第313話、隠れ航空隊の襲撃


 第二機動艦隊は、超低空を飛行してきた敵航空機、およそ70機の奇襲を受けた。


 数度に渡る攻撃を凌ぎ、補給と整備に忙しかった。それでもまったく無防備だったわけではなく、直掩機も飛んでいた。


 しかし、電探の目を潜り抜けてきた敵機をすべて阻止することはできず、第二機動艦隊、特に後衛部隊が空襲を受けた。



●後衛群


・戦艦

 連合艦隊旗艦:「敷島」

 第五戦隊(戦艦):「肥前」「周防」


・空母

 第四航空戦隊:「飛龍」「雲龍」

 第六航空戦隊:「瑞鷹」「海鷹」

 第十航空戦隊:「飛鷹」「隼鷹」「龍鳳」


・巡洋艦

 第十三戦隊(重巡洋艦):「阿蘇」「笠置」「身延」「最上」

 第二十二戦隊(防空巡洋艦):「木戸」「岩見」「真野」

 第二十七戦隊(特殊巡洋艦):「球磨」「多摩」「阿武隈」

 第三十五戦隊(防空巡洋艦):「天龍」「龍田」


第三水雷戦隊:(軽巡洋艦)「揖斐」

 第十一駆逐隊 :「朝霜」「秋霜」「早霜」「清霜」

 第十五駆逐隊 :「初秋」「早春」

 第十九駆逐隊 :「霜風」「朝東風」

 第四十四駆逐隊:「樫」「榧」



 各防空巡洋艦、第三水雷戦隊の駆逐艦が、戦闘機の迎撃を抜けてきた敵機を迎え撃つ。


 第二十二戦隊の『木戸』『岩見』は、12.7センチ連装高角砲五基十門、『真野』は同連装高角砲四基八門と、秋月型に近い配置で、どちらかと言えば新鋭防空駆逐艦レベルである。


 第三十五戦隊の『天龍』『龍田』は比較的新しい50口径12.7センチ高角砲を四基備え、かつての旧式とは段違いの防空能力を持っていた。


 また護衛の第三水雷戦隊、その主力は甲型としては新型である朝霜型駆逐艦が大半だった。


 基準排水量2100トン。全長117メートル、全幅11.6メートル。機関出力6万馬力、およそ38ノットの高速力を誇る。


 撃沈したムンドゥス帝国のエリヤ級駆逐艦を日本海軍がサルベージし、鹵獲後、改修。その艦型は夕雲型に準じたものに改装された結果、朝霜型、もしくは改夕雲型と呼ばれている。


 主砲は、秋月型と同じ長10センチ連装高角砲を装備しており、砲門数が2門少ない、連装三基六門だが、従来の甲型駆逐艦より遥かに優れた対空戦闘力を持っていた。


 一式障壁弾によって、張られた光の壁によって脱落する異世界帝国機。だが、彼らも味方の損害を乗り越えて、空母へと接近、攻撃を仕掛けた。


 特に攻撃を受けたのは第十航空戦隊だった。敵攻撃機のロケット弾攻撃を、『隼鷹』は三発、『龍鳳』は二発受けた。『飛鷹』も一発が艦橋の直前に命中したが、最悪だったのは機銃で撃墜した敵機が、艦体中央に激突、格納庫で爆発したことだ。


『飛鷹』は、隼鷹型航空母艦の二番艦である。元は日本郵船が建造した橿原丸級貨客船の二番艦『出雲丸』だった。日本政府が戦時に空母に改装することを条件に建造補助金が出された船だったが、異世界帝国の脅威を前に、空母へ改装された。


 空母にする予定だったとはいえ、元は民間船であり、正規の空母に比べると、最高速度に劣り、被害にも弱かった。


 そんな『飛鷹』では、航空隊の収容から補給作業の真っ最中だったこともあり、格納庫内の爆発はあっという間に連鎖し、大炎上となった。


 艦内が地獄と化す間、魚雷が命中し、『飛鷹』にトドメを刺した。艦の傾斜は早く、横倒しになり、そのまま海に没してしまったのだ。


 また敵機は、第四、第六航空戦隊にも牙を剥いた。『飛龍』『雲龍』、『瑞鷹』『海鷹』は必死の回避運動を行い、特に狙われた『瑞鷹』は歴戦艦だけあり、全弾回避に成功。編成されて日が浅い、『雲龍』『海鷹』は、熟練には遠く及ばないものの、魚撃回避に注力した結果、被弾を飛行甲板へのロケット弾攻撃のみに押さえた。


