第771話、新生アメリカ大西洋艦隊


 日本艦隊が大西洋に来る。

 その知らせは、圧倒的な敵に立ち向かわねばならない連合国各軍の士気に影響をもたらした。


 アメリカ軍、イギリス軍とその連合であるカナダ軍、他欧州亡命軍の将兵らは、百戦錬磨の日本軍の参戦を好意的に受け取った。

 特にアメリカ大西洋艦隊は、バックヤード作戦で日本海軍に大いに助けられており、他の部隊に比べて、戦いに希望を見出す者が相次いだ。

 それは、太平洋艦隊から大西洋艦隊に移ったレイモンド・エイムズ・スプルーアンス大将も同様だった。


「ここで日本軍の参加はありがたい。我々も新戦艦が間に合ったが、練度の面で不安もあるからな」


 スプルーアンスが率いる第六艦隊こと、大西洋艦隊の陣容は以下の通り。



●大西洋艦隊:第六艦隊:司令長官、レイモンド・A・スプルーアンス大将


戦艦:「モンタナ」「オハイオ」「メイン」「ニューハンプシャー」「ルイジアナ」

  :「アイオワ」「ウィスコンシン」「ミズーリ」「イリノイ」「ケンタッキー」

  :「マサチューセッツ」「アラバマ」

  :「コロラド」「ジョージア」「ロードアイランド」「デラウェア」

  :「ニューメキシコ」「アイダホ」


空母:「バンカーヒル」「ホーネットⅡ」「フランクリン」「タイコンデロガ」

  :「ランドルフ」「ワスプⅡ」「ベニントン」「ボクサー」

  :「バターン」「カボット」


大型巡洋艦:「アラスカ」「グアム」「ハワイ」

     :「フィリピン」「プエルトリコ」「サモア」


重巡:「ヴィンセンス」「クインシー」「ピッツバーグ」

  :「ニューオーリンズ「サンフランシスコ」「シカゴ」

  :「インディアナポリス」「チェスター」「ルイビル」

軽巡:「コロンビア」「サンタフェ」「バーミングハム」「モービル」

  :「ビロクシ」「ヒューストン」「マイアミ」「アムステルダム」「タラハシー」

  :「パサデナ」「トピカ」「ヒューストン」「ニューアーク」「バッファロー」

  :「オクラホマシティ」

  :「オークランド」「リノ」「フリント」

 駆逐艦×108

 護衛空母×9

 護衛駆逐艦×128



 米軍側も、異世界帝国の魔核を回収し、それを解析した結果、建造艦の早期完成や就役が可能となった。


 アイオワ級戦艦は、計画した6隻すべてが今年6月に完成。次級である6万トン級の新戦艦モンタナ級も5隻が7月までに完成した。

 エセックス級空母も新鋭8隻が揃い、大型巡洋艦であるアラスカ級もまた6隻が相次いで就役した。


 重巡に関しては、日本からレンドリースという名で返還された6隻が加わっているが、軽巡に至っては、新造のクリーブランド級や防空巡洋艦が揃う。

 戦艦18、空母10、大型巡洋艦6、重巡洋艦9、軽巡洋艦18隻、駆逐艦108と、数の上では強力な艦隊である。


 しかし、懸念もある。それは新造艦の乗組員の練度である。完成したばかりで、その習熟レベルが、果たして実戦で通用するのか怪しいのが割とあった。

 だが、空前絶後の大艦隊が東海岸に迫っている以上、それら新米を遠ざけている余裕もなく、使える戦闘艦艇は総動員の構えである。


 なお、今回は、カナダに移動しているイギリス海軍とカナダ海軍も、防衛に加わる。アメリカに異世界人の上陸を許せば、陸続きのカナダとて安全ではない。今後の進捗によっては、カナダに直接上陸してくることも考えられる。決して、他人事ではないのだ。


 その戦力は、日本が修理、改修した戦艦7隻、本国脱出した際の空母『インプラカブル』『ユニコーン』、大戦で貸与された護衛空母6、重巡洋艦10、軽巡洋艦6、防空巡洋艦8、駆逐艦31となる。


 戦艦7、空母8、重巡洋艦10と言えば聞こえはいいが、イギリス空母には珍しく81の艦載機を搭載できる『インプラカブル』はともかく、『ユニコーン』は航空機補修艦として作られた経緯もあって36機しか積めず、残りの護衛空母も30機未満、中には20機未満という有様で、航空戦力としては、戦闘機を中心とした防空戦闘程度にしか使い道がなかった。


 そしてカナダ海軍は、日本海軍からレンドリースされた軽巡洋艦4隻と、米貸与の護衛空母12隻、そして英駆逐艦17隻と、これまた異世界帝国の正規艦隊と正面から戦える戦力ではなかった。

 ぶっちゃけると、カナダ海軍は、イギリス艦隊の補助航空戦力という位置付けであり、やはり後ろにいる艦隊と言える。


 イギリス海軍のジョン・トーヴィー元帥は、非常にやる気はあるものの、アメリカサイドから言えば、この戦力ではどこまで頼りにしていいかわかったものではなかった。もちろん、まったく役に立たないということはないのだが、相手が異世界帝国の大艦隊である以上、楽観した気持ちにはなれなかった。


「しかしジョンブルたちは、何やら異様にテンションが高いようですよ」


 カール・ムーア参謀長が、憂慮を表情に出しているスプルーアンスに声をかけた。


「最近、あの国は日本から色々レンドリースされていますから、もしかしたら、今回の日本海軍の参戦で、追加の戦力が加わってくれるかもしれません」

「……だと、いいんだがね」


 スプルーアンスの友人である、日本海軍の伊藤 整一軍令部次長とは、最近会えていないので、その辺りのことを仕入れる余裕がない。


「間に合うのか?」

「わかりません。ただ、現状8倍以上の戦力差がありますから。日本海軍がどれくらい駆けつけてくれるかはわかりせんが、もう少しマシな戦力差になるのではないでしょうか」

「日本海軍は、インド洋でも大きな海戦をやっている。連合艦隊のすべてが来てくれるわけではない」


 スプルーアンスは事務的に言う。感情を込めるのを拒否するような響きだった。


「むしろ、ここからが大変だ」


 米、英、日。世界三大海軍強国の連合は、この上なく頼もしい一方、指揮系統、そして数倍の敵を前にどのような戦略をとるのか。さほど時間のないこのタイミングで、どれほどまとめることができるのか。

 敵は目の前だが、どこまで連携がとれるのか不安もまた大きかった。


「我々がとれるオプションは、どれくらいあるのか」


 陸上の飛行場から陸軍の重爆撃機部隊が、海軍に協力して敵を迎え撃つ。水上戦力の不足を補うために、使えるものは何でも使う。

 陸軍のパイロットたちにどこまで洋上航法ができるのか、また重爆の爆撃が艦隊相手に通用するのか、色々疑問もある。


「それでも、我々は陸軍の連中もアテにせねばなりません」


 諦めたようにムーアは告げた。スプルーアンスが頷いたその時、凶報が舞い込む。


「提督! 陸軍より緊急通信です! 異世界人の円盤が本土に侵入、各地で攻撃を受けています!」

「何だと……!?」


 ホワイトハウスを吹き飛ばした異世界帝国の円盤兵器。それが再び、米本土に襲来したのだ。

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