第510話、主力戦闘群、輸送船団に突入
日本海軍第二機動艦隊は、異世界帝国第一群を襲撃。第七艦隊は、第三群を攻撃した。
そして第一群、第三群を救援しようとした第二群と第四群だが、その途中、伏せていた日本軍潜水艦部隊に横やりを入れられた。
第四群は、第一〇艦隊の第十四潜水戦隊。そして第二群には、日本軍潜水艦隊である第六艦隊が牙を剥いた。
三輪 茂義中将指揮の第六艦隊は、艦隊旗艦『塩見』の瑞雲の誘導に従い、敵の進軍を妨害した。
伊201型高速潜水艦に、マ式機関と重力バラスト搭載に改装された巡潜乙型改一、乙型改二、丙型改一は、その高速水中航行能力で、射点につくと異世界帝国艦を狩る。
前衛として繰り出した重巡や軽巡も、誘導魚雷の連打でシールドを削って撃沈に追いやると、対潜行動をする駆逐艦もまた、その鼻先に魚雷を撃ち込んで返り討ちにした。
第一群から第四群まで、すべてが日本軍部隊と交戦している状態である。
その間、四方を守ってもらっていた輸送艦隊は、速度を緩め、停船しつつあった。何故ならば、このまま前に進めば、第一群が戦っている戦場に追いついてしまいかねないからだ。
このまま近づけば、日本艦による攻撃も届いてしまう。第二群が救援に動いている状況で、その邪魔をするわけにもいかない。
だが中央の輸送船団は、600隻もの輸送船を抱えている。間隔を開けてはいるが、比較的狭く、密集に近い状態である。それを統制、動きを変更するのもひと苦労だ。個々の動きを許せば、衝突事故が多発してしまうのが予想できた。
船団の外周を守る護衛部隊は、比較的自由な航行が可能ではあるものの、輸送船と足並みを揃える必要がある。
何とか戦闘に巻き込まれないように注意を払っている輸送船団だったが、日本海軍がそれを見逃すはずもなかった。
第一群を叩く第二機動艦隊から、すでに刺客は放たれていたのだ。着々と水面下で、脅威は近づいていた。
『敵護衛部隊。前衛に重巡洋艦4、軽空母5隻を確認』
正木 妙子中尉の報告を聞き、宮里 秀徳中将は小さく頷いた。
「今のところ、敵駆逐艦に動きは?」
『ありません。船団の手前で同じく停船する模様です」
「うむ……」
宮里は海兵40期。大佐時代には、戦艦『大和』の艤装員長――つまり初代艦長を務めていた。少将へ進級し、実戦に出る前に艦長を交代となったため、以降は後方勤務だったが、臨時編成の第八十一戦隊司令に就任し、前線にいる。
第八十一戦隊――戦艦『諏方』『和泉』で編成される部隊だ。
第二機動艦隊には、三つの戦艦戦隊があり、9隻が所属していた。その内、敵第一群と交戦していたのは第二、第八戦隊の7隻。第八十一戦隊の2隻は別行動中だった。
どこにいたのかと言えば、潜水航行で、敵輸送船団に接近していたのだ。
「では、そろそろ仕掛けようか。前島艦長――」
「はい。――正木中尉、本艦ならびに『和泉』を浮上させよ」
戦艦『諏方』艦長の前島大佐が命令を発し、正木妙子は魔核を操作した。いきなりこれを動かせと言われ、すでに実戦を経験した妙子も、『諏方』の扱いにも慣れてきた。
僚艦である『和泉』は、自動戦艦のプロトタイプであるが、妙子の姉である初子が、さんざん戦場で使い回していて、より制御系に改良が施されている。
――お姉ちゃんに出来たこと。わたしにもできる!
