第361話、マル予艦隊、先制す


 それは異世界帝国大西洋艦隊の後に忍び寄っていた。


 後方警戒の駆逐艦の範囲外に、つかず離れずの距離にいたそれらは、夕日が沈む時間帯を狙って、浮上を開始した。


 列強各国からパゴダマストと呼ばれた日本戦艦の特徴的艦橋、そして海面を割り、艦体が登るように現れる。


 第一〇艦隊――マル予計画で密かにサルベージ、改修された予備戦力から編成された特務艦隊は、予備ではなく現有戦力として前線にその姿を現した。


 旗艦、戦艦『伊予』。第一〇艦隊司令長官、古賀峯一大将は前方を見据えたまま、静かに艦隊浮上完了の時を待った。


 次々に姿を現す戦艦、巡洋艦。各艦は、艦首側に遮蔽を展開しており、敵のレーダーや見張り員の目を躱す。横から見れば傘を前に向けたような状態といえばよいだろうか。しかしあくまで前方のみなので、運が悪いと上空の哨戒機に目視される恐れはあった。


 さほど時間はかけない。すぐに終わらせる!


 第一〇艦隊は、戦艦6、重巡洋艦8、軽巡洋艦8、特殊砲撃艦:大型6、中型8の合計36隻と、急遽、援護戦力として、第十四潜水戦隊の特設潜水母艦2、呂号潜水艦18隻が合流していた。



●第一〇艦隊(無人自動艦隊):司令長官、古賀 峯一大将


 戦艦:「伊予」「淡路」「越前」「能登」「伊豆」「岩代」

 重巡洋艦:「阿寒」「葉山」「志賀」「三国」「飯縄」「多度」「七面」「玉置」

 軽巡洋艦:「和賀」「白沢」「斉勝」「半田」「大又」「阿仁」「巴波うずま」「初沢」


 特殊砲撃艦:

 戦艦型6 :特砲1、特砲2、特砲3、特砲4、特砲5、特砲6

 軽巡洋艦8:特中砲1、特中砲2、特中砲3、特中砲4、特中砲5、特中砲6、

       特中砲7、特中砲8


第十四潜水戦隊(特設潜水母艦2):にくら丸、ほくろ丸

  第六十三潜水隊:呂527、呂528、呂529、呂530、

         呂531、呂532、呂533、呂534、呂535

  第六十四潜水隊:呂536、呂537、呂538、呂539、呂540、

         呂541、呂542、呂543、呂544



 見た目は勇壮。精強な艦隊に見えるが、その乗員は少数である。魔核と自動コアによる無人化が図られ、各艦の乗員は指令艦である旗艦で30人以下。それ以外の艦も10名前後と少数運用となっている。


「長官、潜水艦を除く全艦、浮上完了しました」


 戦艦『伊予』の艦橋。古賀に対し、第一〇艦隊臨時参謀長である土岐中将が、どこかのんびりした調子で報告した。

 古賀は静かに頷いた。


「特殊砲撃艦に伝達。艦首熱線砲、発射準備にかかれ」


 第一〇艦隊に与えられた任務は、特殊砲撃艦による一撃必殺の熱線砲による一斉射撃。艦隊臨時参謀である神 重徳大佐は、自分の思いつきが具現化し、力を発揮するだろう場に居合わせ、興奮を隠しきれなかった。


 セイロン島の海軍工廠にて、熱線砲周りの修復ないし、搭載して緊急就役を果たした特殊砲撃艦が、艦隊前面の遮蔽を解除し、エネルギーの充填に掛かる。艦首上にて、強力な光が収束し始める。


 沈む陽光に紛れて、敵艦隊からの発見を遅らせようと配置はしているが、おそらくあまり意味はないだろうと古賀は思っている。目のいい見張りは、異変に気づき、通報しているだろう。


