第220話、もう一隊、いる?


 サウルー中将の東洋艦隊第一群を攻撃した第一機動艦隊は、手順通り、七航戦の襲撃部隊による先手から始まった。


『海龍』『剣龍』『瑞龍』の九九式戦爆が、空母『イラストリアス』『イーグル』『ハーミーズ』を先制し、まずはその航空兵力を奪う。


 陸軍流に言えば、航空撃滅戦である。まずは敵飛行場を叩いて、航空機もろとも葬って制空権を確保する、それと同じだ。

 これで『イーグル』と『ハーミーズ』が脱落した。後者はすでに沈没寸前であったが、ここで空母に復旧される前に、第一機動艦隊はトドメとなる攻撃隊を放っていた。


 一航戦、三航戦の201機が、東洋艦隊第一群に殺到。半分程度が戦闘機だったが、第一群上空にはすでに、敵戦闘機の姿はない。艦爆、艦攻隊は、対空砲に注意しながら攻撃を仕掛けた。


 この攻撃で、装甲空母『イラストリアス』は誘導魚雷4本を受けて大破、沈没。戦艦戦隊も『バーラム』沈没、『ウォースパイト』大破。『ヴァリアント』『クイーン・エリザベス』は被弾したものの小破で留まった。


 しかし、駆逐艦は10隻沈没、5隻が大破、航行不能と、護衛戦力に大きな被害を与えた。


 この被害に対して、東洋艦隊第一群指揮官であるサウルー中将は、次に同じような航空攻撃を受けたら、確実に全滅だろうと予想した。

 だがそれでも、彼は脱落艦で動けるものは退避させつつ、健在艦をなおも進撃させた。

 しかし、小沢中将の第一機動艦隊は、第一群に対してこれ以上の攻撃隊を放つことはなかったのである。



  ・  ・  ・



 第一機動艦隊は、敵低速艦隊を無力化させつつ、高速戦艦や巡洋戦艦を主力とする別動隊の捜索を行っていた。

 その間にも、偵察機や哨戒機が発見する敵潜水艦を始末していたのだが、旗艦『伊勢』に待望の知らせが入った。


「敵艦隊を発見! 戦艦もしくは巡洋戦艦2、空母1、巡洋艦6、駆逐艦十以上!」


 ようやく敵の高速部隊を捉えた――そう思えた報告だが、小沢の表情は険しくなった。


「戦艦ないし巡洋戦艦2! 東洋艦隊の高速戦艦は5隻。残りの3隻はどこだ?」

「空母も1隻のみ。もう一群、行動している可能性が出てきました」

「わかっている。……もしや、カルカッタへ向かう陸軍船団を目指しているのか」


 小沢は地図の上を、視線を滑らせる。

 陸軍を乗せた船団の護衛には、第一機動艦隊・乙部隊がいる。こちらは金剛型戦艦4隻からなる第七戦隊、元戦艦改装の大型巡洋艦戦隊である第九戦隊、第五航空戦隊の『翔鶴』『瑞鶴』『祥鳳』を主力としている。


「敵高速戦艦は、38センチ砲と28センチ砲の2タイプだ。後者は『シャルンホルスト』と『グナイゼナウ』。それならば金剛型戦艦でも太刀打ちできるが――」


 残る『ビスマルク』と巡洋戦艦『レパルス』『フッド』は38センチと38.1センチ砲を搭載している。金剛型の装甲を撃ち抜く火力を持ち、油断ならない。『レパルス』と『フッド』は巡洋戦艦なので、装甲面は弱く、金剛型の35.6センチ砲でも対処できるが、『ビスマルク』は駄目だ。


「発見された2隻は、どの型だ?」


 それによって脅威度が変わる。小沢の視線に、神明は答えた。


「どのパターンも想定されます。偵察機に、艦型の詳細を報告するように命令を。艦橋で見分けがつきにくければ、煙突の数、砲の配置と門数でも判断材料になります」


『レパルス』『フッド』は改装前の旧型艦橋である。新型の箱形艦橋ならば、ドイツ戦艦と見分けがつきやすくなっていただろうが……。

 細部を見れば違いはわかるが、離れた距離からの偵察では、存外識別が難しい場合もある。


「特に煙突の数に注目を。二つならイギリス巡洋戦艦。一つならドイツ戦艦です」

「うむ。――よし、通信長!」


 小沢は早速、命令を発した。山田参謀長が自身の無精ヒゲを撫でる。


「これで個艦の識別はできるだろうか?」

「この5隻は砲配置が2パターン、砲門数が3パターンです。これで独、英どちらの艦かわかれば、ほぼ確定します」


『ビスマルク』と『フッド』が主砲四基。『シャルンホルスト』『グナイゼナウ』『レパルス』が三基である。

 砲門数は『ビスマルク』、『フッド』が連装砲で8門。『シャルンホルスト』『グナイゼナウ』が三連装砲で9門。『レパルス』が連装砲で6門である。


 連装砲四基で、煙突が1本ならば『ビスマルク』、2本ならば『フッド』だ。主砲三基ならば『シャルンホルスト』『グナイゼナウ』『レパルス』だが、煙突1本なら前者2艦、2本であれば『レパルス』確定である。


 小沢が向き直った。


「もう1部隊の捜索を続けつつ、発見された敵高速部隊に、攻撃隊を派遣する。この部隊には、一航戦と三航戦で当たる。七航戦は、もう一部隊の発見に備えて待機せよ」


 敵別動隊の発見に備えて待機していた第二次攻撃隊が、発艦準備にかかる。敵高速部隊の空母は1隻。高速艦であるならば、イラストリアス級かカレイジャス級のどちらかだろう。前者は正規搭載数36機、後者は48機だ。多少水増しが可能とはいえ、空母6隻分の航空機の前には、大した差はない。


 かくて第一機動艦隊は第二次攻撃隊に201機を派遣する。敵空母1隻の艦載機を相手にするならば過剰にも見えるが、空母のみならず戦艦を含め巡洋艦、駆逐艦も叩くつもりだからオーバーということもない。

 仮に敵機が全機戦闘機だったとしても、それを上回る数の戦闘機を第二次攻撃隊には含まれている。


 第一機動艦隊第二次攻撃隊は、異世界帝国高速部隊を捕捉すべく、西の空へと飛んでいった。



  ・  ・  ・



 彩雲偵察機に発見されたのは、東洋艦隊第二群だった。

 巡洋戦艦『フッド』を旗艦に、僚艦に『レパルス』を従え、装甲空母『フォーミダブル』他重巡洋艦3、軽巡洋艦3、駆逐艦16隻からなる。


「対空戦闘!」


 旗艦『フッド』に座乗するカルポス少将は、神経質そうな顔立ちに皺を寄せて声を張り上げた。


「『フォーミダブル』へ。戦闘機隊を発艦させろ! そののち、我が部隊は敵機動部隊へ突撃を敢行する!」

「よろしいのですか?」


 フッドの艦長であるテクトン大佐が確認する。


「サウルー中将は、敵輸送船団を捕捉、撃滅せよ、と命じておりますが?」

「目の前の敵機動部隊を叩かねば、輸送船団を叩くどころではない」


 カルポス少将は、切り捨てるように言った。


「サウルー中将の第一群も、敵の航空隊を引きつける格好のまま前進するなら、それで結構。我々か中将の隊のどちらかで敵機動部隊を叩ければ、アプーロ少将の第三群が残りを始末するだろう」


 敵機動部隊へ突き進め!――東洋艦隊第二群は、飛来する日本軍攻撃隊を迎え撃つ。ヴォンヴィクス戦闘機が切り込む中、日本海軍の零戦五三型、三二型が立ち向かう。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

・アドミラル級巡洋戦艦:『フッド』

基準排水量:4万1200トン

全長:262.3メートル

全幅:32メートル

出力:14万4000馬力

速力:29ノット

兵装:42口径38.1センチ連装砲×4 50口径14センチ単装砲×12

   50口径10.2センチ単装高角砲×4 2ポンド8連装ポンポン砲×3

   12.7ミリ四連装機銃×4 20ミリ単装機銃×12

   53.3センチ水上魚雷発射管×4 53.3センチ水中魚雷発射管×2

航空兵装:――

姉妹艦:――

その他:英国海軍の誇る最強の巡洋戦艦。艦の名前は、サミュエル・フッド提督に因む。大和型が登場する世界最大級の戦艦(巡洋戦艦)だった(ビスマルク級の登場ですでに抜かれていたが、ドイツは同級を3万5000トンと公表していたため、公式には世界最大と思われていた)。異世界帝国軍との戦いで撃沈、その後、鹵獲、再生された。


・レナウン級巡洋戦艦:『レパルス』

基準排水量:3万2000トン

全長:242メートル

全幅:27.4メートル

出力:11万2000馬力

速力:28.3ノット

兵装:42口径38.1センチ連装砲×4 50口径10.2センチ三連装砲×5

   10.2センチ連装高角砲×2 10.2センチ単装高角砲×4

   2ポンド8連装ポンポン砲×3 12.7ミリ四連装機銃×4 

   20ミリ単装機銃×12 53.3センチ水上魚雷発射管×8

航空兵装:カタパルト×1 水上偵察機×4

姉妹艦:『レナウン』

その他:英国海軍の巡洋戦艦。元はR級戦艦として計画されていたが、姉妹艦の『レナウン』ともども計画変更により、巡洋戦艦として建造された。異世界帝国軍との戦いで撃沈され、鹵獲された。

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