 両空母は、就役が最新だけあって、その甲板防御力は新型魔法防弾を採用。結果、甲板貫通を免れ、格納庫での誘爆には至らなかった。


 他、護衛艦に軽微な被害が出たが、収容、再編中を狙った攻撃としては最悪を免れることができた。直掩機が飛んでいたこともあって、零戦や烈風が、かなりの敵機を撃墜したのも大きかった。



  ・  ・  ・



 第二機動艦隊が奇襲された頃、米第三艦隊もまた、刺客の攻撃を受けていた。


 日本軍の業風戦闘機隊が、米側の誘導に従い、敵機を迎え撃ったが、発見が遅れた分、初動が遅れた。


 特に第一群は、ほどんど最終交戦ゾーン――対空砲火による防衛範囲にまで踏み込まれてしまっていた。このゾーンは、米海軍のマニュアルに従うなら、味方航空機も侵入できない。飛んでいる目標すべてを撃墜する範囲だからだ。


 ジョセフ・J・クラーク少将が指揮する第一群は大型空母2、軽空母2を中心に、重巡洋艦3、軽巡洋艦2、駆逐艦15隻から編成されている。


 これらは迫り来る異世界帝国機に、激しい対空射撃を展開した。特にアトランタ級軽巡洋艦『オークランド』『サンファン』は、防空巡洋艦だけあって、空母をよく守ったが、それでも防ぎきれなかった。


『エセックス』にロケット弾が三発命中。こちらは軽微な損害だったが、『ベローウッド』が雷撃を食らって速度低下、『モントレー』が大型爆弾の直撃で飛行甲板を貫通され、火達磨と化した。また重巡洋艦『キャンベラ』が被弾し、駆逐艦2隻が沈没した。


 他の航空群に飛んできた敵機については、日本製F6F――業風戦闘機が襲いかかり、空母への攻撃を防いだ。

 6丁の12.7ミリ機銃の連射に、蜂の巣になったミガ攻撃機が海に突っ込めば、弾切れを起こした業風が敵機に体当たりを仕掛けて、米艦隊を守ったりした。


 米艦隊乗員たちは、そんな日本製F6Fが身を挺して艦隊を守護する光景を複数件、目の当たりにした。


 いくら友軍とはいえ、自軍の母艦でもないのに体当たりまでして敵を阻止する日本機の姿に、米兵たちは血の気が引く。中には目の前で起きたことが信じられず、涙ぐむ者もいた。


『レキシントンⅡ』にいるマーク・ミッチャー中将も、アーレイ・バーグ参謀長も、それを目撃した米軍軍人となった。


 もっとも、これは被弾し機体に支障が出たと判断したコア制御の無人機が取る最終手段であり、残念ながら米国人が思うような感情的なものでなく、機械の行動であったわけだが、それを今の彼らに分かるはずもなかった。



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・朝霜型駆逐艦:『朝霜』

基準排水量:2100トン

全長:117メートル

全幅:11.6メートル

出力:6万馬力

速力:38ノット

兵装:長10センチ連装高角砲×3 大型魚雷×2 4連装魚雷発射管×2

   対潜短魚雷投下機×2  25ミリ三連装機銃×4 

航空兵装:――

姉妹艦:「早霜」「秋霜」「清霜」「高潮」「秋潮」「春潮」「若潮」「朝靄」「夕靄」「雨靄」「薄靄」「沖津風」「霜風」「朝東風」「初夏」「初秋」「早春」

その他:撃沈したムンドゥス帝国の主力駆逐艦エリヤ級を日本海軍が鹵獲、改修したもの。夕雲型に準じた雷装に、秋月型と同じ長10センチ連装高角砲を主砲として装備する。日本海軍では、便宜的に改夕雲型という扱いとなっている。

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