第531話、進むか退くか。異世界海軍と陸軍の意見の相違
ムンドゥス帝国カルカッタ上陸船団は、日本海軍第九艦隊、さらに日高見の基地航空隊からの空襲を受けた。
その攻撃で護衛の駆逐艦は半減。戦艦と小型空母はほぼ無傷だったが、船団は全体の四分の一近くを喪失した。
護衛部隊指揮官のゾイロス中将は、これ以上の進軍について躊躇いをおぼえるが、日本軍の攻撃は続いた。
彼らの放った第二次攻撃隊が、すでに飛び込んでいたからだ。
日本軍の第一次攻撃隊を迎撃し、生き残ったヴォンヴィクス、スクリキ無人戦闘機が各母艦へと帰還する。まだ午前であり、日本軍は反復攻撃を仕掛けてくるに違いない。なので使える戦闘機には燃料と弾薬を補給し、次に備えさせるのだ。
が、その猶予は与えられなかった。
「目標、敵空母ーっ!」
遮蔽を用いて、船団に迫った日本機――彩雲改偵察攻撃機と瑞雲が、異世界帝国護衛部隊の小型空母に、狙いを定めた。
「
第九艦隊に回された第十五航空戦隊『龍飛』『大間』『潮瀬』は哨戒空母であり、その艦載機は、1隻に彩雲偵察攻撃機が十数機と小兵だ。
しかし、通商破壊用の索敵空母でもある龍飛型は、発見した輸送船にそのまま一撃を見舞えるように対艦装備が可能な偵察機を搭載している。
長大な航続距離に加え、対艦誘導弾を装備した彩雲部隊は、遮蔽で異世界帝国艦をその射程に収めると不意打ちを仕掛けた。
ムンドゥス帝国護衛部隊側で、突然現れた対艦誘導弾に気づき、警報を鳴らした時には、すでに手遅れだった。
全長198メートル、日本で言うところの祥鳳型に近いグラウクス級小型空母の艦体に800キロ対艦誘導弾が突き刺さる。
艦載機収容作業の直後ともあって、シールドは展開されていなかった。遮蔽装置で日本機が隠れて接近したこともあり、敵機発見からのシールドを張る間がない艦が大半だった。
直撃し、飛行甲板や格納庫が爆発。人員も航空機も燃料、弾薬も巻き込んで、艦体はあっという間に炎に覆われた。
1万3000トンの小型空母は、派手に吹き飛び転覆、あるいは火山のごとく大爆発を起こす。
「あの軍艦色のタンカーっぽいやつ! あいつが小型戦闘機の母艦だ」
彩雲部隊18機が、小型空母の始末にかかっているころ、水上機母艦『千歳』『千代田』『瑞穂』から飛び出した瑞雲水上爆撃機が、こちらも遮蔽装置で目標に接近した。
瑞雲隊27機は、懸架してきた500キロ誘導爆弾をそれぞれ叩き込む。急降下爆撃はすたれて等しいこのご時世。遮蔽装置なしでの敵艦爆撃はリスキーな攻撃だ。
グラウクス級よりもさらに装甲のないスクリキ無人戦闘機母艦は、500キロ爆弾の直撃に、こちらも航空燃料等への引火もあって一撃大破。巨艦に見合わず、火の玉と化す。
第九艦隊の第二次攻撃隊は、奇襲攻撃隊の長所を活かして、カルカッタ上陸船団の航空戦力に致命的なダメージを与えることに成功した。
護衛部隊は、小型空母8隻が撃沈。支援輸送艦も7割が食われ、かろうじて戦闘機による迎撃は可能だが、大規模攻撃に対して、心許ない規模しか残らなかった。
・ ・ ・
「作戦中止が妥当と見るべきかと思う」
護衛部隊指揮官のゾイロス中将が交信する相手は、カルカッタ上陸船団が運ぶ陸軍上陸部隊指揮官のポーリー中将である。
「現状の護衛戦力で、船団をカルカッタまで運ぶことはできない」
『しかし、大陸では、我々の運ぶ補給物資を前線の勇者たちが待っているのですぞ!』
ポーリー中将は、語気を強めた。
『聞けばインド洋艦隊も、オーストラリア方面艦隊の船団も壊滅したとか。そうなると、誰が大陸に物資を運ぶのか! 海軍は、皇帝陛下の兵たちを飢えと弾薬不足で死なせるおつもりか!!』
