第621話、T艦隊、湾港突入せり


 ムンドゥス帝国ニュージーランド駐屯軍にとって、日本軍の襲撃は、まったくの想定外だった。

 当初、この島を制圧した時、島には防衛用の砲台施設などがあって、それは攻撃を受けているウェリントン港やオークランド港の周辺にもあった。


 ミラマー半島のカウポイント、バランス砦など、水路や内港に向けた大砲はあったが、整備されたのが1885年、当時拡大していたロシア帝国に対する防衛のためのものであり、つまるところ旧式もいいところであった。


 占領後のムンドゥス帝国駐留軍は、港や飛行場の整備はしたが、防衛施設の復旧についてはほとんど手をつけなかった。

 当時、最前線がどんどん動き、兵站や装備負担の軽減のため、後方になる施設へと武装化、防衛能力強化はおざなりの傾向にあったからだ。


 さらにオーストラリアという大陸が前線である以上、ニュージーランドの駐屯軍は、その後方拠点としての活動しかしてこなかったのである。

 結果、オーストラリアが健在なうちに、ニュージーランドに日本軍がやってきてしまい、現地では泡を食っている始末であった。

 T艦隊第一部隊は、ウェリントン港へ侵入を果たした。


「正面、マティウ島!」

「取り舵30。左砲戦。目標、ウェリントン港の敵戦艦!」


 旗艦『浅間』が左へ舵を切り、艦首の主砲を左へ指向する。港に停泊する異世界帝国艦艇は、軒並み艦橋などの艦中央の構造物を攻撃され、火の手を上げている。

 司令長官の栗田中将は、炎上する敵艦を見やる。


「航空隊の先制が聞いているな。だが、撃沈するまでには至っていない」

「あくまでロケット弾攻撃が中心ですからな」


 藤島航空参謀が双眼鏡を覗き込む。


「魚雷は浅い海底に刺さってしまうでしょうし、誘導弾もありません。航空攻撃で撃沈は難しいでしょうな」


 基本的に、小型の爆弾やロケット弾では、大型艦艇にダメージを与えることはできても、撃沈は難しい。

 魚雷で喫水線下に穴を開けて、浸水による沈没を狙うとか、大型爆弾や誘導弾による重要区画内での爆発、誘爆で船としての機能を奪えれば、話は別だが。


「だからこそ、戦艦でトドメが必要なんですな」


 航空戦艦『浅間』の40.6センチ三連光弾三連装砲、二基六門が、ロウソクのように艦橋を燃え上がらせている敵主力戦艦へと向く。動き回るには広いとは言えないウェリントン港内。その距離は3000メートルもない。

 必中の距離である。弾道がほぼ直進する光弾砲である。


『浅間』の主砲が瞬いた。一瞬の間に一つの砲門から3発。三連装砲だから9発。そしてそれが二基なので、18発の40.6センチ光弾が、標的となったオリクト級戦艦に殺到した。

 次の瞬間、重装甲が売りの5万トン級戦艦が、爆竹のごとく吹き飛んだ。


 一隻の巨艦の爆発は、すぐ近くに停泊していた駆逐艦数隻を巻き込み、二次被害を発生させる。

 たとえ防御シールドを張っていようとも貫通するようにできている三連光弾だ。それが直に一斉射当たれば、その威力は恐ろしいことになる。


「敵戦艦1、爆沈!」

「次の目標、右の戦艦!」


 艦橋を燃え上がらせ、指揮系統が麻痺している敵戦艦は、港内に入ってきた日本軍への迎撃すらままならない。

 生き残った最上級士官が、何とか指揮権掌握し、動かせるところから動かそうと努力しているのをよそに、『浅間』の主砲はピタリと次の戦艦に向けられた。


 そして光弾が注ぎ込まれる。『浅間』の主砲が瞬くたびに、標的となった艦は、装甲を抉られ、艦内の設備を破壊され、そして吹き飛んだ。

 先頭の旗艦が、大型艦への射撃を続ける一方、後続の重巡『愛鷹』も、20.3センチ三連光弾三連装砲を発砲。

 こちらも障壁貫通砲であり、被弾、損傷している重巡洋艦、もしくは軽巡洋艦に引導を渡していく。


 軽巡洋艦『奥入瀬』は、15.2センチ光弾砲を主砲に持つが、こちらは障壁貫通機能はない通常砲だ。だが艦全体に10門を備えた光弾砲を振りかざして、敵駆逐艦や輸送船舶などを狙い撃つ。


 また、起動が早かった敵駆逐艦が動き出せば、駆逐艦『朝露』と『夜露』が艦首の15.2センチ単装光弾砲を撃ち込んで黙らせる。


『朝露』と『夜露』は、敵が使用していた鹵獲艦の改修艦である。

 ドイツのZ23級の駆逐艦がそれで、基準排水量2600トン、全長127メートルの艦に、軽巡洋艦の主砲である15センチ砲を搭載したのが特徴の艦だ。


 これを日本海軍は、マ式機関への換装と主砲の換装など、改造を施した。艦首は15.2センチ光弾砲。艦尾側は、12.7センチ連装高角砲二基を装備としており、前方への突撃に軽巡級の砲を使い、後方の砲は対空・対艦双方で活用できる一式障壁弾が使える砲としていた。


 敵駆逐艦に対して、『朝露』『夜露』は15.2センチ光弾砲で直射。異世界帝国駆逐艦は艦首砲もろとも艦橋を撃ち抜かれて、ガクンと力が抜けたように遅くなる。さらに2発、3発と撃ち込めば、装甲がないに等しい駆逐艦は船体内をズタズタにされて、やがて沈んでいった。


 戦いは、一方的だった。

 真っ先に反撃するだろうウェリントン飛行場は、一式陸攻の猛爆を受けて使用不能。航空戦艦『浅間』、重巡洋艦『愛鷹』の砲で、指揮系統がやられた戦艦、空母にトドメを刺された。


 港内の異世界帝国艦は死屍累々の有様であった。底についた沈没艦のマストがわずかに突き出ていたり、残骸が浮かんでいたりする中、日本艦隊は淡々と仕事をこなし、あらかた敵艦の破壊に成功した。

 主要な港をはずれた位置にいた魚雷艇が島影にいたが、上空直掩にいた紫電改二が降下、両翼の光弾機銃の斉射で穴だらけにし、撃沈した。


「作戦終了だな」


 栗田は、港内の大型艦艇が全てスクラップになったのを確認し、神明を見た。


「長居は無用だな。次の攻撃目標に移動しよう」



  ・  ・  ・



 T艦隊第一部隊が、ウェリントン港を叩いている頃、T艦隊第二部隊は、北島の北部オークランド港へ突入した。

『雲龍』『雷鷹』の2空母から、暴風戦闘爆撃機が一斉にマ式カタパルトで連続発艦。

 さらに旗艦である航空戦艦『八雲』の転移中継装置で、第三航空艦隊航空隊が呼び出される。


 業風戦闘機27機、零式艦上戦闘機五三型18機、暴風戦闘爆撃機36機、九九式戦闘爆撃機27機、そして九六式陸上攻撃機19機が、オークランド港に停泊する異世界帝国艦隊への空爆を開始した。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

・朝露型駆逐艦:「朝露」

基準排水量:2629トン

全長:127メートル

全幅:12メートル

出力:マ式機関8万馬力

速力:38.7ノット

兵装:15センチ光弾砲×1  55口径12.7センチ連装両用砲×2

   61センチ四連装魚雷発射管×1 対艦誘導弾三連装発射管×1

   艦首53センチ魚雷発射管×2 対潜短魚雷投下機×1

   20ミリ三連光弾機銃×4 誘導機雷×20

航空兵装:――

姉妹艦:「夜露」「雨露」「露霜」「風霜」「水霜」

その他:異世界帝国軍に使用されていたドイツ海軍、Z23型駆逐艦を改修した駆逐艦。艦首の15センチ砲を光弾砲に換装。突撃時の砲撃力に期待される。マ式機関に換装、水中航行能力を有する。

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