第513話、猛撃の第二機動艦隊


 連合艦隊旗艦『敷島』。山本 五十六大将は、南から北上する異世界帝国の第四群についての報告を耳にした。


「第一艦隊の戦艦を南に回せ。古賀君の戦艦と挟み撃ちだ」


 第一〇艦隊が、第四群の後方から攻撃して損害を与えていたが、異世界人は輸送船団の護衛が優先とばかりに、その足を止めていない。

 このままでは船団南寄りを行く栗田中将の第二艦隊が、敵戦艦の矢面に立つことになってしまう。


 第二艦隊といえば、開戦前から夜戦専門部隊という認識があって、戦艦が旧式であろうとも、高速を活かして敵艦隊へ突撃し、雷撃戦を仕掛けるというのが半ば伝統であった。


 が、夜でも昼間のように見えるという熟練見張り員の目視に頼る時代は終わった。まだ目視も重要ではあるが、今はレーダーによる目があって、かつてほど夜の闇が味方ではない。


 馬鹿正直に突撃を仕掛ければ、敵の反撃で自軍損害も馬鹿にならないだろう。そもそも炎上している敵輸送艦によって、洋上にシルエットが大きく浮かんでしまっている。


 第一艦隊の巡洋艦部隊は、なお敵輸送船団に正面から切り込んでいて、前から順番に砲撃を叩き込んでいる。輸送艦の隊列の横を抜けていく『鳥海』ら巡洋艦部隊の周りは、すでに昼間のように明るくなっていた。それだけ燃え上がる敵船舶の数が多いのだ。


 巡洋艦、駆逐艦が突き進む一方、戦艦部隊は後方からの砲撃に終始していた。それもこれも、駆けつけてくる可能性の高い敵艦隊を迎撃できるよう、動きやすい場所を確保していたからである。


「南はよいとして、北はどうなっている?」


 山本は問うた。

 角田中将の第二機動艦隊が、敵第一群を早々に葬り、その救援に駆けつけていた第三群に襲いかかっていた。

 その戦況次第で、第一艦隊の戦艦部隊も支援に回らないといけないと考えていたが。


「こちらは乱戦になっているようです。第八十一戦隊の『諏方』『和泉』が、そちらに回りましたので、戦艦の数では五分となっておりますが……」


 草鹿参謀長が告げた。

 潜航して砲撃を受けず距離を詰めることができる第二機動艦隊の水上打撃部隊だが、浮上後の戦闘では近・中距離戦になりがちだ。奇襲で攻めきれた時はよいが、ひとたび乱戦となると、相応の損害を覚悟する必要があった。


 指揮官の角田は積極果敢で、自軍の損害も構わず敵を叩く武闘派だから、この分であれば、第二群左翼艦隊の始末を任せても問題はないだろう。やはりどれほどの被害がでるか不安もあるが。


「こちらは、南の艦隊を早めに叩いてしまおう」


 素早く片付け、返す刀で北の艦隊もやれば各個撃破も成立するだろう。



  ・  ・  ・



 角田の第二機動艦隊水上打撃部隊は、山本の想像した通り、潜航状態で敵第二群の側面に近づき、浮上と共に砲撃を開始した。


 だが奇襲は、敵が展開していた防御障壁によって阻まれた。それならばと障壁剥がしの光線砲で削り、戦艦群は砲弾を叩き込んだ。


 異世界帝国第二群の戦艦群もまた、主砲で応戦する。救援に向かっている最中で、すでにクルーは戦闘配置についており、日本軍がいつ転移で現れようと反撃できるように準備万端だったのだ。

 そうなると、双方とも障壁を解除しての砲撃戦となる。とにかく早く敵に砲弾をぶつける。障壁の上げ下げしてタイミングを遅らせるより、一秒でも早く発砲を。


 結果、威力に勝る46センチ砲搭載の大和型、第二戦隊が、瞬く間に敵オリクト級戦艦を大破、撃沈に追いやる。しかし反撃の40.6センチ砲弾が、大和型の対46センチ砲想定の装甲板を抉り、ダメージを与えてきた。


 第八戦隊の『近江』『駿河』『常陸』『磐城』の撃ち合いも激しかった。第二群の旗艦は、改メギストス級戦艦『デウテロン』。その主砲は45口径45センチ三連装砲四基十二門。


 その一撃は、角田坐乗の戦艦『近江』を激しく揺さぶり、三番砲搭をごっそりと吹き飛ばした。負けじと41センチ連装砲を撃ち返す『近江』は、敵戦艦の艦上構造物に命中弾を与え、高角砲群を粉砕し、二番ベータ砲搭のバーベッドに歪みを生じさせた。


 後続の僚艦も、41センチ砲弾と40.6センチ砲弾を飛び交わせる。しかし、ここで個々の艦の性能を見ると、41センチ連装砲四基八門の近江型、常陸型に対して、40.6センチ三連装砲四基十二門のオリクト級戦艦では、投弾数で差があった。


 5万5000トン級戦艦であるオリクト級は、装甲もまた強力だが、幸いなことに距離が近い影響で、日本海軍の45口径41センチ砲でも充分にその防御を貫通できた。だがそれは逆も言えることであり、当たれば近江型、常陸型も一発大破、轟沈の可能性はあった。


 それよりも格差があるのは『デウテロン』と『近江』であったが、その戦いは、反航する形で駆けつけた『諏方』『和泉』によって流れが変わる。

 遮蔽で近づいた『諏方』は、ルクス三連砲の日本版である50口径40.6センチ光弾三連装砲を発砲。障壁なしの『デウテロン』に全門斉射の12発×3、つまり36発の40.6センチ光弾を叩き込んだのである。


 その攻撃は、『デウテロン』の艦体のバイタルパートを貫通はできなかった。が、主砲の砲身が衝撃で捲れるようにねじ曲がり、艦橋の大半と甲板上の構造物をごっそりと爆発四散させた。


 こうなっては、轟沈はなくとも戦闘力はほぼ失った『デウテロン』である。第二群の旗艦が戦闘不能、指揮不能になったことで、以後の異世界帝国軍の動きが統制を失う。


『諏方』の光弾三連装砲は、次のオリクト級戦艦を大破させ、僚艦の『和泉』が41センチ三連装砲でトドメを刺した。

 戦艦群の形成が日本側に傾いた頃、双方の巡洋艦、駆逐艦部隊の激突も激しかった。


 大型巡洋艦『早池峰』以下、重巡洋艦『古鷹』『加古』『標津』『皆子』の20センチ連装光弾砲が、七水戦、八水戦の突入を援護。二つの水雷戦隊は、誘導魚雷による攻撃で重巡洋艦、軽巡洋艦を次々に葬るが、反撃の砲弾を浴びて、損傷、大破する艦が相次いだ。



  ・  ・  ・



 一方、第二機動艦隊の空母部隊が、山口中将の号令のもと、夜間での第二次攻撃隊を放っていた。

 空母『加賀』『応龍』『蛟竜』『海龍』『瑞龍』から飛び立った攻撃隊も目標は、インド洋艦隊第二群、第四群から分離され、合流する異世界帝国空母部隊。

 昼間ともなれば艦載機を飛ばしてくるので、夜のうちに沈めてしまおうという魂胆だ。


 紫電改二、九九式戦爆の護衛のもと、流星改二、二式艦攻が、彩雲偵察機の誘導を受けて、敵空母10隻ずつ、計20隻を発見。遮蔽に隠れての襲撃を敢行した。


 上空には例の浮遊小型戦闘機が滞空していたが、その数はそれぞれ30機程度。一応警戒しているものの、まだ甘い防備だった。あるいは防御障壁もあるから、二重の保険があると慢心していたのかもしれない。

 転移誘導弾を運んできた流星改二、二式艦攻はいつものように忍び寄り、防御障壁をすり抜ける転移誘導弾を使用。油断しきった敵空母に炎を灯した。

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