第366話、全艦艇、離脱!
「まさか、夜間戦闘は自分たちの専売特許と思ってないよなぁ、異世界人!」
空母「海龍」戦闘機隊長、宮内 桜大尉は九九式戦闘爆撃機を駆り、異世界帝国の夜間航空隊に上方からのダイブアタックを敢行した。
サイズが大きめなのは艦爆か艦攻だろう。それに対しては、小型の誘導ロケット弾。エントマという高速戦闘機には機銃を。
遮蔽を解除し、一挙に降下。最高時速ぶっちぎりの700キロオーバーでダイブしながら、九九式戦爆の編隊が攻撃を仕掛ける。
夜の闇にも、能力者の夜目の魔法、もしくは魔力視力ゴーグルで視界を確保した日本海軍搭乗員たち――特に第七航空戦隊航空隊は、夜間戦闘歴も長い日本海軍の歴戦部隊であった。
雪崩を打って降ってきた九九式戦爆によって、次々と火を噴いて墜ちていく異世界帝国機。
見慣れたハチのようなエントマ戦闘機が、機銃の雨に翼をもがれ、胴体を蜂の巣にされる。
宮内ら古参組も初となる、空飛ぶお皿のような攻撃機――ランビリス夜間攻撃機も、飛来した誘導ロケット弾の直撃を受けて爆散する。
敵編隊を突き抜け、宮内は振り返る。
「なんでぇ、あの円盤。あんなもんでも空を飛べるのかい」
奇襲は成功。次々に降下攻撃を仕掛ける各空母航空隊により、異世界帝国の夜間航空隊が血祭りにあげられていく。
後部から盛大に燃えながら墜落する円盤を見ながら、
「お前らに、こっちの夜戦部隊の邪魔をされるわけにもいかねえんだ。だからここで――」
宮内の操縦する九九式戦爆が、エントマの後ろにつく。
「墜ちやがれ!」
ブローニング12.7ミリ機銃が、曳光弾の尾を引きながら、敵機を穿つ。錐揉みしながらエントマは墜落。真っ黒な海に激突して果てた。
・ ・ ・
第二機動艦隊、第四部隊は、戦場より離れた場所にいた。その編成は、第七、第八航空戦隊の空母8隻からなる潜水型航空母艦である。
・第四部隊:山口多門中将
第七航空戦隊:「大龍」「海龍」「剣龍」「瑞龍」
第八航空戦隊:「加賀」「応龍」「蛟竜」「神龍」
これらは夜戦に突入せず、敵が夜間航空機を飛ばしてきた時の、敵機を散らす防空任務と、必要あれば敵艦隊への攻撃を行う。
今は、水上部隊が敵艦隊に殴り込みをかけているため、航空隊はそちらには近づかない。
いくら夜間視界の問題がクリアされているとはいえ、乱戦の場ともなれば誤射、誤爆の可能性も増大する。射線に味方がかすめて、とっさに攻撃できず機会を逃す、または味方に撃ち落とされるのもあり得るのだ。
かくて、敵大西洋艦隊が誇るナイトストライカーズを襲撃した第四部隊航空隊は、敵機の夜戦への乱入を阻止することに成功した。
一方、異世界帝国大西洋艦隊は、第一、第二部隊の転移移動による挟撃じみた夜戦によって、右往左往していた。
空振りを食らった戦艦、巡洋艦、駆逐艦が反転し、迎撃に向かおうとしたところ、次なる攻撃が襲いかかった。
異世界人の注目が反対側に向いているところに、第三部隊――特殊巡洋艦3隻ずつで構成された第二十七、第二十九戦隊が浮上した。
『球磨』『多摩』『阿武隈』、『北上』『大井』『木曽』の5500トン型巡洋艦の改装組は、魚雷に代わり、多数の大型対艦誘導弾を装備した重誘導弾搭載艦である。
これら6隻が誘導弾を発射する中、第三部隊に所属する第十七潜水戦隊9隻の潜水艦が、誘導魚雷を一斉に発射した。
・第三部隊
第二十七戦隊(特殊巡洋艦):「球磨」「多摩」「阿武隈」
第二十九戦隊(特殊巡洋艦):「北上」「大井」「木曽」
第十七潜水戦隊:補給・潜水母艦3:『ばーじにあ丸』『あいおわ丸』『迅鯨』
・第七十潜水隊 :伊600、伊611、伊612
・第七十一潜水隊:伊607、伊608、伊613
・第七十二潜水隊:伊609、伊610、伊614
特マ潜水艦による魚雷攻撃は、反転しつつある敵駆逐艦、巡洋艦の列に飛び込み、その艦体をアッパーの如く突き上げた。
持ち上げられ、さらに落下する際に真っ二つに折れる駆逐艦。底を打ち破られ、爆発、艦体が割れるメテオーラ級軽巡。
特殊巡洋艦が放った誘導弾は、味方を避けつつ転進していたオリクト級戦艦の列を襲う。誘導弾が、艦橋や装甲の比較的弱い場所に突き刺さり、損傷ないし中破する。
右から左。そして再び右からの一撃に、異世界帝国の護衛艦隊を混乱させる。右にいた戦艦がいなくなり、代わりに左に戦艦が現れた。今度はその左の敵に向かえと言われたところに、再び右から攻撃。雷撃により駆逐艦が沈み、巡洋艦戦隊や駆逐隊司令たちに迷いが生じる。
左の敵に対応しようと巡洋・駆逐艦部隊が移動し、空母部隊と入れ替わったところを再度、誘導弾や雷撃に晒されるのではないか?
移動する前に、いくつかの隊で右の敵に対応しなければ、また空母が狙われる。
恐るべき左右挟撃。
ごちゃ混ぜとなった闇鍋のような戦場は、収拾がつかなくなる寸前であった。
だが、ここで異世界帝国艦隊の動きは変わった。
日本側は知らないが、大西洋艦隊司令長官リーリース・テロス大将は、艦隊に命じたのだ。
『全艦艇、防御シールドを展開し、東へ退避、前進せよ!』
これにより、異世界帝国艦は、攻撃を取り止め、防御に集中しながら全艦艇が一斉に東に艦首を向けて、離脱行動にかかった。
この動きに対して、第二機動艦隊の角田中将は、攻撃続行を命じて、敵艦隊に追いすがった。
しかし、なお果敢に攻め掛かったが、敵の防御障壁によって攻撃効率は低下。数隻の撃沈戦果を計上したものの、異世界帝国艦隊は、次第に陣形の乱れが解消されてきた。
「攻撃止め! 追撃中止せよ!」
角田は、すでに奇襲の効果はなく、敵が統制を取り戻しつつあると判断した。さらに誘導弾や魚雷兵装の無駄撃ちを嫌い、各部隊を離脱させた。
かくて、第一夜戦は終了した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
・5500トン型改特殊巡洋艦:『北上』
基準排水量:6230トン
全長:162.15メートル
全幅:14.2メートル
出力:マ式10万馬力
速力:34ノット
兵装:14センチ連装自動砲×1
試製40ミリ連装機銃×3 → 8センチ単装光弾高角砲×2
四連装対艦誘導発射管×8 六連装対空誘導垂直発射管×2
対潜短魚雷投下機×2 誘導機雷×24
20ミリ連装機銃×4
航空兵装:――
姉妹艦:『球磨』『多摩』『大井』『木曽』『阿武隈』
その他:5500トン型巡洋艦の球磨型(長良型)の改装艦。魚雷を多数装備した重雷装艦仕様を、対艦誘導弾発射管に換装。機関もマ式にし、潜水機能を持たせた。よって、ミサイル戦型の特殊巡洋艦に艦種が変更された。初期改装艦は、撤去された3、4番主砲跡に対空機銃を装備したが、光弾砲が配備された後は、両用砲仕様の光弾砲に交換された。
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