第278話、挺身部隊の帰還と、鹵獲重爆撃機


 真珠湾軍港の奇襲を成功させたY部隊は、戦艦『大和』らU部隊と合流し、マーシャル諸島方面へと針路を向けた。


 艦載機がすっからかんの第八航空戦隊だが、九頭島へ離脱した航空隊の戦果集計報告はすぐに届いて、山口多聞中将や、U部隊の宇垣纏中将を喜ばせた。


 異世界帝国太平洋艦隊と真珠湾軍港に痛打を浴びせ、しばしその行動の自由を奪うことに成功した。


 これで後顧の憂いなく、マーシャル諸島の攻略を進めることができるのだ。

 かくて、宇垣、山口の率いる挺身部隊が、マーシャル諸島に到着する頃には、第二機動艦隊は、クェゼリン、ウォッゼに続き、マロエラップの攻略にかかっていた。


 アヴラタワーを失い、現地守備隊の戦力が、死体兵とゴーレム程度しかない異世界帝国。それらの動作も、範囲内の防衛しかできないとあっては、上陸した日本陸海軍の敵ではなかった。


 発見次第、空爆を要請し、ゴーレムを破壊。陽動攻撃で死体兵の注意をついて挟撃などを繰り返すことで、各個撃破。潜伏していた敵からの不意討ちを受けない限り、戦死者もほとんど出ず、半ば掃討は作業と化していた。


 こうなっては、山本五十六大将や連合艦隊司令部がわざわざ出張るまでもなく、第二戦隊や大型巡洋艦『早池峰』ら、そして航空機のない第八航空戦隊と共に内地へ戻ることとなった。


「ご苦労だったね、山口君、宇垣君」


 山本長官は、Y、U部隊双方の活躍に満足し、指揮官を労った。


「マーシャル諸島攻略も時間の問題だ。アメリカからも連絡があってな。ミッドウェーを攻略し、次はハワイだと反撃の機運が高まっている。ハワイから異世界帝国の太平洋艦隊をやっつける日は遠くないぞ」

「ハワイを攻略したら、次はどこになります?」


 山口は問う。山本は頷いた。


「南太平洋、オーストラリア。アメリカさんは南米かもしれない」

「大陸のほうはどうでしょうか?」


 宇垣が口を開いた。


「陸軍は、奮闘していると聞いておりますが」

「うむ。大陸決戦という名のキャンペーンを着々とこなしておるよ。少なくとも、互角以上に渡り合っている。アメリカからのレンドリース、国内で生産している兵器などが揃えば、大反攻も可能だろうと、陸軍参謀本部は見ている」

「では、米国からの武器支援のためにも、ハワイ奪回は成功させねばなりませんな」

「そういうことだ」


 山本はそこで口元に笑みを浮かべた。


「君たち二人にも、大いに期待しているよ」



  ・  ・  ・



 ハワイ真珠湾軍港の奇襲の成功。Y部隊とU部隊が合流した後、第一機動艦隊参謀長だった神明少将は、転移で九頭島へと戻っていた。


 調査素材が山ほどある。

 ただ、機動艦隊参謀長という役職であるわけで、機動艦隊の再編や訓練などに付き合えずにいることを相談がてら、司令長官の小沢中将に連絡したら――


『おう。敵兵器の解析は、今後の戦いにも影響する。敵の新型なのだろう? 徹底的に調べてこい』


 と、背中を押された。小沢としても、敵の情報があったほうが作戦に活かしやすいから、機会を逃したくないのだろう。

 九頭島にある武本重工業の航空研究所に赴けば。


「神明少将」

「樋端中佐」


 連合艦隊司令部航空参謀の樋端が、同じく転移で九頭島へとやってきていた。


「司令部と一緒じゃなくていいのか?」

「まあ、私の仕事もあちらでは多分ないでしょうから」


 あとは残敵掃討です、と樋端は言った。


「例の重爆撃機の解析に立ち合いたく。山本長官からの許可はもらっています」


 ジョンストン島夜襲によって、海軍特殊部隊『うつつ』によって鹵獲された敵重爆撃機。敵の新兵器が気になるのは、小沢だけでなく山本長官も同じである。

 光線兵器と防御障壁装置を積んだ新型機の調査を、九頭島の魔技研スタッフの協力のもと行う。


「一応、空技廠にも送って解析させているが、こちらでよかったのか、樋端?」

「ええ、神明さんのところで見たいので」


 樋端は淡々と答えた。


 海軍航空技術廠――空技廠は、横須賀鎮守府の管理下にある、日本海軍航空機に関する設計や開発、素材や技術の実験、研究を行う組織だ。


 ジョンストン島で5機鹵獲したので、内地にも送っている。海軍航空の頭脳と、魔技研双方で調査を進めるのである。


 調査の結果、新型重爆の機体性能は、従来の主力重爆に比べて、若干の性能アップが見られるものの、光線兵器と防御障壁装置の小型化以外に、特に取り立てて特徴があるわけではなかった。


「普通に強くはなっているな。重量は増しているが、速度が上がっていて、頑丈な機体だ」

「これを異世界人は、大量生産してくるんでしょうね」


 樋端はボソリと言った。異世界帝国の規模については、確証のない想像しかできないが、世界を相手に戦える相手である以上、当然考えられる話である。


「――防御障壁装置は、純粋に小型化しただけだな。エネルギー容量が少ないから、対空誘導弾でも集中すれば、障壁を消滅させられる」

「数で攻めれば、突破できるわけですね。厄介ではありますが、撃墜できるなら何よりです」


 攻撃がまったく通用しない、というほうが厄介度合いでは大きい。墜とせるだけで、大助かりである。もっとも、効率のいい撃墜方法を見つけなければ、迎撃が間に合わず、被害を受けてしまう可能性が高いのだが。


「それで、光線兵器ですが――」

「この機体だと最大2発までしか撃てない」


 それ以上撃つエネルギーを積むことができなかったのである。樋端が言う。


「わかってしまうと、呆気ないものですね」

「いくら重爆撃機が大きいとはいえ、積める量には制限があるからな」

「所詮は、武装のためのプラットフォーム……」


 光線兵器と爆装のどちらかしか積めない仕様である。しかし爆弾だけなら15トンほど積載可能である。


「つまり、この光線兵器と関連装備は15トン以内に収まっている、ということだな」

「……今、何を考えました?」

「艦艇に積んだら、光弾砲より強いんじゃないかと」


 ひらめき、というか、最初に浮かんだのがそれだった。一発で空母を轟沈させる威力があるのだ。射角の問題やエネルギー容量問題などがあるが、検討する価値はある。


 さらに材質やら構造を調べる。砲を分解し、元の構造を図や写真に残しつつ、それぞれの部品を調査器具にかけていく。


「――これはあまり連射できないな」

「といいますと?」

「実際まだ撃っていないから推測の域はでないが、砲口がおそらく数回発射で駄目になる。この砲口、交換しやすくなっていて、ほとんど使い捨てに近いな。艦艇主砲に使われないわけだ」

「砲身寿命が短すぎるという欠点があると……なるほど」


 樋端は頷いた。砲身ではないが、と神明は思ったが指摘するのはやめた。言わんとしていることがわかっているなら、そこはスルーしてよい。


「仕様書や設計図があれば、調査も楽なのですが……」

「言っても仕方のないことだ。今回は何もかも急過ぎたからな。本来、現部隊が基地も捜索して、資料を回収するべきだったのだろうが、作戦に対する予行演習の時間もなかった」


 どこにあるかわからない設計図を探して、作戦のリスクを高めるべきではない。無傷で機体を確保できただけで、よしとすべき作戦だったと神明は解釈している。


「だが、これだけでも色々と利用できるだろうよ」


 神明は薄らと笑みを浮かべた。内地で開発中だという新型陸上攻撃機などに、異世界帝国の重爆撃機は、いいサンプルになる可能性を秘めている。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

・MEBB-21パライナ

乗員:10名

全長:33.4メートル

全幅:全幅42.8メートル

自重:58.2トン

発動機:魔式エンジン(連装型×4)

速度:580キロ

航続距離:5700キロメートル

武装:20ミリ機銃×3 12.7ミリ三連装機銃×5 

   爆弾15.5トンもしくは、光線砲×1

その他:ムンドゥス帝国の新型重爆撃機。オルキ重爆撃機の後継機であり、ボディも大きく、あらゆる性能がアップしている。あまり強度はないが、防御障壁発生器を標準装備しており、より撃墜されにくい仕様となっている。爆弾搭載量が向上しており、選択式で対艦・対地攻撃である光線砲を装備も可能となっている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る