第667話、タラント軍港空襲
イタリア南部タラント。
現在は異世界帝国によって支配された土地ではあるが、ここにはイタリア海軍の一大軍港があった。
第二次世界大戦当初、イタリア海軍の新鋭戦艦リットリオ級をはじめとした主力が拠点としていたが、実はこのタラント軍港、一度奇襲攻撃を受けていた。
異世界帝国との衝突がちらほら始まり出した世界にあって、イギリス海軍地中海艦隊の空母航空隊が、戦前より考案していた作戦を実施したのである。
結果は、当時存在するイタリア海軍戦艦全6隻中、3隻が大破着底。対するイギリスは攻撃機2機のみの喪失という一方的なものとなった。
このタラント空襲は、まだ米国を仮想敵国としていた日本においても、山本 五十六の真珠湾攻撃構想を後押しすることにもなった出来事とも言われている。
南アフリカに続き、欧州を席巻した異世界帝国は、イタリアを征服し、タラント軍港も自分たちの拠点として活用していた。
今現在、在泊しているのは戦艦は、旧式が4隻。空母は2隻、こちらは新鋭の『アクィラ』『スパルヴィエロ』で、水上機母艦は『ジュゼッペ・ミラーリア』の1隻。
軽巡洋艦13隻、装甲巡洋艦3、駆逐艦23ほか、小型艇、補助艦艇が複数である。
闇が晴れつつある早朝、軍港は静けさの中にあった。東の空が白くなり、間もなく日の出という直前、タラント湾に、遮蔽で姿を隠した彩雲改二が低空で突っ込んできた。
地中海に配置した転移中継ブイから、一直線に飛行してきたのだ。
「転移爆撃装置、起動!」
「了解」
時速650キロ超えのスピードを落としつつ、彩雲改二は、まるで雷撃をするように低高度を突っ切る。
「投下!」
新たな転移ブイが機体下から吐き出された。
水面を切るように一度、二度と弾んだ転移ブイは、軍港の外を守るように存在するサンピエトロ島とサンパオロ島という二つの小島の手前で、着水した。
「ブイ投下確認!」
最後尾の通信士が叫ぶと、機長は声を張り上げた。
「ようし、上昇! 待たせているお客さんを呼ぶぞ!」
彩雲は姿を消したまま高度を取り離脱。
一方、海に落ちた転移ブイから、艦艇が飛び出した。それは潜水艦だった。伊701、伊702、そして伊350潜水艦が出て、潜航しつつ湾の奥深くへ速度をあげて侵入を図る。
ついで、T艦隊空母の『雲龍』、『翔竜』、『雷鷹』が転移出現した。
「正面、タラント湾!」
「攻撃隊、発艦せよ!」
航空戦隊司令官、有馬少将の命令を受け、各空母の飛行甲板に展開していた艦載機が動き出す。
爆装した暴風戦闘機、雷装した業風戦闘機が次々にマ式レールカタパルトの上を走り、連続射出された。
日の出前のぼんやりした明るさの中、軍港のレーダー施設が、急に現れた航空機部隊を捕捉。異世界帝国レーダー員が椅子から飛び起きる勢いでビックリし、通報した時には、高速で突進してきた暴風戦闘機が、猛禽の如く襲いかかった。
主翼に搭載された5インチロケット弾が放たれる。湾内の小型船舶、警備艦がたまらず吹き飛び、軍港施設にも火の手が上がった。
軍港上空を、日本海軍の航空隊が乱れ飛ぶ。
「目標の空母を確認!」
翔竜戦闘爆撃隊の中隊長、佐藤 達治大尉は、僚機に指示を出す。
「青小隊、青1に続け! 空母に対してロケット弾攻撃を仕掛ける!」
魚雷対策の水雷防御網に守られた2隻の空母、1隻の水上機母艦が視界にある。暴風戦闘機は翼を翻し、ダイブを開始する。
作戦説明の段階で、敵の防空網は、かつてイギリスが仕掛けた時に比べて隙があると説明された。その大きな理由は、戦艦の周りを飛んでいた阻塞気球が浮いていないから。
この阻塞気球は、低空からの航空機の侵入を難しくさせ、特に急降下爆撃機に対してそこそこの威力を発揮する。
が、異世界帝国軍港守備隊は、地中海に敵がいないために空襲の可能性は低いとして、気球を用いる労力や人員をカットしていたのである。異世界軍後方部隊あるあるだ。
日本海軍の猛禽の鉤爪は、空母に襲いかかる。
標的となったのは、鷲の名を持つ空母『アクィラ』と、ハイタカを意味する『スパルヴィエロ』だ。
『アクィラ』は、客船ローマをイタリア海軍が空母に改装したものだ。
基準排水量、約2万3000トン。全長235メートル、全幅30メートル。艦載機およそ50機程度。日本海軍で言うところの飛鷹型より若干大きい艦だ。
戦争には間に合わなかったが、異世界帝国が完成させたものとなる。
なお、『スパルヴィエロ』も、客船ローマの姉妹船である『アウグストゥス』より簡易空母に改装されたものとなる。
こちらもまた異世界帝国に接収後、改装されたが、元のイタリア軍も『アクィラ』ほどの改装はされず、ほとんどの面で姉妹艦より劣る。唯一優れるのは燃費だけという有様であり、さらに本当に姉妹艦なのかと疑うレベルであった。
全長202メートル、全幅25.2メートルと一回り小型であり、『アクィラ』竣工の遅れに焦るイタリア軍は、実に簡素に『スパルヴィエロ』を改造した。
艦橋も飛行甲板の下にあるフラッシュデッキ型。飛行甲板の長さが足りず、独特の形状で距離を稼ぎ、全体としても軽空母といった性能だ。艦載機は25機。機関は客船事態のままで低速。カタログスペックでは最大20ノットとされたが、あまり信用できない。
ともあれ、数機の艦載機を飛行甲板に駐機させていた2隻の空母だが、それらが動き出す前に、ロケット弾が甲板を火だるまに変えた。
そして攻撃は、そのそばにいた『ジュゼッペ・ミラーリア』にも伸びた。
排水量5400トン。121メートルとやや大型の駆逐艦程度の長さと、軽巡洋艦並の艦幅の艦だが、水上偵察機と水上戦闘機を18機前後搭載する。
しかしこれらも艦載機を発進させる間もなく、被弾し炎上した。
先制攻撃は成功だった。
空母を攻撃する暴風隊とは別の暴風隊は、港湾施設と奥、巡洋艦、駆逐艦が列をなして並べられている場に突入し、さらに攻撃を仕掛けた。
ここにある艦艇は、エトナ級やカピターニ・ロマーニ級といった新しい巡洋艦を中心にイタリア海軍から鹵獲された小型駆逐艦があった。
エトナ級は、本来タイ海軍向けに建造されていた軽巡洋艦だが、イタリア軍が1941年に買収し、防空巡洋艦兼高速の輸送艦として完成させた。
基準排水量5900トン、全長153メートル。機関出力4万馬力28ノットと、イタリア海軍の船としては遅い。
主砲は対空射撃が可能な13.5センチ連装両用砲とし、他6.5センチ砲も対空用で揃えていた。
が、せっかくの対空砲も、身動きできないところに空襲を受けてはひとたまりもない。
征服されるまでに間に合わなかったカピターニ・ロマーニ級軽巡洋艦もろとも、日本海軍の空襲により大破、炎上する。
まさに為す術なし。密集しているために隣の艦の被弾、爆発によって飛散した破片が襲い来り、被害を拡大させた。
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