第516話、襲撃部隊の意地
「そうはさせない」
伊600潜水艦、潜水艦長の海道
「艦首魚雷1番から6番、発射! 鈴、誘導よろしく!」
「了解です」
妹である海道 鈴大尉は、
卓越した能力者である鈴にとって、魚雷6本の制御は容易い。
それらは浮上しつつある異世界帝国潜水型駆逐艦と巡洋艦に、それぞれ吸い込まれて爆発した。
「潜巡1、潜駆3に命中。……さらに潜巡1に命中」
「ようし、次発装填急げ」
駆逐艦は撃沈確実だろう。巡洋艦は大破は間違いない、と海道中佐は判断する。妹の鈴の能力を微塵も疑っていない。
気がかりは、魚雷の残数だ。昨夜の船団攻撃でも使っているから、次に前部の魚雷を全門撃ったら、後部魚雷と機雷しか武器はなくなる。
――この海狼は、砲は積んでいないからな。
内地で改装、復活した伊号潜水艦は、潜水型駆逐艦にならい、光弾系の砲を搭載しているのだと言う。通商破壊にしろ、奇襲襲撃にしろ、魚雷以外の武装があるのは、長い期間の作戦に耐える能力と言える。
「中佐、伊611、伊612が配置に付きました。魚雷を発射!」
魔力通信士の報告に、海道は頷く。第七十潜水隊の僚艦も、攻撃を開始したようだ。
同じ第十七潜水戦隊に所属する七十一、七十二潜水隊が合流して、さらなる攻撃を――する前に、水上の連合艦隊の水雷戦隊が迎撃するのが先かもしれない。
・ ・ ・
ムンドゥス帝国インド洋艦隊所属の第三襲撃部隊は、連合艦隊主力に対して突撃を敢行した。
半浮上状態の潜水巡洋艦を先陣に、潜水駆逐艦が脇を固める。
旗艦『トクソテース』ほか、潜水航空巡洋艦や支援潜水艦が浮上する中、突然の雷撃が第三襲撃部隊を襲った。
広く横に展開しようとしていた潜水駆逐艦がたちまち3隻がやられ、潜水巡洋艦も1隻が後部を蹴飛ばされるように吹き飛ばされ、航行不能になった。
「どこから撃たれたのだ!? 見張り員!」
指揮官であるプース少将が声を荒らげる。そうこうしているうちに、『トクソテース』の僚艦である『トラゴス』が二本の水柱を上げて、沈み始めた。
「くそっ、やられたか!」
これが日本海軍の誘導魚雷の精度か。プースは舌を巻く。
部隊の5隻が被雷した。通常の無誘導魚雷であったなら、この戦果を上げるのに、この数倍以上の魚雷が使われていただろうが、誘導できるというだけで命中精度に大きな違いが出る。
しかし――
『格納庫ハッチ、開きます!』
『艦載機、発進準備よし!』
「よし、艦載機発進!」
プースは命じた。『トクソテース』ほか、襲撃部隊に3隻配備されているヴェガス級潜水航空巡洋艦は、全長205メートル、基準排水量1万4000トンと重巡級だ。
艦首に18センチ連装砲を背負い式に二基。主砲の配置を見ると、日本海軍の大淀型軽巡洋艦と同じように見える。
艦中央から後部にかけては格納庫となっており、即時出撃可能な航空機を六機搭載できる。
この航空機は垂直離発着機能を有している機体に限定されるため、カタパルトは装備されていない。格納庫のハッチを開くことで、そこから直接発進する仕様だ。
搭載機はミガ艦上攻撃機タイプ5である。主力攻撃機のミガのバージョンアップ型であり、垂直離発着能力を有し、速度も若干向上している。
『正面、敵艦発砲!』
見張り員の報告。浮上して突撃を開始した襲撃部隊に対して、日本軍も反撃してきたのだ。
まともにぶつかれば、恐らく返り討ちにされる。正確な数はわからないが、日本艦隊の数は、襲撃部隊を軽く凌駕しているのは間違いない。
だがプース少将としては、攻撃隊を出せた時点で、目論みの大半が果たされた。あとは1隻でも多く敵を撃破するだけである。
・ ・ ・
潜水襲撃部隊による攻撃に対して、連合艦隊もすぐに反撃に出た。
異世界帝国側も数の不利は承知であり、日本側は逆にまともにやれば負けることはない。が、そこまでにもたらされる被害は抑える必要があった。
しかし、連合艦隊司令長官、山本 五十六大将の願いも虚しく、異世界帝国襲撃部隊は、三隊による各個襲撃により、連合艦隊側を翻弄した。
特に直掩機が不足していた。
明け方であり、インド洋のど真ん中で敵機が飛来する可能性は皆無だった。まさか潜水艦から航空機を飛ばして、襲撃してくることなど想定していなかったのだ。自軍は使っているが、敵はこれまでなかったから。
とはいえ、規則上、敵機の襲来に備えて、甲板に戦闘機は発進可能状態で待機しており、少数ではあるが、すぐに発艦。敵機の迎撃を開始した。
が、それでも敵機の方が早く到達したり、防空の隙をついて攻撃してきた。何より、無人戦闘機スクリキが支援潜水艦1隻にあたり10機飛ばしてきて、日本側の迎撃機の数を一時的に上回ったのである。
狙われたのは、各空母部隊だった。つまり、第一艦隊の海氷空母群、第一機動艦隊、第二機動艦隊である。
空母に打撃を与えれば、後は水上艦同士で決着をつけようと考えたのだろう。事実、潜水型巡洋艦、駆逐艦は、艦首に魚雷発射艦があって、突撃しながら正面に魚雷を放つことができる。
これら水上艦の攻防が続いている間、ミガ攻撃機、スクリキ無人戦闘機は、日本空母へ殺到した。
これに対して、第二機動艦隊の空母群は、潜水によって空襲を回避。第一機動艦隊は、空母は防御障壁を展開し、15隻の防空巡洋艦、16隻の防空駆逐艦による対空射撃によって敵機を撃破。戦艦『伊勢』『日向』の主砲による一式障壁弾の防空支援もあり、ほぼ返り討ちにした。
一方で、第一艦隊の空母部隊――海氷空母が、その巨体をもって敵を引きつけ、やや防御に難がある第一六航空戦隊をカバーした。
軽巡洋艦『能代』指揮の第二防空戦隊、12隻の防空駆逐艦も奮戦したが、第一機動艦隊のそれには遠く及ばず、海氷空母への攻撃を許すこととなった。
全体的に見れば、異世界帝国襲撃部隊のもたらした被害は、日本軍側にとっては、新たに数隻の艦艇、海氷空母へのダメージで済んだ。傷が増えた程度であり、インド洋海戦の勝利は揺るがない。
しかし襲撃部隊のほうは、三方から攻め、悉くが撃沈された。第三襲撃部隊、プース少将も旗艦『トクソテース』と共に吹き飛ばされ戦死した。
だが、その攻撃は、連合艦隊にさらなる弾薬の消費を強要し、これから起きる事態への対処に大きな爪痕を残すことになる……。
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