第763話、義勇軍艦隊の作戦
「第十五航空戦隊の索敵機が、オアフ島より出撃した艦隊を捕捉しておりまして――」
田之上首席参謀は、神明参謀長に状況を説明していた。
T艦隊旗艦『浅間』の司令部で、サンディエゴから撤退する異世界帝国軍――ゲラーン艦隊と、彼らが目指すハワイ諸島と、そこに展開する敵艦隊――南海艦隊についての情報が披露される。
逃走するゲラーン艦隊には、海防戦艦改装の封鎖戦隊が、遮蔽奇襲を反復しており、その戦力を漸減中。ハワイまでの道中は長く、じっくり日をかけて削ることができる。
それはそれとして、持ち駒作戦のために展開していた十五航戦――哨戒空母戦隊は、今はT艦隊に合流し、ゲラーン艦隊とハワイ方面の南海艦隊の動きに注視し、転移中継ブイの設置などで支援を行っている。
「ホノルルから出撃した敵は、戦艦10、空母15、重、軽巡洋艦合わせて20。駆逐艦50、タンカーを含む輸送船25隻が、北米方面へ移動しております」
サンディエゴから撤退する敵ゲラーン艦隊の燃料事情から、南海艦隊はその戦力の一部を引き抜き、タンカーを引きつれての出撃をしたようであった。
「それなりの規模だ」
栗田 健男中将は腕を組む。
「タンカー部隊をやられないよう、一個艦隊で護衛をしようというのだろう」
「贅沢な護衛ですな」
藤島航空参謀は、唇の端を吊り上げた。
「ですがその分、攻めるには厄介です。一個艦隊をどうにかしないと、輸送船に手を出せない。しかし戦艦も空母も、こちらの数を上回っていますから、まともにやればこちらも被害を覚悟しなくてはいけない……」
「かといって、合流されて燃料補給を許すというのも面白くありませんな」
勝浦航海参謀が言った。
「せっかく燃料不足で、その航路を限定できているのに」
「参謀長、この場合の最善手は?」
栗田は尋ねた。自分は海軍大学校に行っていないので、面倒な作戦は海大に行っている自分より頭のいい参謀に任せるというところがある栗田である。
「オアフ島を出た艦隊の目的が、撤退する友軍への燃料補給のためであるなら、合流するまでに、タンカー部隊を全滅させてやるのがいいかと」
つまりは、目的を果たせなくする。燃料を供給するタンカーがなくなれば、合流したとて、腹ペコの駆逐艦を増やすだけであり、ゲラーン艦隊にとっては何の足しにもならない。
「ですが、参謀長」
藤島が言う。
「輸送船だけをやる、というのは難しいですぜ? 航空攻撃は、空母艦載機で迎撃される――こちらの艦載機は遮蔽航空機じゃありませんからね。敵のど真ん中に転移して、『浅間』などの水上艦隊で殴り込みって手もあるでしょうが……」
「潜水艦部隊は、まだ攻撃していないだろう?」
神明が確認すると、田之上は頷いた。
「はい。今、護衛艦を削っているところなので、粗方片付けたら、十七潜水戦隊で仕掛ける予定でしたから」
T艦隊には、第六艦隊から外れた旧マ号潜水艦で編成された第十七潜水戦隊が、加わっている。
先日の、全潜水艦に防御障壁を装備させるとなった時、割と旧式が目立つマ号潜の近代化改装も行われた結果、T艦隊加入となったのだ。
「十七潜水戦隊で、艦隊の輸送船団を叩く。新たなマ式装備と、新戦術を加えれば、充分可能だ」
そのための装備込みの改装である。旧マ号潜水艦は、他部隊に比べて能力者が運用することでより威力を発揮する部隊であり、こと魔技研出身の神明にとっては、確かなビジョンがあった。
と、そこへT艦隊司令部に、来訪者が現れた。その面子に、栗田と参謀たちはギョっとした。
「ご無沙汰しております」
新堂 儀一中将――義勇軍支援部隊司令官と、その参謀長である樋端 久利雄大佐。そして――
「久しいな、ミスター・クリタ」
義勇軍艦隊前線司令官であるウィリアム・ハルゼー中将が、その参謀長を連れて現れたのだった。ルベル世界より帰還したハルゼーと面会したことがある栗田だったが、ここでの登場は、さすがに予想外であった。
・ ・ ・
「説明させていただきます」
樋端は、机の上にハワイ諸島、オアフ島と周辺海域の地図を広げた。
「我々は、オアフ島に駐留する異世界帝国艦隊を攻撃し、その戦力を撃滅致します」
真珠湾奇襲!
義勇軍艦隊は、ハワイの敵に攻撃を仕掛けようとしていたのだ。
ブルドッグのようにむっつり黙り込んでいるハルゼー。同じく黙していた新堂は口を開いた。
「この作戦については、軍令部の裁可をもらっている。日本海軍としても、アメリカにしても、ハワイに敵が居座っていると都合が悪い。だから、我々義勇軍艦隊が、これを叩く……というわけです」
アメリカは大西洋の敵の対応に忙しい。先のサンディエゴ海戦で、太平洋艦隊が大きな損害を受けた今、ハワイの異世界帝国の動向は厄介であった。
また日本海軍が英米を増援なりで支援をしようとするならば、このハワイの敵は排除しなければ難しかった。
その両者の都合を考えた時、どこに参戦すべきか悩んでいた義勇軍艦隊は、ここだと判断した。
しかし、ハワイに展開する敵――南海艦隊の規模は、義勇軍艦隊単独でどうにかなるものではなかった。
「第十五航空戦隊が、ハワイまで偵察してくれているので、現状の敵戦力についてわかっている分だけお伝えしますと――」
樋端は言った。
「戦艦36、空母20、軽空母25、重巡35、軽巡45、駆逐艦およそ250……。もちろん先日、出撃した輸送部隊込みの艦隊は除外してあります」
インド洋決戦の後で、この規模の敵がまだハワイにいると思うと辟易する参謀たち。しかも大西洋には、これよりも遥かに多い大艦隊が動いているというのだから、やっていられない。
「この戦力のうち、オアフ島近海に展開しているのが、軽空母15、軽巡15、駆逐艦90といったところです。それ以外の艦艇はホノルル近海にあって、半分が星形桟橋にて係留、残り半分が停泊しております」
「真珠湾に停泊しているわけではないのか」
栗田が呟けば、樋端は地図を指し示した。
「異世界帝国がハワイを電撃占領した際、真珠湾基地は攻撃を受けました。故に現在、真珠湾の施設は復旧工事のため、敵も外にいるわけです」
「なるほど」
「飛行場も最低限の復旧のため、ヒッカム飛行場以外は、ほぼ航空戦力は確認できませんでした。またオアフ島の各レーダーサイトも、現在使用不能状態にあります」
「自分たちで壊してしまったんだからな。まあ自業自得ってやつだ」
ハルゼーはニヤリとした。樋端は続ける。
「ハワイの施設はほぼ使えない。それ故、オアフ島周りに多数の警戒部隊を展開する必要があったわけです。そして我々は、その警戒部隊を突破し、停泊中の敵艦隊を攻撃します。つきましては、T艦隊にも航空部隊を提供していただきたく……」
「何でも、そちらの艦隊は、こういう基地襲撃のスペシャリストだというじゃないか」
ハルゼーは相好を崩した。
「うちらの航空隊だけじゃ手が足りない。ぜひ、力を貸してくれ。これはオレたちだけの問題じゃない。おたくら日本にとっても重要な問題だ」
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