第314話、無人航空機に対する米海軍
異世界側の奇襲攻撃隊の攻撃は、日本、米国双方の艦隊にダメージを与えたが、致命的な被害とまではいかなかった。
米第三艦隊では、第一群の空母群が一時的に全て使用できなくなったが、残る空母からは補給を終えたF6Fヘルキャットが、直掩に飛び立った。
ここにきて、それまで懸命な艦隊防空で時間を稼いでくれた日本海軍のF6F――業風が補給のために、米残存空母への収容作業にかかった。
「命を懸けた東洋の友人たちに失礼のないようにな!」
マーク・ミッチャー中将は、収容する各空母に通達を出した。米艦隊のクルーたちは、日本製F6Fが、体当たりしてでも敵機を阻止した光景を目撃していたから、人種の問題はさておき、日本人への偏見をひとまず棚上げした。助けてもらった以上、借りというものがある。
初めての米空母への着艦も、業風戦闘機は、綺麗なアプローチを見せた。F6Fを見慣れているせいもあるが、着艦へのアプローチが機械的に揃っていて、誘導員はその練度にビックリした。
失礼な言い方だが、チビで出っ歯で眼鏡な日本人像とかけ離れた技量を見せつけられたのだ。
だが戸惑いは、さらに加速する。着艦した業風に、日本人パイロットはわずか二人か三人。残りは皆、コアとかいう機械による自動操縦だったのだ。
第三艦隊旗艦『オーガスタ』のレイモンド・スプルーアンス大将は、ミッチャーからの報告に耳を疑った。
「日本人は、戦闘機を無人で飛ばしているのか!?」
そんな話は合同会議の際にも聞いていなかった。ただ、やたら人手不足という話はしていたのは覚えている。
「彼らは人員不足を機械で補っているのか……」
「そのようです」
カール・ムーア参謀長は、レポートから顔を上げた。
「ともあれ、数少ない日本人パイロットの指示で、彼らがゴーフーと呼ぶF6Fに、燃料と弾薬を補給。……まあ、これ自体は問題ありません。色は違えど、F6Fですから」
わざわざ日本人に説明されなくても、弾薬装填用の戸がどこかとか、燃料給油口の場所も、ついでにどこを整備すればいいのかもわかっている。
「クルーたちの反応はどうだった?」
スプルーアンスが問うと、ムーアは目を回してみせた。
「困惑しているようです。……どうも、一部のパイロットが日本人に文句を言いにいこうとしたようですが――」
「文句?」
「ええ、第一次攻撃隊の連中です。こちらは敵艦に肉薄して大きな損害を受けたのに、日本人は離れたところからロケットを打ち込んで楽をしたとか……まあ、そんなところです」
第三艦隊の第一次攻撃隊は、異世界帝国艦隊主力を攻撃に向かい、熾烈な対空砲火で大きな被害を受けた。多くの同僚や友を失ったから、気が立っていたのだろう。
「まさか揉め事になったりとか……?」
スプルーアンスが不安を口にする。ムーアは苦笑した。
「その前に収まったようです。殴り込もうとしたら、相手は機械しかいないなんて……」
ムーア自身、何と言ったらわからないという表情である。
「日本人も、異世界人との戦いで、大勢死んだんでしょう。パイロットたちも、それを目の当たりにして、違う意味でショックを受けたようです」
さぞ冷水をぶっかけられたような衝撃だっただろう。そしてこう思った。日本製F6Fのコクピットに鎮座する球体……それは近い未来、アメリカ人もこうなってしまうのではないか、と。
「荒事にならなくてよかった。しかし無人の航空機か」
スプルーアンスは考え深げな顔になる。
「この技術は、もしや異世界人の――」
「はい。本土でも研究中の異世界人の航空機のコアとかいう装置です」
ムーアは頷いた。
「日本人は、これを自軍で運用できるようにしたのでしょう」
米本土でも、撃墜した異世界帝国機から、無人で飛ぶコア搭載機を回収している。解析作業が進められているものの、まだ実戦運用できるレベルではなかった。
「日本人は独特の優れた器用さがあるのだろう」
