第280話、鹵獲兵器の使い道――通商破壊空母
軍令部部内。軍令部第一部長、中沢少将と軍令部第二部長、黒島少将は、実際に前線に行って帰ってきた神明少将から、一足早い報告を聞き取った。
実際、第二機動艦隊はまだマーシャル諸島攻略を続けている最中であり、軍令部には速報程度の情報しかない。故に、敵の戦術や新兵器の情報を聞き取り、そして唸っていた。
「うーん、飛行場ではない場所から航空機を発進かぁ」
やるなぁ、と黒島が言えば、中沢も。
「飛行場を叩けば、制空権が得られるという認識は、異世界帝国を相手には改めたほうがよさそうだな」
今後行われるだろうハワイ攻略戦でも、敵航空機の想定は、飛行場の数や規模より多く想定しておく必要がありそうだ。
「敵小型機も改良型がどんどん投入されているようです。中部太平洋海戦の頃には、短距離離着陸型から、垂直離着陸型が配備されていたという話もありますし」
マ式エンジン艦載機は、短い滑走距離で発艦ができるのが特徴ではあるが、今の日本軍には、その場から上へ飛び立つタイプの航空機は存在しない。
「垂直離着陸、か。……もしそれがあれば、飛行甲板をやられた空母も、機体を置ける広ささえあれば、発着艦ができるな」
黒島は、これも研究すべきだろう、と空技廠に話を通しておくと告げた。
「空技廠と言えば――例の敵重爆撃機。魔技研でも調べたのだろう?」
「ここに」
資料が、と神明は提出した。中沢が苦笑する。
「手回しがいいな」
「もしかしたら聞かれるかも、と思っていましたから」
「我々も、まだ空技廠からの報告を受けていなくてな」
絶賛調査中である。そんな中で、魔技研側のレポートは実に早かった。
鹵獲した重爆が装備していた、ほぼ使い捨てに近い砲口を持つ光線兵器、そして重爆撃機サイズに収められた防御障壁装置。それに対する分析結果は――
「なるほど、直進するから高高度のほうが射界が広くなるわけか」
「地上や艦艇からでは、水平線の向こうは狙えませんが、高高度なら見下ろせるので撃てると言うわけです」
「艦艇に積んだ場合は、重爆より射程が短くなるわけか」
「しかし、たとえば駆逐艦などに積めば、魚雷よりも早く、敵の大型艦でも撃沈できるのではないか?」
水雷屋でもある中沢が発言した。現状、ほぼ使い捨てに近い光線兵器だが、魚雷も積める本数から攻撃回数が限られるから、同じように使えるのではないか、という意見だ。
「使えれば強力ではありますが、駆逐艦などの小型艦は波によってかなり揺れますから、一発勝負では案外、接近しないと使えないかもしれません」
ほぼ直進するといっても、地上から撃つならともかく、波によって艦が上下する環境では、波の高さによっては射線がズレたり、波に隠れてしまうかもしれない。
黒島は口を開いた。
「それで、敵は空から爆撃機に使わせたわけか」
「使うとしたら、大型艦……もしくはこちらも空から?」
「今の日本の陸攻や爆撃機に、あの光線兵器を積める機体はないですが」
神明は言った。重量軽減の魔法処理で重さは誤魔化せるが、そもそも兵器が機体に収まらない。
「となると、潜水艦――」
「は?」
中沢は首を傾げる。黒島は続けた。
「ちょっとした思いつきだが、小型の潜水艦に、防御障壁と光線兵器を搭載して、攻撃対象の敵艦近くに浮上、光線兵器を発射するのだ。狙いをつけるまでは防御障壁を展開して攻撃を防ぎ、発射の瞬間に解除するとかすれば……どうだ?」
「……」
「そこまで近づくなら、最初から魚雷を発射したほうが早くないか?」
中沢は突っ込んだ。黒島は腕を組む。
「なら、小型の潜水艇ならどうでしょうか? 甲標的は魚雷を発射すると、バランスが崩れて使い難いと聞くが、魚雷ではなく、光線兵器なら……」
海兵では中沢の後輩である黒島は敬語を使った。
「いや、甲標的には無理だろう。サイズ的に」
「例えば、の話ですよ。小型の潜航艇に搭載したらの話で――」
などと白熱するやりとり。部から課へ話が下りたら、課員たちがこんな討議をするのだろう、と神明は、他人事のように思った。
「そういえば、神明。話は変わるが、魔技研の――いや多分、君が提案しただろう小規模な潜水機動部隊案、作戦課として承認した。第九艦隊に試験部隊を作って、実際にやらせることになった」
「そうですか」
潜水機動部隊案――ハワイからオーストラリアへの海上輸送路破壊用の、通商破壊部隊の話である。
鹵獲回収艦の中で、比較的余裕があるグラウクス級軽空母の活用法を模索していた海軍。正規空母級は機動部隊用に割り当てていたが、軽空母については、パイロット不足から、必要以上に再生しても使い道に困っていた。
小規模艦隊や船団護衛には、すでに大鷹型があって、航空機輸送艦や、陸軍が希望する上陸部隊支援特務船として譲渡もされたが、それでも余っていたのだ。
そこで提案されたのが、通商破壊空母という運用である。彩雲改という偵察攻撃機が試作され、偵察機がそのまま敵艦船を奇襲攻撃するという用途は、航行中の敵輸送船の襲撃に打ってつけであり、敵機動部隊と戦うわけではないので、空母も数機程度しか艦載機を載せる必要がない。
いざ強力な敵が現れれば、潜水して離脱が可能、とまさに通商破壊活動用の艦艇としての条件も揃っていた。
魔技研を通して、軍令部第五部から提出された案を、第一部作戦課が検討した結果、やろうと中沢は決めたのだった。
「ちょうど、第二機動艦隊の奇襲航空隊がハワイを叩いて、敵も物資や燃料の外部輸送が必要だと思う」
山口多聞中将が発案し、神明と樋端で細部を固めたハワイ奇襲作戦。広く浅く異世界帝国太平洋艦隊の艦艇にダメージを与え、港湾施設と外に露出した燃料タンクを叩いた。……実際のところ、真珠湾軍港の地下にも燃料タンクが存在しているという話なので、太平洋艦隊はまだ活動はできる。だが制限を与えたことには違いない。
「第六艦隊の潜水艦部隊が、すでに通商破壊活動はしているが、より広い範囲の索敵ができる通商破壊空母の活躍を期待する」
軽空母1隻に、護衛の潜水巡洋艦か駆逐艦、潜水母艦、そして2、3個潜水隊が1グループとして編成される潜水機動部隊案。もちろん、すべてが潜水行動が可能な艦で構成される。
ちなみに、中沢は、インド洋で撃沈、鹵獲した英空母『ハーミーズ』『イーグル』も通商破壊空母への改装候補に上げていると言った。艦載機搭載数が少なく、正規の機動艦隊に配属するには不足のこれらにも、役割を与えられそうだ、と。
「またまた話は変わるが、本職の第一機動艦隊参謀長として、どうだ? 第一機動艦隊の搭乗員の練度は?」
「ここ最近は、ひたすら猛訓練に勤しんでいるようですよ」
戦闘機は、すべて零戦五三型となり、艦爆、艦攻は流星で統一された。
黒島が口を開く。
「海軍では、航空隊を基地から切り離して、部隊の移動や配備をやりやすくする、いわゆる空地分離という新しい方式を採用の見込みだ。いずれ空母航空隊も、空母を基地と見立て、作戦ごとに航空隊を割り振っていく形になると思う。貴様も機動艦隊の参謀長だから、今のうちに覚えておけ」
「わかりました」
神明が頷くと、そこで黒島は声を潜めた。
「そこで、貴様に相談なんだが……海軍の次期主力戦闘機のことなんだがな――」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます