第660話、円盤退治のやり方
樋端から、円盤型飛行物体とその撃退方法について相談された後、神明少将は、その対処法について頭を働かせていた。
敵転移艦が装備していた転移装置を重爆撃機に載せるという案を出したもの、それが敵の襲来までに間に合うかどうかわからない。
魔技研の技術者に割り振ったものの、克服すべき課題もあって、口で言うほど簡単ではないのだ。
戦艦『諏方』改めて『武尊』が動けるかと神明が、志下大佐に確認したのは、三連光弾砲を装備したT艦隊の『八雲』が修理中、『浅間』が整備中だったからだ。
連合艦隊司令部が求める障壁貫通能力のある艦として『武尊』が使えるのを確認し、その砲を活用できる方法について彼は考えた。
しかし、いくら目標が小型巡洋艦並みの大きさとはいえ、高速で飛行する物体を艦砲で狙えるのか、という点で確信が持てず、航空隊でアシストすることで補うことにした。
もちろん、神明は上官である栗田中将にその旨を報告した。T艦隊に円盤迎撃命令は出ていないと栗田は正論を言ったが、連合艦隊司令部から出撃要請が来る可能性が高いと神明は返した。実際、山本長官の懐刀でもある樋端航空参謀が確認にきたことも告げる。
そうとなれば、栗田も急な呼び出しをくらうよりマシだと、神明の行動に許可を出した。
かくて、巡洋戦艦『武尊』、魔技研の試験航空隊と、第三航空艦隊の戦闘爆撃機隊に装備を用意させて、敵の襲来に備えた。
やがて、円盤はやってきた。
帝都近辺の防空隊が転移誘導弾を含む攻撃を仕掛けたものの、円盤はこれらに耐えてなお進撃を続けた。
九頭島より東京湾の転移ブイへ移動した『武尊』は、転移中継装置を活用し、航空機を呼び寄せた。
第三航空艦隊の暴風戦闘爆撃機隊と、転移誘導弾を搭載した流星改である。
「まったく、使えるものは猫でも使うのが神明さんだってのはわかってはいたが――」
T艦隊航空参謀の藤島少佐は、久しぶりに操縦桿を握り、テンションが高かった。
「まさか、オレに飛べというとはな」
航空参謀になる前は、飛行長をやりつつ、艦攻乗りとしてしばしば飛んでいた。腕のほうもそう鈍ってはいないという自覚はある。
「そしてまさか、またお前と飛ぶことになるとはな、種田ァ!」
「本当、相変わらず声が大きいですねぇ、少佐!」
流星改の後座に乗るは、かつて九七艦上攻撃機に乗っていた頃にも組んでいた種田少尉だった。九頭島海軍魔法学校卒の女性で、あどけなさが抜けない能力者である。今は、魔技研の試験航空隊にいる。
「元気にしていたか?」
「おかげさまで。……でもまさか、また少佐と同じ機体に乗るとは思ってみませんでした!」
「オレもだ! まあ、あの人に付き添って説明を聞きにきたのが運の尽きってやつよ」
神明が、とある仕様の誘導弾について説明するために、試験航空隊を訪れた際、円盤対策と聞いて藤島も航空参謀として同行したのだ。
そうしたら、その円盤が来てしまい、調整された誘導弾と、その説明に試験航空隊側で参加していた種田ともども、巻き込まれることになったのだ。
「付け焼き刃であるが、大丈夫なんだろうなぁ種田ァ?」
「そのつもりです! というか、少佐も気をつけてくださいよ。位置を間違えると当たりませんよ!」
「おう! 任せろ!」
流星改は、東京に迫る敵円盤と高度を合わせる。
一方で、暴風戦爆隊は、敵よりやや上方を取るべく上がっていく。指揮官機を除けば、無人コアによる操縦で、その編隊は一糸乱れぬ完璧なものがあった。
――整い過ぎて気味が悪いぜ。
生身の感覚というべきか、ただの金属の塊にしか感じられず、藤島は無人機に対して鼻をならす。
一定範囲を旋回しつつ、東京湾に浮かぶ巡洋戦艦『武尊』を見下ろす。
あの円盤を
――用意周到なのだ。あの人は。
視線を正面に戻すと、いよいよそれが現れた。
『敵円盤、高度3000、速度250ノット、変わらず』
「おいでなすったな!」
藤島はニヤリとした。
水平線の彼方に、黒い点がポツリと現れる。それはみるみる大きくなる。
「デケぇ……。こんなものが本当に空を飛べるのかよ……」
これでは艦砲が必要という空気にもなる、と藤島は思った。
巨大円盤は向かってくる。敵も針路上に日本軍航空隊が飛んでいるのを確認しているだろうし、海面の大型艦艇も視認しているだろう。
帝都につくまで攻撃は控えるか。それともそろそろ攻撃してくるだろうか?
「というか、こっちの誘導弾一発で、落とせるのかね、これは」
・ ・ ・
巡洋戦艦『武尊』は、飛行する巨大円盤の針路からややズレた位置に停船していた。
艦長の尾形 七三郎大佐は、改修の終わっていない艦を前線に動かすことに不安を持っていた。しかも新装備を備え、それに対する訓練や実際の効果について不明な点が多いのも不安の一因であった。
海軍兵学校46期。1期上の神明に対して、兵学校での印象はほとんどない。だから着任してからの話しか知らないのだが、魔技研絡みで、海軍随一の魔法装備通であり、実戦では有言実行の闘将であるという評判を耳にしていた。
実際に会った神明の印象は、物静かで、あまり喋らない印象だったが、質問すると割と多弁になる。冷たい人かと思えば、話せば意外と話せる人であった。
だが、平然と艤装の終わっていない艦を戦闘に引っ張り出そうとするのは、ある意味狂気を感じた。
しかし文句は言わなかった。神明がこの『武尊』を動かそうとしているだけならまだしも、連合艦隊司令部も、この艦を実戦に出すようにと、樋端参謀を送り込んできたからだ。
「……少将、本当にやるつもりですか?」
尾形は問うた。ここでは神明は、T艦隊参謀長ではなく、日本海軍少将としているので、間違っても『参謀長』とは呼ばない。
「光弾主砲で、円盤を撃ち落とすなんて」
「艦長、君もこの『武尊』の主砲の旋回、俯仰速度は知っているだろう?」
神明はしれっと言うのである。この『武尊』の砲塔旋回装置は、従来のものと異なる新型の魔法式を採用していた。結果、1500トンを超える砲塔を、新型高角砲並みの旋回性能を与えた。
実戦では、速射傾向にある光弾兵器である。速射性能を活かすなら砲の旋回・俯仰性能を上げ、少しでも早く狙いをつけようと研究、開発されるのも必然と言える。
それに――
「通常の砲であれば、無理だが直接照準した場所に当たる光弾砲であれば、狙いさえつければ、当てられる」
まあ、狙いをつけられるか、という問題はわかる――と神明は告げた。
「とはいえ、不安はわかるよ、艦長」
「はあ……」
「空からも
神明の目が光った。
「敵は10メートル程度の航空機ではなく、直径150メートルの巨大な的が標的なんだ。当ててほしいな」
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