「コピーが得意なんでしょう。欧米の技術も、何だかんだ再現し、時々オリジナル以上のものを作ったり、妙ちくりんな代物にしたりする……」
皮肉げにムーアは言った。米国人の抱く日本人像そのものである。
「日本は、我々と違い、敵の拠点をいくつか奪回していますから、その中で、上手く無傷のコアを手に入れたのかもしれません」
米国が回収したものは、基本戦闘で壊れているものばかりだった。陸軍のほうでは、敵が使うゴーレムや戦車の残骸を回収して、ここでもコアを解析、自軍の戦力に取り込めないか研究している。
「飛行機と戦車ではまったく違うが、コアに限ってみれば案外共通があるかもしれない。その辺りから、とっかかりがあるかも」
「いっそ日本人に教えてもらうのはどうですか? ……教えてくれるとも思いませんが」
「それが早いかもしれない」
割と真顔で言うスプルーアンス。冗談のつもりだったムーアは肩をすくめた。
「さて、コア談義についでは、この戦いが終わったらニミッツ長官に申し上げるとしてだ。……問題がある。先の敵の攻撃隊が、どこから飛んできたか、だ」
海図台へ歩み寄るスプルーアンスに、ムーアも続く。
「敵主力艦隊の空母は全滅した。ハワイの基地航空隊も沈黙している。残るは氷山空母だが――」
「日本軍が、うち三つを破壊したようです。さらにハワイ北方の氷山空母にも攻撃隊を差し向けたようで、残るは戦場からもっとも遠い東側の二つのみ」
「日本軍様々だな」
「まったくです。我が軍単独だったなら、おそらく物量で捻り潰されていました」
ムーアは認めた。ハワイ作戦は、日米の艦隊を揃えて、ようやく互角以上に渡り合えているのだ。
「かなり戦っているようだが、まだ本命の敵主力艦隊に攻撃が出来ていない」
「はい、敵の航空兵力がこちらの想定を上回る量を繰り出してきましたから、敵艦隊を本格的に攻撃できる余裕がありませんでした」
普通の戦いであったなら、空母がなくなった敵艦隊に日米機動部隊による攻撃隊が殺到し、大きな打撃を与えていたはずだった。しかし叩くべき敵航空隊が多く、艦隊攻撃が後回しになっている。
「日本のオザワ提督も、敵艦隊撃滅は大事だが、ハワイを攻略する船団への脅威を排除することも同じくらい重要だと認識していた。それは私も同感だ」
上陸船団が運ぶ陸軍、海兵隊がやられては、どれだけ自軍艦隊が残っていようとも、作戦は失敗だ。日本人はそれをフィリピン沖海戦で実証している。
このハワイ作戦において、優先すべきは敵航空隊とその基地乃至空母の撃滅。それが日米共通の認識であるなら、空母のない主力艦隊が後回しになるのも仕方のないことだった。
「そして、先の攻撃だ。第三艦隊でも北方寄りに位置していた第一群がやられた。これを攻撃した敵はどこから来たと思う?」
「ホノルル以外のハワイの島に、敵の飛行場がないのは確認済です」
ムーアはきっぱりと告げた。
「であるならば、北方の氷山空母――日本軍が攻撃中というそれより先に飛び立った第二次攻撃隊か、まだ別の海氷群に紛れていた部隊が仕掛けてきた、というところでしょうか」
「後者の可能性が高いな。先の襲撃は、それまでの規模に比べると小規模な部類だった」
大規模だったら、今頃、第三艦隊は壊滅的ダメージを受けていた可能性すらあった。
「もしそうであるなら、氷山空母さえ何とかすれば、海氷群の部隊は補給ができないので、一度きりの攻撃。制空権については、ようやく我らの方に傾いてきたと考えてもよいかもしれません」
ムーアは言った。氷山空母ならともかく、とりあえず海氷に載せて隠していました、という敵航空機は戻っても補給や整備が受けられないから、飛行場か空母を目指す必要がある。だが主なそれらはほとんど残っていない。あっても戦場から遠いものしかない。
しかし、スプルーアンスは慎重だった。
「偵察機を新たに出して調べさせろ。もし未確認の空母があったら、作戦全体がひっくり返される危険性もある」
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