第620話、ウェリントン、奇襲


 南東方面艦隊に、T艦隊の任務である転移中継ブイの設置、ニュージーランド方面の作業をやってもらっている間、艦隊に戻った神明参謀長は、栗田 健男中将に南東方面艦隊の作戦について説明した。


 T艦隊も、ニュージーランドに駐留している敵機動艦隊が動き出さないうちに先手を撃つ作戦に加わる。

 航空攻撃に続き、水上艦艇による追い撃ち――それを聞いた時、栗田は眉をひそめた。


「艦隊で港内に突入する……。機動できるほどの広さはあるのか?」


 南東方面艦隊司令部から預かった写真で、ウェリントン港とオークランド港を見る栗田は、それぞれをなぞった。


「高速で乗り込むのは難しい。特にオークランド港は高速反転している余裕もなさそうだ……」


 ベテランの船乗りである栗田は、言うは易く行うは難しの典型だと告げた。神明は答えた。


「先制して飛び込むのは航空隊ですから、敵が右往左往している間に忍び寄り、動ける艦艇に砲撃を撃ち込みます。速度については臨機応変ですが、ウェリントン港はともかく、オークランド港は反転する必要もありません」


 スペースがないなら奥まで侵入した後、転移ブイのところまで転移すればよいのだ。それならば反転離脱で、もたもたしている所を攻撃されるということもない。


「狭隘な場所に乗り込むのは、あまり気乗りはしないがね」


 栗田は慎重だった。


「砲台の一つでも狙われたら、避けようがない」

「そこは防御障壁で防ぎつつ、艦載機に潰させるしかないですね」


 砲台がない、とは神明は言わなかった。さすがにそこまでの正確な情報はない。だから、仮にあったとして、どうなのかを答えたのだ。

 航空参謀の藤島少佐が、オークランド港の写真をとる。


「このオークランド港は、突っ切るしかルートはなさそうですが、この港湾施設で対岸が覆われていれば、砲台もないでしょうな」

「気をつけるのは、停泊艦の備砲くらいですかね」


 田之上首席参謀が言った。


「第八艦隊は、使えないんですよね? 我々が突っ込まないといけない、と」

「そういうことだ」


 神明はきっぱり告げた。

 第八艦隊は、お号作戦のための即席部隊であり、空母を除いた水上艦艇は、大型巡洋艦『早池峰』を除けば、軽巡洋艦3、駆逐艦3の弱体部隊である。その火力は心もとない。


「我々が乗り込んだ時には、残っている敵艦は防御障壁を展開しているだろう。だが、それはつまり敵は撃てないが、こちらはその障壁を貫通することができる。むしろ一方的に撃てる」


 それに、と神明は続けた。


「南東方面艦隊は、我々の代わりにニュージーランド近辺の転移中継ブイの投下をやってくれている。借りは返さないと、後が面倒だ」


 神明が視線を、栗田に向ける。指揮官は腕を組んで、考えるように黙していたが、頷いた。


「南東方面艦隊の草鹿さんに貸しを作ったのだ。やらんわけにもいくまい」



  ・  ・  ・



 T艦隊は、海氷飛行場『日高見』の元まで転移した。

 大西洋から一気に南太平洋へ。栗田と神明は『日高見』を訪れ、南東方面艦隊司令部で作戦の打ち合わせと行った。


 ウェリントン港とオークランド港をほぼ同時に空襲。これにはT艦隊航空隊、第三航空艦隊、南東方面艦隊の第十一航空艦隊を動員して奇襲。

 そしてT艦隊の水上打撃部隊を二分し、二つの港に残る在泊艦艇にトドメを刺す。


 彩雲によって事前確認された港と、近くにある飛行場の様子を検討し、侵入コースを確認。攻撃すべき目標について、割り当てをきちんと把握する。

 その後、栗田と神明はT艦隊に戻り、各艦、各部隊へ作戦の通達と攻撃目標の共有、徹底が行った。


 翌日、7月3日、T艦隊と南東方面艦隊の共同作戦は開始された。


 南東方面艦隊の彩雲改二によって投下された転移中継ブイに導かれて、T艦隊第一部隊がウェリントン港への入り口、ミラマー半島のもっとも狭くなる水路手前に出現。

 同第二部隊は、オークランド港の手前、ランギトト島のすぐ西という、かなり接近した場所に転移した。



●T艦隊第一部隊

・航空戦艦:「浅間」

・空母  :「翔竜」

・重巡洋艦:「愛鷹」

・軽巡洋艦:「奥入瀬」「十津」

・駆逐艦 :「朝露」「夜露」



 ウェリントン港とクック海峡を繋ぐ水路、ミラマー半島のもっとも狭くなる場所の幅はおよそ2キロ。

 そこを旗艦『浅間』を先頭に、第一部隊は突き進む。旗艦に続くは重巡『愛鷹』、軽巡『奥入瀬』、駆逐艦『朝露』と『夜露』。


 空母『翔竜」と護衛の軽巡『十津』は、水路の手前で待機だが、空母の転移中継装置により、南東方面艦隊所属の、第十一航空艦隊の航空隊が次々に現れる。


 業風戦闘機36機、暴風戦闘機24機、月光双発戦闘機15機、銀河陸上爆撃機23機、一式陸上攻撃機30機が、それぞれ5インチFFARや爆弾を積んで現れる中、『翔竜』からも暴風戦闘爆撃機が25機、発艦。


 また航空戦艦である『浅間』の後部甲板から、紫電改二がマ式カタパルトにより連続射出され、8機が飛び上がる。

 航空隊は、ミラマー半島を飛び越え、すぐそこのウェリントン飛行場、そしてウェリントン港へとあっという間に殺到した。


 スピード勝負だった。

 ウェリントン港に停泊する異世界帝国の機動艦隊――リトス級大型空母3隻と、オリクト級戦艦5隻めがけて、航空隊が我先に向かう。


 暴風戦闘機が5インチFFARを発射。昼間の課業をこなしている敵兵をよそに、空母の艦橋、そして飛行甲板にロケット弾を叩きつける。

 そしてオリクト級戦艦にもその艦橋や周辺のマストめがけて、戦闘機隊がFFARを撃ち込む。


 無誘導ロケットではあるが、直進性がよく、戦艦にとって砲撃に重要な測距儀や射撃レーダーを吹き飛ばすと、マストと通信設備、運がよければ艦橋の窓をぶち破って艦橋要員を爆殺した。

 速度でやや遅れる月光、そして銀河が、敵巡洋艦に対してロケット、ついで胴体下の爆弾を投下し攻撃。


 最後尾になる一式陸上攻撃機隊は、ウェリントン飛行場に対して60キロや250キロ爆弾を落とし、滑走路と基地施設、駐機されている敵機を破壊した。

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