 エネルギーを艦の外で収束し飛ばすという熱線砲の構造上、海中で充填、発射ができないのは欠点ではあるが、海中でこなせる発射シークエンスを実施したことで、浮上後、1分で発射可能状態になる。


「まず特中砲で護衛を散らす! 続いて、特砲、ならびに戦艦戦隊で大物を狙う!」


 軽巡洋艦ベースの特殊砲撃艦は、異世界帝国艦にもなかったこのサイズでの熱線砲装備である。出力で戦艦級に劣るため、巡洋艦辺りを狙い、その防衛網に穴を開け、より強力な大型艦による本命熱線砲を叩き込む。

 すでに熱線砲搭載艦の艦首は、眩い光に溢れて直視も困難な明るさである。


「特殊砲撃艦ならびに戦艦戦隊、エネルギー充填、完了。発射準備、よし!」

「特中砲、発射! 続いて戦艦戦隊、特砲発射!」


 眩い光と共に、まず横列陣に展開した特中砲の8隻が熱線砲を放った。

 それに遅れること10秒後、戦艦『伊予』ら戦艦戦隊6隻と、3隻ずつ左右に展開する戦艦級特殊砲撃艦が、熱線砲を発射した。


 西日が没しようとする水平線の輝きは、やがて光線となって異世界帝国大西洋艦隊の後尾に伸びた。


 8本の光は、射線上にいた駆逐艦のマストを蒸発させ、プラクス級重巡洋艦に直撃し、大爆発を起こした。


 そして間髪を入れず、12本のより強い光が、艦隊後衛の戦艦列に突き刺さり、または爆発の煙を裂いて、空母群の中で最も後ろに配置されていたアルクトス級中型空母5隻の艦尾を貫き、溶解。そして火山の如く爆散した。



  ・  ・  ・



 ムンドゥス帝国各艦に、敵襲の警報が響き渡る。


 航空戦艦『ディアドコス』も例外はなかったが、司令長官のリーリース・テロス大将は、司令塔にはいなかった。夜戦の可能性を考え、早めに夕食を摂ろうと艦橋を後にしていたのだ。夕食を邪魔され、女司令長官が駆けつけると、司令塔内は騒然としていた。


「報告!」

「当艦隊後方より、日本軍とおぼしき敵艦隊が出現しました!」


 当直の航空参謀が、直立不動で答えた。


「熱線砲と思われる攻撃を受けて、中型空母5、戦艦2、巡洋艦5、駆逐艦3が轟沈。ほか戦艦2隻、巡洋艦1、駆逐艦2大破、航行不能であります!」

「なんですって!?」


 テロスは愕然とした。警報からすぐに駆けつけた。そのわずかな間で受ける損害としては異常な数字だった。

 しかし、何より彼女を驚かせたのは――


「熱線砲? 確かなの!?」

「はっ、目撃報告ではそのように。熱線砲か、それに類似した兵器であることは間違いありません」

「何てこと!」


 日本軍が、ムンドゥス帝国の最新バージョンの戦艦に搭載した強力なる必殺兵器、熱線砲を使う。

 直線軌道なので、航空機に比べれば射程範囲は狭いのだが、当たれば5万トン超えの戦艦すら轟沈も可能な兵器である。

 ムンドゥス帝国将兵に戦慄が走った。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

・特殊砲撃艦:戦艦型

基準排水量:5万1000トン

全長:260メートル

全幅:35メートル

出力:魔式機関16万馬力

速力:30.7ノット

兵装:イ型熱線砲×1  三連装イ型光線砲×4

   12.7センチ連装高角光弾砲×6

航空兵装:――

姉妹艦:

その他:撃沈したムンドゥス帝国の主力戦艦A型を、日本海軍が再生、改修した艦艇。本来は改美濃型戦艦として再生される予定だったが、武装の量産が遅れた結果、熱線砲を用いた特殊砲撃艦として完成する。潜水機能を持つ。大幅な自動化が図られ、武装が最低限になった結果、乗員もさらに減少した。

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