第216話、備える第一機動艦隊
ベンガル湾で、異世界帝国関係の輸送船を三十数隻を血祭りにあげた第一機動艦隊は、一度、シンガポールまで後退。燃料と弾薬の補充作業が行われた。
そしていよいよ、陸軍のカルカッタ上陸船団が動き出すため、その護衛と、妨害に出てくる可能性の高い敵東洋艦隊の対処のための準備が進められる。
「二兎を追う者は一兎をも得ず」
小沢治三郎中将は告げた。機動艦隊旗艦『伊勢』の司令塔である。
「上陸船団の護衛をしながら、敵の有力艦隊の迎撃するというのは、中々制約がかかるものだ。敵は不利となれば逃げることができるが、我々は船団から離れることができず、せっかくの撃滅の機会を逸してしまうことになる」
「ですが、敵が手を出せないのであればこちらの勝ちではありませんか? 船団を守り切ることが大事なわけですから」
山田定義参謀長が言えば、小沢は口元をピクリと動かした。
「敵が無事ということは、毎回カルカッタへの輸送船の護衛に、我々第一機動艦隊が張り付かねばならないということだ。我々はインド洋に釘付けにされ、太平洋で事が起きた時に動けなくなる」
だから、敵東洋艦隊は撃滅せねばならない。地元の護衛隊や、再編成されるだろう第八艦隊などに、ここを任せられるように。
「そのためのセイロン島攻撃作戦だ」
小沢は、神明作戦参謀を見た。ここのところ、魔技研出身の秋田大尉が来るたびに、内地と艦隊を行ったり来たりしている神明である。
「連合艦隊、軍令部からも許可は取り付けてあります。|現『うつつ』部隊の他、陸軍魔研直轄部隊など、セイロン島へ上陸する戦力の用意も完了。後は我々と合流するのを待つのみです」
神明は報告した。内地から、五身島に立ち寄り、陸軍部隊を収容した特務艦『
なお、『鰤谷丸』が戦車や陸戦兵器類、『神鷹』が陸軍の航空機を搭載している。
「ほう、陸軍の航空機か」
小沢が興味を抱いたような顔をすれば、青木航空参謀が小首を傾げた。
「まさか、空母艦載機として運用はできないですよね? 陸軍機ですし」
「一応、運用できるように小改造はしているそうだ。陸軍でも特殊船を空母として運用する計画がある」
着艦用フックを、わざわざ取り付けたらしい。主翼の折りたたみ機能は持たないままのため、格納庫にぎっしり搭載するにはやや不向きではあるが。
もっとも空母での運用を考えて運用する艦載機も、零戦で言えば翼端のみ、九七式艦上攻撃機、流星艦上攻撃機は翼をたためるが、九九式艦上爆撃機にはそれがなかったりする。
今回、魔研が手配した陸軍機で、『神鷹』で運ぶのは、陸軍の主力戦闘機である一式戦闘機こと隼、その試作Ⅲ型と、新鋭の三式戦闘機改となっている。
他に二式複座戦闘機などが、別途セイロン島で用いられると、魔研の寄越した資料にはあったが、真偽は不明だ。セイロン島までどうやって運ぶのか、それについての記載はなかったからだ。
そんなわけで、『神鷹』に積まれた一式戦Ⅲ型と、三式戦闘機改が36機ほどとなっている。
「あれ、そんなに詰めるんですか? 神鷹型って、大鷹型ですよね?」
新田丸級貨客船を海軍が改装して空母にしたのが大鷹型である。全長は180メートルほどの小型空母である。
しかし、神明は首を横に振った。
「正確には大鷹型じゃない。『神鷹』はドイツ客船『シャルンホルスト』だ」
全長は198メートルと、一回り大きい。第二次世界大戦が勃発したことにより、イギリスなど連合国からの接収を恐れたドイツの客船『シャルンホルスト』は、日本の神戸港に係留されていた。
第一次トラック沖海戦で、日本海軍正規空母5隻が戦闘不能に追いやられると、空母の早期補充のため、放置されていた『シャルンホルスト』に海軍は目をつけた。
ドイツ大使館を通して、同船を買収。早速改装を――となったのだが、当時は修理や魔法防弾などの新装備を取り付ける作業などを実施する艦艇が順番待ちをしていた。
