第362話、夜戦! 第二機動艦隊


 艦隊後方からの熱線砲により、15隻轟沈。5隻大破の損害を受けたムンドゥス帝国大西洋艦隊。


 旗艦『ディアドコス』、司令長官リーリース・テロス大将は、改めて損害表を確認した。


 中型空母5隻の他、護衛戦艦『デューク・オブ・ヨーク』『レナウン』が轟沈し、『プリンス・オブ・ウェールズ』『ハウ』が大破、航行不能となった。


 これらはイギリス戦艦の撃沈、回収艦であったが、後衛に配置した戦艦群の損害も馬鹿にならない。もし敵艦隊が追い上げてくるならば、左右の展開する戦艦戦隊を回さないといけなくなる。


「敵の攻撃前に、気づけなかったの?」


 テロスが問えば、当直参謀は背筋を伸ばしたまま答えた。


「そのようです。被害報告のほうが早いくらいでしたから。おそらく、転移で現れたものと思われます」

「でしょうね」


 さすがに普通に航行していれば、熱線砲発射のシークエンスに入る前に、警戒機なり後衛艦艇のレーダーなどが接近に気づき、通報しただろうから。


「敵の数は?」

「急行した警戒機からの報告によれば、戦艦12、重巡洋艦8、軽巡洋艦16です。中規模ですが、熱線砲はこの戦艦群かと……」

「敵は熱線砲を斉射した。次の発射までに時間が掛かるはずね。でもその間に護衛の巡洋艦が突っ込んでくるはず……。中央部隊で後ろの防備を固めなさい。それと、ナイトストライカーズを出して、爆撃させるのよ」


 大西洋艦隊には、夜間戦闘が可能な精鋭航空部隊がいる。これらは日本軍の夜戦に備えて、待機させていた。


「すでに第1空母戦隊から、ストライカーズが発進しております!」

「よろしい。完全に夜になる前に仕掛けたつもりでしょうけど、やられた分はきっちりお返しさせてもらうわ――」


 テロスが指揮棒を握った時、比較的近くで爆発音が響いた。空はすっかり暗くなり、すでに夜戦の時間に突入している。


「今のは何?」


 思いのほか近く、大西洋艦隊の陣形内に響いたようだが――


『敵襲! 陣形内に、敵と思われる艦艇出現!』


 見張りの報告に、司令部は騒然となる。攻撃に備えようとした矢先に、すでに敵が艦隊内に入り込んできたとは。


「転移か!」


 テロスは吐き捨てた。



  ・  ・  ・



 残念ながら転移ではなかった。


 夜の闇に紛れて、海中から日本艦隊が飛び出してくる。それに巻き込まれた異世界帝国駆逐艦が防御障壁ごと体当たりを食らって真っ二つに引き裂かれた。


「突撃だっ! 敵空母に突撃せよっ!」


 第二機動艦隊司令長官、角田 覚治中将は吼えた。


 第八戦隊の戦艦『近江』は、敵駆逐艦を挽きつぶした後、艦首の主砲を発砲。正面を航行していた敵重巡洋艦の土手っ腹に一撃を叩き込み爆発させた。至近距離の不意打ちには、敵艦も為す術がなかった。


『近江』は、中央部隊の前側にいるリトス級大型空母の横列に艦首を向け、31ノットの高速力で追いすがる。


 英リヴェンジ級戦艦の改装艦である『近江』と僚艦『駿河』は、異世界帝国の航空戦艦によって一度は撃沈されたが、改装により強化され、さらに潜水機能を獲得した。マ式機関に換装、16万馬力により、速力も29ノットから31ノットに向上している。


