第622話、炎上、ニュージーランド
オークランド港で起きたことは、ウェリントン港で起きた悲劇の再現だった。
先制攻撃を仕掛ける日本軍航空隊により、港内の艦艇は艦橋辺りを狙われて、戦闘能力を奪われた。
近くにあるオークランド基地から、空中警戒のヴォンヴィクスの小隊と、緊急発進したエントマ戦闘機の小隊が迎撃に向かおうとしたが、第三航空艦隊の零戦五三型と爆撃を終えた暴風戦闘機が襲いかかり、瞬く間に制圧された。
そして九六式陸上攻撃機部隊による空爆が、オークランド基地の滑走路や航空設備を破壊し、これを無力化する。
航空隊が嵐のように、各所に停泊している艦艇と港湾施設を叩いた直後、第二部隊本隊が、砲撃を開始した。
●T艦隊第二部隊
・航空戦艦 :「八雲」
・空母 :「雲龍」「雷鷹」
・大型巡洋艦:「筑波」
・重巡洋艦 :「大笠」
・駆逐艦 :「雨露」「露霜」「細雪」「氷雪」「早雪」
例によって、空母2隻と護衛の駆逐艦『細雪』『氷雪』『早雪』を残し、残る5隻で、港へ突入した。
航空戦艦『八雲』を先頭に、『筑波』『大笠』『雨露』『露霜』が一列、単縦陣で進む。すでに爆撃で損傷した異世界帝国艦艇に対して、第二部隊はそれぞれの主砲を放り込んだ。
40.6センチ光弾、30.5センチ砲弾、20.3センチ光弾、15.2センチ光弾が、艦の装甲を穿ち、爆発する。
炎上を消火する一方、異世界帝国軍クルーたちが何とか砲を動かし反撃しようとする。艦橋を失い、統制射撃能力がなく、個別で砲塔を旋回させるが、狙いを定めるのに難儀している間に、日本艦からの攻撃が突き刺さり、命を絶たれる。
異世界帝国兵も決して無抵抗だったわけではなかったが、在泊艦艇のほぼ全てが艦橋を失い、復旧や指揮権掌握でもたついてしますのは仕方のないことであった。
が、それが致命的だった。
逆に日本軍は航空攻撃から艦隊攻撃とスムーズに事が運んだ。
航空隊が、米軍からの供与弾薬であるロケット弾や、在庫にあった小型爆弾ばかりを装備していたので、最初から空母や戦艦を撃沈できないと理解していたことも大きい。彼らはのちの突入する水上打撃部隊のために、敵艦の艦橋を狙うことを徹底した。
……もっとも、T艦隊航空隊も第三航空艦隊も、機体の大半が自動コアの無人機だったから、欲を出す者もおらず、忠実だっただけともいう。
ともあれ、奇襲を成功させたT艦隊第二部隊は、中型空母5、戦艦4を含む敵艦隊をオークランド港に浮かぶスクラップに変えた。無傷の異世界帝国艦がないのを確認すると、転移離脱にかかった。
その移動先は、第一部隊との合流地点を兼ねたタウランガ港――異世界帝国軍の輸送艦とその護衛艦艇が在泊している場所。
タウランガ港の海への入り口そばにあるマウンガヌイ山は、標高は低いが非常に目立つ一種のランドマークである。
ここはニュージーランドでも有数の物資を扱う港であり、異世界帝国もまた輸送艦がよく利用する拠点としていた。
そこに、T艦隊が現れた。艦艇と航空隊による攻撃は、輸送艦をあっという間に炎上させ、護衛の駆逐艦を血祭りに上げた。
異世界帝国のニュージーランドに停泊していた艦隊は、オーストラリアへ向かうこともなく、港にその鋼鉄の屍を晒すこととなった。
だが、ニュージーランドにはまだ、現地防衛戦力が残っていた。
・ ・ ・
T艦隊旗艦『浅間』の艦橋に、索敵機からの報告が入る。
『異世界帝国艦隊を発見。構成艦は鹵獲艦が中心の模様。タウランガ方向へ移動中!』
この知らせに、栗田中将は眉をひそめた。
「外に出ていた部隊がいたか」
「鹵獲艦隊ということは、ニュージーランドかオーストラリア海軍の
神明参謀長は言った。情報参謀の白城少佐が続報を持ってきた。
「そのようです。インディファティガブル級巡洋戦艦1、水上機母艦……おそらくオーストラリア海軍の『アルバトロス』でしょう。ケント級重巡洋艦2、リアンダー級軽巡洋艦2、バーミンガム級軽巡洋艦1、パラス級防護巡洋艦1、他駆逐艦5――」
「インディファティガブル級、それに防護巡洋艦だと……?」
栗田は驚いた。防護巡洋艦といえば、重巡洋艦、軽巡洋艦と類別されるより古い艦種だ。旧式過ぎて、正直負ける要素がない。
インディファティガブル級は、イギリス海軍が建造した巡洋戦艦で、主に第一次世界大戦で使われた艦だ。
世界初の巡洋戦艦インヴィンシブル級の改良型であり、全長179メートルの艦体に45口径30.5センチ連装砲を四基八門を搭載。その速力は25ノット前後を発揮する『当時』としては高速の艦だった。
なおネームシップの『インディファティガブル』は、かのユトランド海戦で、あっけなく轟沈した英国巡洋戦艦のうちの1隻である。あまりの脆弱性に、以後の戦艦の装甲が大きく見直された一端だったりする。
白城は口を開いた。
「インディファティガブル級巡洋戦艦は、オーストラリア海軍、ニュージーランド海軍に1隻ずつ配備されていました。今回現れたのは、ワシントン軍縮条約によって廃棄が決まり、自沈処理されていた『オーストラリア』と思われます」
異世界帝国は、それをサルベージして現地兵力に組み込んだようだった。英連邦に属するオーストラリア、ニュージーランドだから、その海軍も英国系で構成されているのだ。
「よくもまあ、そんな旧式艦で……」
さすがの栗田も、発見された敵艦に老朽艦どころか廃棄されたものまで混じっていると聞いて、言葉少なだ。
とはいえ、ケント級重巡やリアンダー級軽巡など、現代でも通用する艦艇もある。
「まともに戦えば、負けないだろうが……。どう思う、参謀長?」
向かってくるなら迎え撃つべきか。それとも当初の目的を果たしたと判断して撤収するか。
これまでの栗田であれば、任務は果たしたのだからと後者を選んでいただろう。しかし、作戦が思いのほか上手くいき、しかも現れた新手があまりに弱敵過ぎて、判断に困ったのだろう。
そして司令長官が即撤収を選ばなかった時点で、神明は自身の考えを口にした。
「せっかくです。洋上襲撃の実践といきましょう」
個々の訓練はしているが、艦隊での連携戦闘については経験に乏しいT艦隊である。神明は、艦隊練度向上として、この敵を利用することを提案した。
実戦を訓練の場と見るのは侮りが過ぎるのだが、彼我の戦力を比較した時、T艦隊の得意とする先制攻撃ができたなら、万に一つも負ける要素が見当たらないのもまた、事実であった。
あとはそれを間違いなく遂行できるか。神明の関心はそこにあった。こんなところでつまづいてくれるなよ、というのが彼の本音だった。
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