結局、しばらくの間、放置されることになった『シャルンホルスト』だが、元船の設計図がなく、一から調べる必要があったことも作業が後回しにされた一因だった。
が、魔核によるスキャンと変更、改装ができる魔技研に、神鷹の改装が委ねられ、再び作業が開始された。
新田丸級と似通っていたことから、大鷹型と同様の改装が予定されていたが、『シャルンホルスト』の船体は排水量2万トンと、雲龍型に近く、設計によっては格納庫の二段化が可能なこと。さらに魔技研の魔力改修ならば、二段化してもさほど時間がかからないとなったため、そのように作られることになった。それにより艦載機の格納スペースが増加、その艦載機収容数は約48機にまで拡大しさせることができた。
結果、型は大鷹型ではなく、神鷹型という扱いになった。
閑話休題。
「セイロン島攻撃の戦力は整ったとして、カルカッタ上陸船団の護衛にも我が艦隊から護衛をつけなくてはいけない」
小沢は先ほど、二兎を追う者は一兎をも得ずと口にしたが、戦力を二分するという意味では、これもそれに当たりそうではある。
船団護衛とセイロン島攻略。二つに戦力を分けたために、どちらも失敗することが最悪の展開ではあるが。
「少なくとも、セイロン島に上陸されたとあれば、敵は船団に構っている余裕はなくなるだろう」
無論、船団護衛に手抜かりがあってはならない。
「そこで、艦隊をセイロン島攻撃部隊と、カルカッタ上陸船団護衛部隊に分ける」
小沢は手書きの編成リストを出した。
「各自、確認しておけ。頼ろうとした艦が、違う隊にいたなどという勘違いなどがないようにな」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
●第一機動艦隊・甲部隊:セイロン島攻撃部隊(ただし東洋艦隊の撃滅を第一とする)
・戦艦
第二戦隊:「大和」「武蔵」「美濃」「和泉」
第六戦隊:「伊勢」「日向」
・空母
第一航空戦隊:「大鶴」「紅鶴」「黒龍」
第三航空戦隊:「翠鷹」「蒼鷹」「白鷹」
第七航空戦隊:「海龍」「剣龍」「瑞龍」
・重巡洋艦
第十六戦隊:「利根」「筑摩」「鈴谷」「熊野」
・特殊巡洋艦
第二十九戦隊:「北上」「大井」「木曽」
第三十戦隊 :「初瀬」「八島」「九頭竜」
・防空巡洋艦
第二十四戦隊:「狩野」「秋野」「伊佐津」
第一防空戦隊:
第六十一駆逐隊:「秋月」「照月」「涼月」「初月」
第六十二駆逐隊:「新月」「若月」「霜月」「冬月」
第七水雷戦隊:軽巡洋艦:「水無瀬」
第七十一駆逐隊:「氷雨」「早雨」「白雨」「霧雨」
第七十二駆逐隊:「海霧」「山霧」「谷霧」「大霧」
第十七潜水戦隊:補給・潜水母艦2:『ばーじにあ丸』『あいおわ丸』
・第七十潜水隊 :伊600(特マ潜水艦)、伊611、伊612
・第七十一潜水隊:伊607、伊608、伊613
※『鰤谷丸』『神鷹』と護衛の海防艦が合流予定。
●第一機動艦隊・乙部隊:カルカッタ上陸船団の護衛部隊
・戦艦:第七戦隊:「金剛」「比叡」「榛名」「霧島」
・空母:第五航空戦隊:「翔鶴」「瑞鶴」「祥鳳」
・大型巡洋艦:第九戦隊:「黒姫」「荒海」「八海」
・重巡洋艦:第十五戦隊:「妙高」「那智」
第一防空戦隊・乙:「大淀」
第六十三駆逐隊:「春月」「宵月」「夏月」「満月」
第六十六駆逐隊:「青雲」「天雲」「冬雲」「雪雲」
第七水雷戦隊:軽巡洋艦:「鹿島」
第七十三駆逐隊:「黒潮Ⅱ」「早潮Ⅱ」「漣Ⅱ」「朧Ⅱ」
第七十四駆逐隊:「山雲Ⅱ」「巻雲Ⅱ」「霰Ⅱ」「夕暮Ⅱ」
・敷設艦:第七十五戦隊:「津軽」「沖島」
第十七潜水戦隊:補給・潜水母艦1:「迅鯨」
・第七十二潜水隊:伊609、伊610、伊614
※他、海上護衛隊第三護衛隊が、船団護衛に参加。
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