 第八戦隊は『近江』を先頭に『駿河』『常陸』『磐城』が続く。その周りには潜水雷撃戦隊である八水戦の駆逐艦がつき、すでに周囲の敵駆逐艦に砲撃を開始している。


『左舷方向、敵戦艦戦隊が、我が戦隊と同航しつつあり!』


 見張り員が報告した。異世界帝国の陣形の外周に、3、4隻の戦艦戦隊が六方向に配置され、さらに中央の旗艦の周りに7隻の戦艦がいた。

 角田の八戦隊は、その外周の戦艦や護衛艦の内側に浮上し、中央を目指していた。だが前列右に配置されていた敵戦艦4隻が、侵入を阻止しようと向かってきたのだ。


「反応が早い!」


 参謀長の古村 啓蔵少将が舌を巻く。敵も夜戦を警戒していたか。


「敵の艦種は何だ? 主力の甲型か、型落ちの乙型か……」


 角田の呟きに、田原 吉興よしおき艦長が見張りに確認を取る。返事はすぐにきた。


『敵はイタリア戦艦、リットリオ級!』 

「リットリオ級……!」


 ヴィットリオ・ヴェネト級もしくはリットリオ級と言われるイタリア海軍の新鋭戦艦である。

 ワシントン海軍軍縮条約の代艦建造で、フランスのダンケルク級、リシュリュー級への対抗馬として作られた。

 異世界帝国が、撃沈した地球製軍艦をサルベージし、再生して使用しているが、このリットリオ級もそれだろう。


「四隻目も就役していたのか」


 第八戦隊に併走するは、リットリオ級戦艦4隻。基準排水量、約4万1000トン。全長237メートル、全幅32.95メートル。機関出力13万馬力を誇り、30ノットを発揮する高速戦艦である。


 その主砲は50口径38.1センチ三連装砲三基九門。イタリアの誇るオート・メラーラ社の1934年式砲は、最大射程4万4000メートルと大和型を凌駕する。数字の上では欧州では標準的な38.1センチ砲だが、高初速のそれはライバルの一つである英戦艦の40.6センチ砲に匹敵すると言われる。


 イタリア海軍特有の航続距離の短さを除けば、走攻守に高いレベルでバランスがとれた新鋭戦艦である。

 まともにやりあえば、旧式戦艦リユース艦である近江型、常陸型では互角、もしくはやや劣勢であった。


 何故、互角かといえば、すでに双方、装甲の安全距離を無視した近距離であったためだ。ここまで近いと、格下の35.6センチ砲弾でも当たれば致命傷になりかねない。

 だが――


「目指すは敵空母だ!」


 角田は真っ直ぐを見据えて言った。


「敵戦艦には、新兵装で対応せよ! 『近江』は先頭艦! 『駿河』以降は併走する敵戦艦を狙え! 発射門数は、各艦長に一任する!」


『近江』は38センチ砲から換装された41センチ連装砲を正面の空母に向けたまま進む。敵戦艦の主砲が八戦隊に旋回する中、『近江』以下八戦隊の戦艦の艦首と艦尾甲板に装備された小型化した三連装魚雷発射管のような装置が敵艦に向く。


『一番、二番、目標、敵先頭艦、照準よーし!』

「長官」


 田原艦長の確認に、角田は首肯した。


「やれ」

「艦首・艦尾光線砲、一門砲、発射!」


 戦艦『近江』の三連装光線砲二基が、それぞれ一条の光線を放つ。闇夜を貫く野太い光は、併走する戦艦『ヴィットリオ・ヴェネト』の艦首と艦尾に突き刺さり、その艦体を溶断するような跡を刻むと、直後に紅蓮の火球を生み出した。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

・近江型戦艦改二:『近江』(リヴェンジ級戦艦改装改二)

基準排水量:3万5000トン

全長:220メートル

全幅:31.7メートル

出力:マ式16万馬力

速力:31ノット

兵装:45口径41センチ連装砲×4  三連装イ型光線砲×2 

   40口径12.7センチ連装高角砲×8  40ミリ光弾砲×16 

   20ミリ連装機銃×12  八連装対艦誘導弾発射管(煙突)×1

   誘導機雷×20 対潜短魚雷投下機×2

航空兵装:カタパルト×1 水上偵察機×1

姉妹艦:『駿河』(レゾリューション)

その他:リヴェンジ級戦艦を改修した近江型、そのさらなる改修型。主砲を改長門型の主砲に換装し、攻撃力の向上と共に船体構造を強化。潜水機能を有し、機関もマ式となっている。

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