「……気持ちはわかりますが、ポーリー中将」
『わかっておるのか!? 海軍は!』
通信機の向こうの陸軍の将軍は感情を爆発させた。
『本来なら、我々はインド洋艦隊の後詰めだった。カルカッタ上陸戦が行われ、その途中に我々が物資を橋頭堡に運び込む手はずだった。だが段取りは大きく狂った! 海軍は、この落とし前をどうつけるつもりなのか!?』
「このまま、突き進んでも、物資は大陸に届かず、船団は全滅します。それでいいんですか?」
苛立ちを押し込め、ゾイロスは告げた。
「結局、ここでむざむざ沈めるだけなら無駄となりましょう」
『無駄と言うな! それに今から引き返したところで、日本軍が我々を見逃す保証もあるまい。どうせ攻撃されるなら、少しでも大陸に近づいたほうがまだ生存の可能性もあるのではないか!?』
――くそ、自分たちは上陸したら、当面帰らないから、帰りのことを軽んじてやがる……。
ゾイロスは内心悪態をつく。たとえ現地につけても海軍は、引き返すのももはや困難。燃料がなくなり動けなくなるのがオチだ。……そもそも現状ではそこまでたどり着けない可能性が高いから、その想定は取り越し苦労かもしれないが。
『それにベンガル湾の気象は、5月辺りは熱帯低気圧が発生しやすい時期とも聞いている。もしかしたら気象状況が悪化し、敵の航空機が飛べなくなる可能性もある!』
「……」
そう都合よくいくものか。ゾイロスは言葉を飲み込んだ。
気象予報では、一日大降りになるような天候ではないと報告を受けている。ポーリー中将のそれは単なる願望に過ぎない。
正直、話にならないのだが、陸軍は戦場で補給を持つ大陸侵攻軍のために、是が非でも物資を届けると強弁した。
海軍としては、すでに同様の任務がある二つの艦隊が、日本海軍にやられているので、それより弱体であるこちらは、早々に引き返さないと全滅すると予想した。
が、その二つの艦隊が壊滅したことがかえって陸軍に『自分たちが行かねば、大陸侵攻軍は終わってしまう』という強烈な使命感に取り憑かれる結果となっていた。
ゾイロスに言わせれば、海のことをわかっていない陸軍連中は好き勝手言うものだと呆れた。ポーリー中将は、輸送船を乗っ取ってでもカルカッタ上陸作戦をやると息巻いた。たとえ護衛部隊が逃げたとしても。
こういう場合、ムンドゥス帝国では陸軍の意向が優先される。地球侵略に関しても、陸軍の侵攻計画に海軍が合わせるという方針が採られていて、今回の場合も、陸軍がやると言うなら、護衛部隊である海軍も付き合うしかなかった。
――あるいは、戦艦が全滅していたら、陸軍連中もさすがにまずいとわかったんだろうか。
護衛部隊の戦艦6隻――すでに旧式であるヴラフォス級とはいえ、その雄姿が海上にあるせいで、陸軍兵がまだ大丈夫という気になっているのかもしれない。
海で戦わない連中に、旧式戦艦の価値がどれほどのものか理解はなく、自分たちはまだ大船に乗っているつもりなのではないか。海上から支援砲撃をしてくれる頼もしい海上砲台に過剰な期待を抱かれても困る。
カルカッタ上陸船団は、なおも進撃を続けた。そしてゾイロスの予想どおり、日本海軍は、午後に第三次攻撃隊を放ってきた。
空母、支援輸送艦の大半を失い、しかし残っている戦闘機の全てを投じて迎撃する護衛部隊。
結果は、輸送船の半数以上を海の藻屑へと変えられた。だがゾイロスは、割と船が残っていることに、微かに驚いた。全滅も覚悟していたからだ。
だが安堵している余裕はなかった。日本軍の水上打撃部隊が、船団に迫っていたからだ。
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