第598話、炎上する潜水補給拠点
バミューダ島に敵補給拠点あり。
カリブ海に大量投入された異世界帝国の潜水艦隊、その前線補給基地があるとなれば、カリブ海を預かる古賀大将が雪辱に燃えないはずがなかった。
軽空母『龍驤』から九九式艦上戦闘爆撃機9機、二式艦上攻撃機16機、彩雲偵察機2機が出て、合流した六航戦の『瑞鷹』『海鷹』『黒鷹』『紅鷹』から烈風艦戦108機、流星艦攻67機が発艦。
特海氷空母『雲海』から、第九航空艦隊の業風戦闘機18機、九九式艦爆27機、九七式艦攻23機、一式陸上攻撃機30機が順次発進した。
雲海航空隊より先行する空母航空隊は、誘導機の彩雲に従い、高度を落とし敵の目を警戒しつつ飛行。
やがて大西洋にポツンと浮かぶバミューダ諸島に辿り着いた。
敵施設は、低高度で視認可能――バミューダ島に敵を発見した彩雲改からの報告により、攻撃隊は、レーダー対策の低空飛行のまま、島の西側へと殺到した。
異世界帝国の漆黒のタワーが立っていた。海上に目をやれば、水面に花が咲くように六方向に桟橋を伸ばした独特な浮きドックがあって、潜水艦が燃料補給や、艦首斜め上から魚雷を艦内に補充する作業の受けていた。
攻撃隊の搭乗員たちは、思ったより広範囲に施設があることに軽く驚きをおぼえる。300隻といった多数の潜水艦を投入するならば、これくらいの規模がなければ不可能だったのかもしれない。
『攻撃隊、突入! 敵施設へ攻撃!』
先陣きって流星艦攻隊が、各中隊ごとに突っ込む。一部の機体はロケット弾と誘導弾、大半の機体は敵に近づいてのロケット弾からの誘導爆弾を投下。基地施設ならびに浮きドック、そして整備、補給中の潜水艦に攻撃を叩きつけた。
それは一方的な戦いだった。
補給中の敵潜水艦は作業を中断し、ドックを出ようとするが、それが許されるはずもなく、誘導弾や誘導爆弾の洗礼を受ける。
遮蔽効果を発動させていたタワーと発電所が吹き飛ばされ、それまで高空からは見えなかったそれが、補給拠点の全容が明らかになる。
が、その頃には、日本航空隊による攻撃で浮きドックは無残に砕かれ、逃げることができなかったドイツ、イタリア、アメリカの鹵獲再生潜水艦が巻き込まれて誘爆する。
中には異世界帝国のO級潜水艦、さらに新型のTR級潜水艦もあって、それらも容赦なく撃沈されていった。
大破した『比叡』や『霧島』『諏訪』などの仇討ちである。
遅ればせながら、島の遮蔽施設からヴォンヴィクス戦闘機が、垂直離着陸機能で飛び上がってきた。
その数、12機。しかしそこには多数の烈風戦闘機が待ち構えていた。100を超える戦闘機に瞬く間にヴォンヴィクス戦闘機は蹴散らされた。
流星艦攻、二式艦攻が攻撃を終えると、上空にいた烈風が下りて、20ミリ光弾機銃による掃射を行った。
ただの20ミリ機銃に比べて威力に勝る光弾機銃は、軽装甲の輸送艦や潜水艦の船体を穿ち、当たり所によっては吹き飛ばした。
烈風戦闘機の地上、海上攻撃で繋いでいる間に、雲海航空隊が到着する。旧式の九七式艦攻、九九式艦爆、一式陸攻が爆撃を開始し、異世界帝国の潜水艦隊補給基地は完膚無きまでに破壊された。
・ ・ ・
グレナダ沖。潜航したマ-1号潜水艦は、異世界帝国の潜水艦を捜索、発見した敵に対し攻撃を仕掛けた。
放たれた誘導魚雷が、また1隻、海中の敵潜水艦に吸い込まれ撃沈する。爆発音が当たり一面に広がる中、マ-1号潜の水測士はマ式ソナーによるスキャンにより、周囲を探る。彼女が注意を払っているのは音ではない
「――敵潜、接近しつつあり。その数5」
水測士が、マ式ソナーのモニターを見ながら報告する。早見潜水艦長は神明を見た。
「僚艦の撃沈音を聞いて、敵は集まってきています」
「どう思う、早見少佐?」
「閣下の推測通り、敵は我が軍の回収部隊を待ち伏せていたのだと思われます」
先日戦闘のあった海域に伏せていた敵潜水艦部隊。日本海軍が、沈没艦をサルベージすると読んで、この海域にいたのだろう。
素直に第五回収隊を送っていたら、返り討ちにする一方で、何隻か失われていただろう。
「水測士、接近する敵艦で足の早い奴はいるか?」
「――2隻、速度が14,5ノット出ています」
「それだけでは新型とは言えないな」
「敵主力のO級潜水艦は水中速力15ノット前後は出ますからね」
早見は言うが、水測士が声をあげた。
「いえ、うち1隻の形状が明らかにO級と違います。マ式ソナーによる形状識別、おそらく例の新型と思われます」
「来たか」
神明は表情を引き締めた。
「敵はこちらの位置を掴んだ様子は?」
「いえ、爆発の音源を辿っているようで、こちらはまだ探知していないようです」
「ならば、先制して沈めてしまおう」
「よろしいのですか?」
早見はわずかに眉をひそめた。
「本艦でしたら、防御障壁で敵の新兵器を防ぐことができると思われます。使わせて、新兵器の正体を掴むことも可能ですが」
「どうせ、撃たれても『諏方』や『石動』の乗員の証言以上はわからんだろう」
神明は事務的に告げる。
「撃沈したところを回収したほうが、より安全に調べられる」
いくら障壁や対魚雷防御の衝撃波発生機を持っているとはいえ、わざと攻撃を受けるのはリスクもある。
「それに、敵は新型ばかりではないからな」
ただでさえ数で負けている。叩けるうちに叩いて、数を減らさねば、回収作業を行う『白鯨』も危険である。
「承知しました、閣下。では手当たり次第、敵潜を沈めていきます」
早見は発令所の中央に立つと、矢継ぎ早に命令を発し、マ-1号潜を操り出した。司令である神明は、方針を示すのみ。実際に艦を指揮するのは艦長であり、動かすのはクルーだ。
撃沈された僚艦のもとに集まってきた異世界帝国の潜水艦に、マ-1号潜は雷撃を開始。まず一番早く脅威である新型――TR級に対して時間差で攻撃。
敵は高速推進で迫る魚雷音源を探知、障壁を張ったが、初弾で守りは砕かれ、続く誘導魚雷がその船体にぶつかった。
「命中! 撃沈です!」
魚雷を誘導した宮川砲雷長が報告する。水測士が声をあげた。
「敵艦、本艦の方へ艦首を向けました。魚雷の発射音から位置を推定している模様!」
「まだ爆発で音は拾えない。宮川、残る艦首2本を発射、標的は任せる!」
「了解、3番、4番、発射!」
「東山、取り舵30、ダウントリム5」
「取り舵30、ダウントリム5!」
操艦担当の東山が動かせば、マ-1号潜は位置を変える。沈没するTR級の破砕音が響く中、移動するマ号潜。敵のソナーは騒音に惑わされているが、魔力の反射を拾うマ式ソナーは、音の影響はほとんどなかった。
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