海を割って、戦艦『諏方』――旧アルパガスと、『和泉』が浮上する。6万トン級の元異世界帝国試作戦艦と、オリクト級主力戦艦の改装型コンビが、闇夜にその姿を現す。
宮里中将は口を開いた。
「転移中継装置、作動。本艦と『和泉』は手当たり次第、敵艦を砲撃!」
「正木中尉、目標選定は任せる。どんどんやれ」
前島大佐が、制御で忙しいだろう妙子に、自由にやるように告げた。なにぶん乗員の訓練という点で、『諏方』はほとんどできておらず、妙子にしても助っ人であり正規のクルーではなかった。
『了解。転移中継装置、作動しました。目標選定。正面、距離6000の敵重巡!』
戦艦『諏方』の主砲、50口径40.6センチ光弾三連装砲、艦首側二基が方向を変えて、その砲門を敵プラクス級重巡洋艦に向ける。
『照準よし。撃ちます!』
砲門から光弾が迸る。瞬きの間に6発――実質18発の戦艦光弾が、暗闇を貫き、異世界帝国重巡洋艦に着弾した。
防御障壁があろうとも貫通するアルパガス級戦艦のルクス三連砲を叩き込まれ、プラクス級重巡洋艦がその艦体を吹き飛ばされて爆発四散した。直撃したなら、重巡洋艦の装甲など戦艦の主砲を前には紙切れも同然だった。
『敵艦、轟沈!』
「幸先よし!」
前島艦長が声を上げた時、周囲が騒々しくなった。
闇夜に浮かび上がる海上の炎に照らされ、『諏方』の周りに次々と艦影が現れたのだ。
転移中継装置に導かれて、日本艦艇が次々に敵輸送船団の前に到着する。
『右舷、第一艦隊。旗艦「遠江」、続いて「播磨」』
「来たか、主力戦闘群」
宮里は相好を崩す。
連合艦隊の主力艦隊。一時、マダガスカル島へ向かったと思われた第一艦隊ほか主力戦闘群が、転移中継装置によって、本来の目標である敵輸送船団の前に現れたのだ。
・ ・ ・
異世界帝国輸送船団の護衛部隊は、混乱の極致にあった。
突然、日本海軍の戦艦2隻が目の前に現れただけでも面倒なのに、どこから湧いてきたのか次々と日本艦艇が出現し、進路を塞いだのだ。
戦闘を担当する四つの戦闘群が、すでに交戦しているが、それとは別の日本艦隊が新たに現れた。
『左舷方向、第二艦隊が転移!』
第一艦隊旗艦、『遠江』の艦橋で、原 忠一中将は口元を引き締めた。
「ようし、我が第一艦隊も、正面の敵を粉砕せよ!」
第一艦隊、戦艦12隻は、敵の巡洋艦や護衛空母にその砲門を向ける。
一方、重巡『鳥海』『摩耶』『大雪』3隻と、軽巡『高瀬』『渡良瀬』『久慈』『雲出』が第一、第三水雷戦隊の先陣を切るように、敵輸送船団へ砲撃を開始した。
中央から堂々と行く第一艦隊に対して、栗田中将率いる第二艦隊は、敵船団の左へと回り込む機動を取りつつ、その主要全砲門を、船団側へと向けられるように動いた。
その長い単縦陣は、さながら統制のとれた鉄砲隊よろしく、一斉に砲弾を撃ち込む。
『雲仙』ほか大型巡洋艦戦隊の30.5センチ砲、金剛型戦艦4隻の35.6センチ砲、重巡洋艦8隻の20.3センチ砲、軽巡洋艦3隻の15.5センチ砲が火を吹くたびに、異世界帝国艦、輸送艦が火の手を上げ、あるいは派手に爆発する。
食料は燃え上がり、弾薬は誘爆。戦車は船もろとも海没し、セイロン島、もしくはカルカッタに上陸するはずだった異世界兵たちを死の海へと引きずり込む。
輸送船団は、ほぼ停船状態だったために、まさに海の上の的だった。周りに船があり過ぎて、逃げることもできない。
重巡洋艦『伊吹』『鞍馬』『吾妻』『磐梯』、『妙高』『那智』『足柄』『羽黒』の20.3センチ砲が矢継ぎ早に放たれ、大型の輸送艦や支援輸送艦もまた破片を撒き散らして炎上、そして沈んでいく。
軽巡洋艦に改装された『青葉』に率いられた第二水雷戦隊の16隻の駆逐艦も突入。艦隊型駆逐艦として作られた陽炎型8隻、夕雲型8隻が、得意の水上戦闘で遺憾なくその能力を発揮し、敵船舶を叩きに叩いた。
まさしく一方的な戦いであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます