第614話、お号作戦、発動


 T艦隊が南米にて、T計画を実施している頃、太平洋でも一つの作戦が決行されようとしていた。


 オーストラリア無力化作戦。

 南東方面艦隊が企画した、オーストラリア攻略作戦が正式に軍令部、そして連合艦隊の認めるところなり、いよいよ動き出したのである。


 この作戦のために一時解隊された第八艦隊が復活した。



●南東方面艦隊:

  司令長官:草鹿 任一中将(第十一航空艦隊司令長官兼任)

  参謀長 :富岡 定俊少将(同航空艦隊参謀長兼任)


・第十一航空艦隊

  第151海軍航空隊;彩雲偵察機18(改二型6)、二式艦上偵察機9 

  第253海軍航空隊:業風戦闘機72

  第254海軍航空隊:暴風戦闘機36 月光陸上戦闘機24

  第705海軍航空隊:一式陸上攻撃機27

  第755海軍航空隊:一式陸上攻撃機48

  第763海軍航空隊:銀河陸上爆撃機30


 付属:海氷飛行場「日高見」


・特殊戦闘団:稲妻師団

  ・第192海軍航空隊 :彩雲偵察機15(改二型6)

  ・第523海軍航空隊 :彗星戦闘爆撃機18

  ・第1092海軍航空隊:虚空汎用輸送機12



○第八艦隊

 独立旗艦:(大型巡洋艦):「早池峰」


 第十二航空戦隊:(装甲空母):「黒龍」「嵐龍」

 第十四航空戦隊:(小型空母):「祥鳳」「瑞鳳」

 第二十六戦隊 :(軽巡洋艦):「高瀬」「渡良瀬」「浦野」

 第六十六戦隊 :(特設潜水母艦):「平安丸」「日枝丸」「名古屋丸」「さんとす丸」


 第五十二駆逐隊:「楓」「欅」「柿」


 第六十九潜水隊:呂584、呂585、呂586、呂587、呂588、呂589



 第八艦隊は、装甲空母2、軽空母2、大型巡洋艦1、軽巡洋艦3、駆逐艦3、潜水艦6、転移巡洋艦代わりの特設潜水母艦4で構成される。

 主力艦隊の構想から外れた艦を中心にしたその艦隊は、かろうじて小規模機動部隊を編成している。


 日高見のバックアップがあるとはいえ、敵の有力艦隊とぶつかった場合、劣勢は否めない。

 とはいえ、この艦隊自体は、オーストラリア無力化作戦――お号作戦に投入するために組まれたもので、指揮下にはあるものの、恒久的に南東方面艦隊に配備されているわけではない。


 だが南東方面艦隊は、お号作戦を進める中で、神明少将――T艦隊との間にある密約を通しており、いざという時に対する備えも整えていた。



  ・  ・  ・


 まず先陣を切ったのは、第151、第192海軍航空隊の彩雲改二偵察機だった。

 魔技研で実用化された転移爆撃装置、その初期生産型を搭載した型を、T計画の神明の伝手で、優先的に稲妻師団とお号作戦を実施する第十一航空艦隊に回されたものである。


 珊瑚海に展開した海氷飛行場『日高見』から、北はアラフラ海、東のタスマン海、南のグレートオーストラリア湾に、増槽を付けて航続距離を伸ばした彩雲を飛ばす。

 さらに南西方面艦隊の協力を得て、チモール島の海軍飛行場を経由して、オーストラリアの西部方向へ、彩雲改二を飛ばした。


 オーストラリア大陸をグルリと取り囲むように、転移連絡網の形成。――これをT艦隊の代わりにこなすことが、彩雲改二の早期受領だったりする。

 もっとも、彩雲の役目は転移中継ブイの投下だけではなく、お号作戦において、なくてはならない働きをしなくてはならない。

 彩雲部隊が、所定の位置に転移ブイをばらまいたところで、お号作戦が本格スタートする。


 第六十六戦隊の特設潜水母艦が転移で移動。『平安丸』がアラフラ海、『日枝丸』がタスマン海、『名古屋丸』がグレートオーストラリア湾、『さんとす丸』がオーストラリア西部インド洋に、第六十九潜水隊の呂号潜水艦が護衛につく中、展開した。


「各艦、指定海域に向けて航行中」

「よろしい」


 南東方面艦隊司令長官である草鹿中将は頷いた。


「攻撃に移行する! 稲妻師団へ、真ん中をとれ!」


 海氷飛行場『日高見』から、第192海軍航空隊の彩雲改二が発進した。すぐさま転移装置によって、アラフラ海の中継ブイまで転移。そこから針路を変更し、オーストラリア大陸の中央――マクドネル山脈はアリススプリングスを目指す。


 オーストラリアの北部より中央にかけて広がるノーザンテリトリーを、彩雲改二は南下する。荒野や砂漠、平坦な土地がどこまでも広がり、一方で人工物のない大自然が続く。


「機長! 道路です!」


 彩雲を操る操縦士が叫んだ。稲妻師団航空団である192航空隊の島津 満夫大尉は思わず声を上げた。


「スチュワート・ハイウェイだ! これに沿って南に行けばアリススプリングスだぞ!」


 北はダーウィン、南はポートオーガスタまで、オーストラリア大陸の真ん中を南北に突っ切る全長2834キロに及ぶ長大な道路だ。

 もし彩雲で、端から端まで行こうものなら、片道は行けるが補給なしでは帰りに力尽きることになるだろう。


 なお、南のポートオーガスタからは、ダーウィンを目指した中央オーストラリア鉄道が走っている。


 だが、1940年代では、その中間であるアリススプリングスが北の終着駅となっており、そこから先はまだ鉄道は通じていない。

 つまり、北から侵入した島津大尉の彩雲改二は、ハイウェイは見かけても、アリススプリングスまでは鉄道はないということだ。


 しばらく進むと、地平線に変化が現れる。


「正面に山地――マクドネル山脈!」

「ようし、そろそろ始めるぞ! 北野、日高見に通信、送れ!」

「了解!」


 最後尾の通信士が答える。我、マクドネル山脈に到達せり――島津は、転移爆撃装置を起動させた。


「こいつが爆撃以外にも使えるってところを、見せてくれよ、っと!」

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