第602話、解決策は、ゴミの再利用
南東方面艦隊が進めていたオーストラリア攻略計画。
広大なオーストラリア大陸に点在する敵拠点を各個奇襲。アヴラタワー頼りの異世界人は、ひとたび生存空間を失えば、オーストラリアという広さが彼らにとっての地獄と化す。
陸軍が大陸から動けず、占領制圧が難しい海軍だが、オーストラリアの敵を無力化させることはできる。
――というところで、南東方面艦隊は作戦を立てていたのだが、暗礁に乗り上げているという。あまつさえ、計画が振り出しになるかもしれないと、同艦隊参謀長の富岡 定俊少将は言った。
同期である神明は、富岡から話を聞く。
「何が問題なんだ?」
「オーストラリアの海上封鎖の件だ」
地上のアヴラタワーを破壊するのはいい。大陸中央、アリススプリングスに大アヴラタワーがあり、それを破壊すると、後は各拠点にあるアヴラタワーを叩けばよい。
しかし――
「オーストラリアの敵拠点は、中央の大タワー以外は、海に近い場所にある。アヴラタワーを破壊しても、しばらく生存可能であるなら、港から新しいタワーを運び込んで再建される可能性も出てくる」
富岡は、眉をひそめた。
「そうさせないために、オーストラリアの軍が使えそうな港は、全て封鎖したい。敵が新しいタワーを運び込めなければ、あの大陸が異世界人の墓場になる」
すでにオーストラリアに地球人はいない。異世界人が連れ去っているからだ。だから港を封鎖して、外から物が入ってこなくなっても困るのは敵だけだ。
だが、その封鎖が問題になっているという。
「オーストラリアで軍が利用している、あるいは利用できそうな港は今のところ13カ所ある。タスマニア島のを含めれば14カ所か。これらを利用できないように、ある程度破壊するか、あるいは海上封鎖というのがセオリーになるが……」
港湾施設の破壊のために、それなりの規模の航空部隊が必要となる。航空機が使えないなら小規模な艦艇で艦砲射撃を加える、という手もあるが、現在、連合艦隊は絶賛再編成中。弾薬はアメリカから供給されているとはいえ、まだまだ備蓄優先のため、許容できる数には限度がある。
「要するに、オーストラリア全ての港湾施設を破壊するために、どれだけ爆弾が必要になるか、という話になる。それで、その消費される予想量に、連合艦隊が難色を示しているわけだ」
では、海上封鎖はといえば、十数もの港に何隻を貼りつけるのか、となって、やはり数の問題になる。
「港を破壊、あるいは封鎖するのは、現状では実現性に乏しいということで、オーストラリア攻略作戦の実行に暗雲が立ちこめている」
富岡は言った。そもそも物資の消費を抑えて、オーストラリア大陸の敵を無力化する案としてスタートしている。
であるなら、大規模艦隊を投入したり、大量の武器・弾薬を消費するような戦いをしては意味がないのだ。
改めて作戦を考え直すべき、というところに、今、オーストラリア攻略作戦は差し掛かっていた。
「なるほどな、理解した」
神明は軍服から、紙のケースを取り出すと富岡に手渡した。
「アメリカ土産だ」
「チョコレート……?」
「兵隊用の携帯食らしい」
「それはどうも……。ポケットに入れて溶けてないか?」
「心配はいらない。一肌で溶けないように耐熱性も抜群だ。味は……保証しないが」
「不味いのか?」
「携帯食が美味いと、摘まみ食いする輩が出るからな」
神明は肩をすくめた。
「それで、私から一つ案があるが……。聞くか?」
「オーストラリア攻略作戦について?」
「海上封鎖の案なんだがな、少数の遮蔽航空機で、オーストラリアにある軍の港を攻撃する」
「少数の航空機だと高が知れているぞ」
富岡はチョコのケースを軍服のポケットに入れた。
「かといって大部隊で爆撃はできない……」
「爆弾は使わない」
「……何だって?」
耳を疑う富岡に、神明は淡々と告げた。
「落とすのは船だ」
「船!?」
「これまでの戦いで沈めた敵艦船があるだろう? 敵に再利用されないよう、こちらでも扱いきれないのを承知で回収しているんだが、その中で手つかずになっている、特に輸送艦の残骸を、転移中継装置を利用して、遮蔽航空機から港に落とすんだ」
「正気か!?」
船を落とす。転移装置で? まともな思考ではない。富岡は首を横に振るが、船と海上封鎖を絡めて、よぎるものがあった。
「まさか、旅順港閉塞作戦の再現か!?」
日露戦争において、日本海軍は、旅順港に立てこもるロシア艦隊をそこから出さないようにするため、海上封鎖作戦を行った。
湾口に船を沈めることで、旅順港の入り口を閉塞、旅順艦隊を閉じ込めるという作戦は、都合、三度行われたが、結果的に失敗に終わっている。
「いや、港の入り口を塞ぐのも、やってやれなくはないが、それで封鎖できるかは不確かだ。だからより確実にやる」
回収輸送艦の残骸の中で大きいものを選んで、港の接岸部や港、その他施設を押しつぶしたり、破壊したりする。
「結局のところ、爆撃したところで復旧されるが、全長数十メートル級の残骸が、施設を破壊すれば、復旧以前にその残骸を撤去する作業が必要になる。……この意味がわかるか?」
「ただ爆撃するより、元に戻すまでに手間と時間がかかる……」
富岡が愕然とする。神明は続けた。
「十メートル程度の船体の一部の撤去だって、クレーンがいるだろうが、そのクレーンが潰れていたら……」
「お手上げだな。……それは酷い。下手したら異世界人も復旧を諦めるかもしれない」
「こちらとしてもオーストラリアの港を占領して使うわけではないからな。どうしても使うなら、転移中継装置を使って転移で物資を送ればいいわけだし」
「一体どうやったら、そんな発想になるんだ?」
呆れも露わにする富岡である。確かに普通の軍人では、考えもつかない案であろう。だが、神明に言わせれば、そう突拍子もないものではない。
「私は魔技研出身だからな。回収部門とも接点があって、そこから相談されるわけだ。回収したはいいが、それの置き場をどうするつもりだ云々。残骸で島ができるとか、埋め立てて島を拡張できますね、なんて皮肉られたものだが、どこかで上手く消費できないかと前々から考えていたわけだ」
先日のカリブ海でも、大量の潜水艦の残骸を回収した。この手の再生に使えるものは、増える一方である。そして実際、再生が追いついていない。
「それが、残骸を爆弾代わりに落とす、という案か?」
「前に、ベンガル湾の敵巨大戦艦を200万トン氷塊をぶつけて沈めようという作戦があってね。氷塊の代わりにゴミを落としたら、敵さんも大変だろうなぁ、と思ったんだ」
神明はしれっと言うのである。富岡は頭を抱えた。
「あー、もう。一見無茶苦茶だが、君が言うんだから……できるんだろうな。何故なら、不可能なことは案として言わないから」
同期として、それは確信できる富岡である。そして神明がこの突拍子もない案を口にしたということは――
「我々、南東方面艦隊でその戦法が使えるか試すつもりなんだろう? 君はそういう男だからな」
神明が手を振ると、富岡は席を立った。オーストラリア攻略作戦案が動き出した。
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