第509話、襲撃される艦隊、救援する艦隊


 異世界帝国第一群を第二機動艦隊が襲っている頃、第三群を、第七艦隊が襲撃していた。


 第五十一戦隊の戦艦『扶桑』『山城』『隠岐』が35.6センチ砲と41センチ砲で近距離砲戦を挑めば、大型巡洋艦『黒姫』『荒海』『八海』『摩周』が50口径30.5センチ砲二基を振りかざし、誘導兵器を手近な巡洋艦などに撃ち込む。


 奇襲攻撃隊によって艦橋を潰された異世界帝国戦艦群は、被弾の炎がよい目印となった。艦の命令を発する部署が沈黙し、復旧を急いでいるところを、砲弾が容赦なく撃ち込まれた。


 扶桑型の35.6センチ砲弾でも40.6センチ砲防御装甲を貫ける距離だ。『ビスマルク』改装の『隠岐』の41センチ砲弾が、敵戦艦にねじ込まれ、派手に吹き飛ぶ。


 大巡『黒姫』は30.5センチ連装砲四基、残る3隻の大巡は同三連装砲二基で、着実に巡洋艦を狩り、魚雷で敵戦艦を攻撃。破壊と浸水で敵艦を海に引きずり込んだ。


『初瀬』『八島』の特殊巡洋艦も対艦誘導弾で敵を減らしていく中、重巡洋艦『那岐』――アドミラル・ヒッパー級巡洋艦『ブリュッヒャー』改装のこの艦は、改装『妙高』や『高雄』型と同じ20.3センチ連装速射砲を矢継ぎ早に撃ち込んで、水雷戦隊のための道を切り開く。


 軽巡洋艦『滝波』『佐波さば』は、改水無瀬型ともいうべき小型軽巡で、元はイギリスの2代目アリシューザ級の改装艦だ。


 50口径15.2センチ連装速射砲三基六門を主砲に持ち、水無瀬型、阿賀野型、改装された『鹿島』に近い火力がある。対駆逐艦用巡洋艦というべき2隻は、第九水雷戦隊のための露払いとして、敵駆逐艦を狙い撃つ。

 なおこの2隻は、転移巡洋艦としても運用が可能である。


 インド洋艦隊第三群は、司令官を空襲で失い、近距離での夜戦を挑まれている。頼みの戦艦が反撃もままならず、一方的に砲撃、そして雷撃を許し、沈められていく。

 18隻の巡洋艦も、大型巡洋艦の30.5センチ砲と、特殊巡洋艦と合わせての対艦誘導弾を浴びて、次々に損傷、そして撃沈。

 駆逐艦48隻は、駆逐巡洋艦の猛撃と、第九水雷戦隊の砲雷撃。九水戦旗艦である『九頭竜』――重雷装巡洋艦の多数の誘導魚雷に返り討ちにあった。



  ・  ・  ・



 ムンドゥス帝国インド洋艦隊総旗艦『プロートン』。オロス大将は、日本軍の夜襲という報告に思わず歯噛みした。

 しかし何より司令長官を苛立たせたのは、第一群と第三群がそれぞれ統制をとれず、やられていることであった。


 夜間襲撃は、当初から予想されてはいた。一つの群につき、戦艦9、重巡洋艦9、軽巡洋艦9、駆逐艦48を与えている。日本軍の一個艦隊が乗り込んできても互角以上に渡り合える戦力だ。

 しかし現実には、戦艦部隊が真っ先に指揮系統をやられ、そこから回復する間もなく、数をすり減らしている。


「どうしてこう裏目裏目になるのだ?」

「長官、救援に向かいましょう」


 テルモン参謀長は冷静に告げた。


「第二群に第一群の救援。我が第四群は、第三群の援護に向かいましょう。このまま手をこまねいていれば、中央の輸送艦隊が狙われます。あれをやられれば、我々の負けです」

「うむ。……我々が移動した隙を、日本軍が転移して向かってくる可能性は?」


 オロスが言えば、テルモンは眼鏡を押し上げた。


「無論ありますが、移動しなければ結局、第一群、第三群が突破されたところから攻撃されます」


 輸送艦隊の結果は同じだ。何もせずやられるか、救援に移動した隙間を狙われてやられるか。傍観は、ムンドゥス帝国軍人として恥ずべきことだ。オロスは覚悟を決めた。


「第三群の救援に向かう。輸送艦隊の護衛部隊には、敵襲に警戒するよう告げよ」


 中央の輸送船団には、小型空母20、重巡洋艦4、軽巡洋艦4、駆逐艦48が護衛についている。まったくの無防備ではなく、また各群から戦力を振り向けることもよほどのことがなければないだろう。


 第四群は速度を上げて、交戦する第三群へと急行する。

 水平線に瞬く閃光とキャンドルのように燃える光。日本艦隊の襲撃でやられた友軍のものと思えば、異世界帝国将兵らの戦意とやり返してやろうという使命感は否が応でも盛り上がった。


 一方で、海面はこれ以上ないほどどす黒く、第三群と日本艦隊との交戦の炎が反射する以外の光を、吸い込んでしまっているかのようだった。

 巡洋艦と駆逐艦に露払いをさせつつ、旗艦『プロートン』以下、戦艦群は単縦陣で航行する。

 そして、踏みつけた。


 意外と近い場所での轟音に、『プロートン』の司令塔内は、ざわつく。


「何の音だ? 報告!」

『前衛より入電! 複数の雷跡を確認。敵潜水艦の模様!』


 もたらされた報告に、参謀たち、そしてオロスもまた苦い顔になった。


「ここで潜水艦か……!」


 後方の第四群が救援に駆けつけると予想し、日本軍は潜水艦部隊を潜ませていたのだ。こちらが艦隊の速度を上げることで、対潜索敵能力落ちることを見越して。


 低速の輸送艦隊と足並みを揃えている間は、索敵範囲も広く、また探知能力も高いが、ひとたび速度を出すと、自らの出すエンジン音で精度と範囲が下がる。

 急いでいる時は、足元が疎かになるとはよく言ったものだ。


「わざわざ第三群をスルーして、こちらが駆けつけるのを待ち伏せとは……。やはり日本軍、侮り難し」



  ・  ・  ・



 オロス大将の第四群を襲撃したのは、日本海軍第一〇艦隊の呂号潜水艦だった。

 古賀大将率いる無人自動艦隊に所属する第十四潜水戦隊、15隻の呂号――元Uボート改装の潜水艦部隊は、各4門の魚雷発射管から順次、誘導魚雷を発射。夜間高速航行をする異世界帝国艦に雷撃を仕掛けたのだった。


 転移奇襲を警戒していた異世界帝国巡洋艦は、その初撃に耐えた。が、シールドなしの駆逐艦はそうはいかず、次々と魚雷によるダメージを受けて大破、轟沈していく。慌てて回避運動をしても、誘導された魚雷からは逃れられない。


 速度を出していただけに、索敵範囲外となってしまった位置からの攻撃である。ソナールームは、潜水艦を見つけられず、艦艇の見張り員は目を皿のようにして海面を睨む。


『右舷後方より雷跡! 至近!』

「面舵いっぱーい!」


 艦長が回避を選ぶのは反射的なものだ。しかし酸素魚雷の航跡は海に溶け込みやすく、発見が難しいという代物だ。故に発見された時点ですでに手遅れというのも珍しくはない。そしてそれが誘導されるとあれば、もはや逃げ場なし。


「対魚雷防御――うわっ!?」


 艦尾を魚雷に吹っ飛ばされ、駆逐艦が前のめりになったかと思うと、ガクンと上下に揺さぶられた。その衝撃の強さに船体が千切れる。乗員の中には揺れの激しさに床や壁に激突する者が相次いだ。


 かくて、第四群はその出鼻をくじかれる形となった。

 だが、日本軍の攻撃はこれで終わりではない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る