第217話、進撃の異世界帝国東洋艦隊
日本軍の交信量が増大している。
――インド方面に展開する友軍からの報告は、アッドゥ環礁に待機していたムンドゥス帝国東洋艦隊にもきた。
同方面軍司令部から、日本軍がシンガポールに艦隊と船団を集結させている旨が伝えられ、出撃あらばこれを撃滅すべし、と東洋艦隊に名指しで要請がきていた。
艦隊司令長官、ゾンマ・サウルー中将も腹を決める。
「ま、そろそろ限界なんだよねぇ」
そろそろ顔を合わせるだけで不機嫌さを隠そうともしない参謀団から、背中を刺されるのではないかと思っている。
前任者の事故で艦隊司令長官になったサウルーである。その幕僚の半分は前任者のスタッフであるため、サウルーという人間に対しての理解が足りなかった。
「というわけで、我が東洋艦隊は出撃し、陸軍部隊を乗せていると思われる敵船団を捕捉、撃滅する」
出撃、と命じたら、途端に艦隊全体がやる気を出して動き出した。出航準備完了までの時間がこれまでのベストを更新したと思えるくらい早かったから、兵たちも含めて相当戦いたくてしょうがなかったようである。
――実に好戦的なことだ。
半ば呆れのような感情を抱くサウルーをよそに、東洋艦隊はアッドゥ環礁を出撃した。
地球製の再生艦が多数を占める東洋艦隊は部隊を三隊に分けて進撃させた。
・第一群
戦艦:「ヴァリアント」「バーラム」「ウォースパイト」「クイーン・エリザベス」
空母:「イラストリアス」「イーグル」「ハーミーズ」
重巡洋艦:「アドミラル・グラーフ・シュペー」「デウォンシャー」
軽巡洋艦:「サウサンプトン」「グラスゴー」「ニューカッスル」「シェフィールド」
駆逐艦:18
・第二群
巡洋戦艦:「フッド」「レパルス」
空母:「フォーミダブル」
重巡洋艦:「コーンウォール」「ドーセットシャー」「ノーフォーク」
軽巡洋艦:「ベネロピ」「オーロラ」「ナイアド」
駆逐艦:16
・第三群
戦艦:「ビスマルク」「シャルンホルスト」「グナイゼナウ」
空母:「グローリアス」
重巡洋艦:「ブリュッヒャー」
軽巡洋艦:「ケーニヒスベルク」「カールスルーエ」「ボナヴェンチャー」
駆逐艦:13
低速戦艦で第一群、高速戦艦部隊を二群で編成。戦艦9、空母5、重巡洋艦6、軽巡洋艦10、駆逐艦47、これとは別に80隻近い、Uボートタイプの潜水艦群が、東洋艦隊として行動している。
サウルーの立てた作戦方針は単純だ。敵上陸船団を捜索。発見した敵に有力な艦隊がいなければ、そのまま襲撃を仕掛け、強力な敵がいれば後退する。
この方針を伝えた時、参謀たちの反応は微妙な空気になった。特に表面上、変化がなかったのはペルノ参謀長のみで、それ以外は何か言いたげな顔をしていた。
「基本的に、敵機動部隊がいるから、先に発見されるのはこちらだと思う」
サウルーは告げた。
「敵の空襲があれば、進撃を中断、撤退するように機動する。まあ、それでも敵は航空隊を放ってくるだろうから、発見された部隊の損害も大きくなるだろう」
これは仕方がない。日本機動部隊と、東洋艦隊の空母の艦載機数が違うのだ。
航空参謀が口を開いた。
「では、三群に分けず、集中すれば直掩の数も増やせるのでは?」
「馬鹿か? ひとつにまとめたら、高速戦艦が低速艦に合わせて、持ち味を活かせないでしょうが」
ここにきてサウルーは、自分に対して文句がありそうな参謀に遠慮しなかった。自分の死が迫っていると思えば、何の遠慮がいるというのか。
「一つの部隊が引っかかるなら、ほかの部隊はそのまま進撃して敵船団を襲撃すればいい。ま、発見された部隊には悪いが囮として動いてもらう。そのための分散、撤退機動だ」
「お言葉ですが、敵の索敵機に三つの部隊が全て発見されてしまったらどうしますか?」
「その時は潜水艦部隊のための囮になるしかないね」
サウルーは、わざとらしく肩をすくめた。
「こちらには約80隻の潜水艦が控えているんだ。敵がこちらの水上部隊を叩くために向かってくるなら、機雷原よろしく潜水艦が待機している海域に誘い出す。それに乗ってこない、あるいは空襲だけでやられるようなら、やはり潜水艦部隊で船団に波状攻撃を仕掛けてもらうしかない」
東洋艦隊司令長官は、参謀たちをぐるりと見回した。
「華々しい砲撃戦をさせてやれないことは悪いとは思うが、戦争には相手がいる。こちらが決戦を望もうが、向こうにその意思がなければ砲撃戦は起こらない。……相手が空母機動部隊であるなら特にな」
空母を率いて突撃する馬鹿はいない。前回セイロン島を攻撃した日本艦隊は、空母9隻、戦艦6隻ほか多数の巡洋艦、駆逐艦からなっていた。
規模や位置的に、船団護衛についているのはこの艦隊のはずだ。戦艦より空母が優勢な日本軍のこと、戦艦が空母より優勢な東洋艦隊に対して、正面から砲撃戦など選択しないだろう。
空母航空戦力の優勢を信じて、遠距離から艦載機を飛ばしてくる。……こちらの戦力を分散させれば、敵も分散してくれないものかと、淡い期待もあるが、そちらは望み薄だろう。
東洋艦隊は進む。セイロン島の東、ベンガル湾へと向かう。敵はインド沿岸、特にカルカッタ辺りに陸軍を上陸させようとしているのではないか、と、ムンドゥス帝国陸軍は予想している。
マラッカ海峡を越えて、アンダマン海を北西方面に進撃しているだろう敵船団を、その途中で捕捉するべく、東洋艦隊は北東方向へ舵を切る。
しかし――
『偵察機より入電! 空母6隻を含む敵機動部隊を発見。セイロン島方面に向けて航行中!』
セイロン島方面――思ったより早い会敵に驚くのもつかの間、サウルーは口元を引きつらせた。
船団護衛? 敵はもっとアグレッシブだった。接近する東洋艦隊を求めて、艦隊を進ませてきた。……いや、ひょっとしたらカルカッタ方面という読みは外れで、本当はセイロン島を攻略するつもりではないか?
それは完全に想定外だった。何故なら、セイロン島を攻略できるなら、前回来た時にやればそれをしなかったからだ。サウルーは、日本軍にはセイロン島を攻略するだけの戦力がなかったのだと判断し、完全にセイロン島のことを戦いから切り離していた。
――どうする? ここで予想外の動きをされて。
どう動く? 作戦をどこまで修正が必要だ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます