、損傷機も増加した。


 攻撃不充分と見たムンドゥス帝国第二群指揮官、アール・モナホス中将は、第二次攻撃隊を編成、これを放ったが、ここから米軍の猛攻撃を受けることになる。

 攻撃隊の出撃の直後、予想より早い敵攻撃隊の空襲。その数およそ200機。第二群は残っている戦闘機を全て出して迎撃を行ったが、これらが交戦している間に、さらに別の攻撃隊250機が、第二群に殺到した。


 艦隊上空に残してあったヴォンヴィクス戦闘機二個中隊が迎え撃つが、米機の数は圧倒的だった。

 直掩のF6Fがヴォンヴィクスを黙らせれば、第二群に戦闘爆撃型F6F、ヘルダイバー艦爆、アベンジャー雷撃機が突っ込んできた。


「空母は防御シールドを展開!」


 モナホスは命じた。


「敵機は護衛艦の対空砲で迎撃!」


 それだけ米軍機の数は多かった。対空砲で落としきれず、空母が被害を受けるくらいならシールドで攻撃をやり過ごしたほうがよい。米軍には、シールドを破る武器はない。シールド強度を上回るほどの波状攻撃を受ければ話は別だが、大抵は10隻の空母に攻撃はばらけるだろうから、強度限界まで攻撃を受けることはないだろう――と、モナホスは考えたのだ。

 ……だがこの時、米海軍も対シールド兵器を戦線に投入していた。


 まず突撃をかけたのが戦闘爆撃機型F6F。日本軍から技術交換で得た無人コア搭載機は、護衛の巡洋艦、駆逐艦の対空砲火を潜り抜け――半数以上が撃墜されてしまったが、空母へ肉薄した。


 無人型F6Fは、新装備である対エネルギー弾頭付きロケット弾を六発を発射。日本軍ではE弾頭と言われるエネルギー弾だが、米軍も独自にそれを開発していた。

 F6Fの撃ち込んだロケット弾は、空母の防御シールドに着弾すると、その障壁のエネルギーを大きく消耗された。


 本来ならかなり耐えられるシールドも、三、四機の連続攻撃で、消滅してしまった。そして無防備になった空母に、ヘルダイバーの大型ロケット弾タイニー・ティムや、アベンジャー雷撃機が魚雷を見舞う。

 その攻撃により、3隻のリトス級大型空母が中破、アルクトス級中型空母が3隻大破、2隻沈没と、第二群の空母戦力の大半を喪失させた。


 第二群司令長官のモナホスは、この空母群の壊滅的被害に、上陸船団をやられた時、すでにこの攻撃の布石がされていたことに気づいた。


 護衛の駆逐艦の不足である。朝の第一次攻撃隊が、陸軍を載せた揚陸艦隊を襲った時、米軍は揚陸艦を守る駆逐艦も攻撃した。これは重要ターゲットへの進路啓開も含まれていたに違いない。


 が、そこで駆逐艦をそれなりに失った結果、どうなったか?

 答えはこれだ。残存する揚陸艦隊を守るべく、駆逐艦をさらに引き抜かねばならず、戦艦や空母を守る駆逐艦の数が減ってしまったのだ。

 それは対空砲火の弱体化をもたらし、米軍機に空母を取りつかせ、さらに撃破、沈没にまで追いやってしまった。


 万全の状態であったなら、敵の対シールド兵器の存在で被害は免れなかっただろうが、最悪でも空母の半分は残っていただろう。

 それが今や、戦闘可能空母は、リトス級大型空母が2隻のみだ。その艦載機は定数2隻で240機ではあるが、防空戦闘や二度の攻撃隊、その損耗で果たしてどれくらい残るか報告待ちとなった。

 特に送り出した第二次攻撃隊が、どれほど戻ってくるか、まったく不透明であった。


 だが、たとえどれくらい残っているかが判明したところで、おそらくもう航空攻撃を仕掛けるのはほぼ不可能だろう。

 第一次では上陸船団、第二次攻撃で空母をやられた第二群は、残存上陸船団を死守せねばならなかった。


 そのために戦闘機は全て、防空任務に振り向けねば多数の米航空隊の攻撃を凌ぐのは無理である。攻撃隊を出して、護衛に戦闘機を割くわけにはいかないのだ。


「問題は、敵空母が何隻残っているか、だ」


 モナホスの言葉に、参謀たちは押し黙る。第一次攻撃隊によれば、空母1隻を撃沈し、もう1隻に損傷を与えたと報告があったが、つまりは10隻中8隻が残っている。

 米海軍の新鋭空母であるエセックス級は100機程度の艦載機を搭載、運用できるとされている。それが最大6隻も残っている時点で、第二群の倍以上の航空機があることになる。


「しかし、敵攻撃隊にも被害は出ています」


 航空参謀は控えめに告げた。


「定数で図ることは難しいでしょう」


 米機も沢山撃墜した。それは事実だが、それでもこちらよりも残っている数が多いのは確実だろう。


「第二次攻撃隊が、どれほどの打撃を与えたか。……報告を待ちましょう」


 もしかしたら、第一次攻撃隊と違い、予想以上の大打撃を米軍に与えた可能性もあるのだ。



  ・  ・  ・



 第二群の放った第二次攻撃隊は、多数の米戦闘機の迎撃を受けて、第一次攻撃隊同様、道中の撃墜が相次いだ。

 異世界帝国のヴォンヴィクス戦闘機と米主力のF6Fヘルキャット戦闘機は、ほぼ互角。そうなると数の勝負となるが、米軍側は多数の戦闘機を以て、ヴォンヴィクスやエントマの拘束を抜けると、ミガ攻撃機編隊へ一撃離脱を徹底し、撃ち落としていった。


 結局、第二次攻撃隊も、米第6艦隊に辿り着けた機は多くなく、濃密な弾幕の中、次々に力尽き、わずかな機が攻撃を行った。

 その被害は、駆逐艦3隻撃沈破、軽空母『バターン』が直撃弾による大破炎上であった。


 肝心の正規空母級への損害はなし。それだけ米側の戦闘機の数が多かったのだ。

 それもそのはず、異世界帝国第二群は、米空母を正規7、軽空母2との認識だったが、それとは別に太平洋艦隊からの増援にマーク・ミッチャーの空母3隻、さらにウィリアム・ハルゼー率いる義勇軍艦隊の支援で空母9隻の戦闘機隊が、第6艦隊の防空に加わっていた。

 つまり、第二群、モナホス中将の倍近い数の空母と航空戦力が、同海域で活動していたのである。


「――まあ、無理矢理、間に合わせたんだがね」


 ブル・ハルゼーは、義勇軍艦隊旗艦『エンタープライズⅢ』から、第6艦隊、旗艦『モンタナ』のスプルーアンス大将にそう通信を入れた。


 義勇軍艦隊は、ホノルルでの空戦では、空母『エンタープライズⅢ』『サラトガ』他、軽空母四隻の六隻だったが、T艦隊が南米沿岸拠点攻撃の際にフォートゼーランディア(パラマリボ)で撃沈した空母『ワスプ』『レンジャー』、『ロングアイランド』を幽霊艦隊が再生し、九隻に増強されていた。


「こちとら、空母も艦載機も敵よりも上だ。レイ、ツープラトンと行こうぜ」

『承知した。……何なら航空戦の指揮をあなたに委ねてもいい』


 スプルーアンスは、頼れる先輩であり、親友であるハルゼーにそう返した。


「へっ、そいつは願ってもないが、あいにくとオレは、こっちの指揮官だからな。そっちの指揮は、このオレが信頼するお前に任せるぜ」


 第6艦隊と義勇軍艦隊の連携は、異世界帝国前衛艦隊・第二群への猛撃となり、襲いかかったのである。

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