第221話、容赦なき流星


 第一機動艦隊第二次攻撃隊は、異世界帝国東洋艦隊第二群に襲いかかった。


 迎撃のヴォンヴィクス戦闘機は30機。しかし日本軍は、その倍以上となる72機の零戦を護衛につけていた。

 ほぼ互角のスピードである新型の五三型零戦に阻まれ、異世界帝国側の制空隊は、あっさりと艦隊上空を明け渡すことになる。


 流星艦上攻撃機隊が、艦攻とは思えない高速力で先陣を切る。第二群が正面から直進する中、『大鶴』の流星艦攻は、懸架してきた1000キロ大型誘導弾を発射。


 前衛の巡洋艦3隻と、戦艦部隊の先頭――『フッド』へ18発の対艦誘導弾が飛ぶ。切り離して反転する日本機を見て、誘導弾へ高角砲や対空砲が打ち上げられる。


 しかし英国式対空砲は、ミサイル兵器を撃ち落とすのに難儀する。改装前の『フッド』や『レパルス』は高角砲も旧式の10.2センチ高角砲。8連装ポンポン砲なども振り向けるが、対空砲の数が足りない。


 飛来した大型誘導弾は、重巡洋艦『コーンウォール』『ドーセットシャー』『ノーフォーク』に突き刺さり、いとも容易く装甲を貫くと、艦内で爆発した。


 その威力、戦艦級の主砲並の威力。それより装甲も耐久性も低い重巡に耐えられるものではなかった。


 そしてそれは巡洋戦艦『フッド』も同様だ。一発が艦橋に突き刺さり、一発が艦首A砲塔――38.1センチ連装砲の装甲を貫通し、その恐るべき威力を解放した。


 直後、基準排水量4万1200トン、艦の長さは大和型に匹敵する262メートルを誇る英国巡洋戦艦最大の艦『フッド』の艦首が火山の如く噴き上がった。爆発によって真っ二つに、否、三つに分断された。艦橋に飛び込んだ地獄の炎が、14万4000馬力を発揮する機関も飲み込み、誘爆させたのだ。


 第一次世界大戦のユトランド沖海戦で、たった一発で轟沈した英国巡洋戦艦の伝統に倣うが如く、『フッド』もまたその巨艦に見合わず、あっさりと爆沈した。

 部隊指揮官のカルポス少将、テクトン艦長らはほとんど状態もわからず戦死したのだった。


 後続する『レパルス』が、爆煙立ち上る正面を転舵して回避する。


 そこへ『紅鶴』流星艦攻隊が放った対艦誘導弾が飛来した。今度は全長242メートルの長さを持つ巡洋戦艦『レパルス』が餌食となる番だった。


 第二次改装を受けることなく戦場に駆り出された『レパルス』は、水平装甲を簡単に貫かれて、『フッド』に負けじと爆発、その艦体を引き裂かれた。


 続いて、『翠鷹』九七式艦攻隊が、対艦誘導弾攻撃をかける。こちらは800キロ相当と流星隊よりも破壊力では劣るものの、これでも充分に戦艦級の火力があって、多くの敵艦を撃沈してきた。


 装甲空母『フォーミダブル』も、誘導され、ある程度追尾してくる攻撃を回避することなどできず、次々に被弾、爆発炎上する。

 さらに『蒼鷹』、『白鷹』攻撃隊が順番に攻撃を仕掛ければ、前に配置された艦から血祭りに上げられ、結果、第二群は壊滅した。


 ・ ・ ・


 カルポス少将の第二群が、日本機動部隊にやられた。

 東洋艦隊第一群司令部にもたらされた報告は、さながら葬式の場のように沈痛な空気をもたらした。

 サウルー中将は溜息をつく。


 ――敵は、半壊のこっちより、より速くて空母を持っている第二群を先に始末したわけだ。


 こちらも突き進めば、敵はそれを嫌って第一群を狙ってくるかと思ったが、日本軍の指揮官は空母のない部隊は後回しでよい、と判断したようだ。


 小憎らしいことだと思う。戦艦の射程は、相手が目視できる範囲。それより遠い距離ならば安全であるなら、当面無視してもいいということだ。

 たとえ姿が見える位置まで迫れたとしても、こちらは低速艦隊。敵空母機動部隊は高速を利して距離を取るだろう。


 ――しかし、第二群は脆かったな。


 巡洋戦艦というのは、装甲が脆い。第一群でも『バーラム』や『ウォースパイト』が集中攻撃を受けて、ようやく大破なのに、『フッド』や『レパルス』は耐えられなかった。

 巡戦があっさり沈んでしまえば、他の艦艇に余分な誘導弾が飛んでくることになり、第一群より酷い被害を第二群に与えたのだろう。


 ――後は、アプーロ少将の第三群だが……。


 敵機動部隊の目をかいくぐり、敵船団に向かっている高速部隊。戦艦『ビスマルク』を旗艦にするアプーロ少将は、猪突猛進の毛がある指揮官であり、一度命じれば、おそらく止まらないだろう。

 第二群や、この第一群が全滅したとしても。


 初期の位置関係から、敵機動部隊から一番遠い場所を進んでいる第三群は、まだ無事な可能性が高い。

 それならば、作戦成功のため、第一群は引き続き、敵機動部隊の注意を引く。


 ――気がかりは……アプーロ少将がどちらに向かったか、だ。


 当初の予想通り、カルカッタ方面へ直進したか、あるいはセイロン島に向かう敵機動部隊の後方に針路を変更したか、である。


 サウルーは、敵はカルカッタは囮であり、セイロン島攻略が本命だと考えたが、アプーロは深く考えず、作戦通りの航路を進んでいる可能性が高かった。


 敵がセイロン島攻略を目指すなら、カルカッタへ向かっても空振りとなる。だがサウルーにしても、本当にセイロン島攻略なのか確信を得たわけではない。そもそも上陸船団を、まだ発見していないのだ。


 潜水艦部隊もいまだそれらの発見報告はしていない。もしかしたら、セイロン島攻略こそ囮で、想定された通り、カルカッタに日本軍が進んでいる可能性もあった。


「日本軍がこっちに来れば、その分、第三群の生存率は上がる」


 思わず呟くサウルー。今にも、東北東の空から敵機が襲来するのではないか、と目をこらす。

 しかし、日本機は姿を現さなかった。


 第一群は、戦艦『ヴァリアント』『クイーン・エリザベス』、軽巡洋艦『サウサンプトン』『グラスゴー』、駆逐艦3隻という小艦隊となっている。

 もはや、敵機動部隊にとっても、取るに足らない雑魚という評価なのか。


 敵機動部隊には、空母6の他、戦艦2、重巡洋艦4、軽巡洋艦6、駆逐艦12、3隻という。敵艦の性能がどの程度かはわからないものの、数の上では明らかに劣勢である。


「――対空レーダーに反応あり! 敵機動部隊の方向より飛来する航空機を発見!」


 レーダー手の報告に、司令塔に緊張が走った。とうとう来たか――サウルーは軍帽を被り直す。


「対空戦闘用意! レーダー、敵の数は?」

「はっ、それが、敵機は10機程度。少数です」

「少数……?」


 サウルーは怪訝な顔になる。たかだか一個中隊程度の数の航空機で、この戦艦を撃沈できると思っているのか?


「それとも――攻撃ではないのか?」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

・イラストリアス級航空母艦:『フォーミダブル』

基準排水量:2万8661トン

全長:227メートル

全幅:29.18メートル

出力:11万1000馬力

速力:30.5ノット

兵装:11センチ連装高角砲×8 2ポンド8連装ポンポン砲×6

航空兵装:艦載機×36

姉妹艦:『イラストリアス』『ヴィクトリアス』

その他:イギリス海軍のイラストリアス級空母の三番艦。強固な装甲で飛行甲板を守り、発着艦能力の維持を目指した装甲空母。『アークロイヤル』をもとに改良を加えた設計だが、装甲と引き換えに格納庫は一層となり艦載機搭載数は減少している。

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