第198話、特殊大型戦艦、確認!
山本五十六大将の座乗する戦艦『播磨』が、現場に到着した時、第八艦隊――鮫島艦隊は壊滅していた。
38センチ砲搭載戦艦4隻で構成される第五戦隊は、旗艦『常陸』を残し、全滅。護衛についていた第五水雷戦隊も、旗艦『名取』以下、駆逐艦4隻全てが沈んだ。
海域には、鮫島艦隊に後続していた第四航空戦隊の『隼鷹』『龍鳳』『瑞鳳』と、その護衛である第五十二駆逐隊の「楓」「欅」「柿」が、第八艦隊生存者の救助作業を行っていた。
東から太陽が登り、敵艦隊の姿はない。
「……酷いものだ」
戦艦『播磨』の艦橋から山本は、洋上を漂う廃墟ともいうべき戦艦『常陸』の姿を目撃している。
多数の攻撃を受けたようで、艦橋を始め上部構造物は、ことごとく痛めつけられ、煙突やマストは倒れて、煙を吐いている。高角砲や機銃群が全滅しているだろうことは、外からも分かった。
「四航戦旗艦『隼鷹』より入電。第八艦隊司令部は本艦に収容。指揮官負傷により、指揮を引き継ぐ、以上です」
通信長の報告に、山本は静かに頷いた。
「鮫島君は、一命を取り留めたようだ」
「しかし、手酷くやられたものです」
宇垣参謀長は渋い顔だった。
「戦艦3隻を喪失……それほどの大部隊だったのでしょうか」
「詳しい話を聞きたい。誰か、『隼鷹』に収容された『常陸』乗組員の階級の高い者を、『播磨』に寄越すように言ってくれ。何があったのか聞きたい」
「そうですな」
宇垣が頷けば、三和作戦参謀が進言した。
「四航戦に偵察機を出させて、周辺海域を調べさせましょう。まだ近くに、八艦隊をやった敵がいるかもしれません」
「そうだな」
山本は許可を出した。
『隼鷹』『龍鳳』『瑞鳳』各空母から、九七式艦上攻撃機が索敵のために発艦する。同時に近隣の基地に通報し、偵察機を出すよう要請する。
敵機動部隊は叩いたはずだが、未発見の敵艦隊が近くにいる可能性は高い。
ややして、『播磨』に、『隼鷹』から内火艇がきた。山本が要請した戦艦『常陸』生存者で動ける者を乗せてきたのだ。
「おお、山澄君……!」
「長官!」
第八艦隊参謀長の山澄貞次郎少将が、右腕をつって現れた。
「怪我は?」
「かすり傷です。私よりも鮫島長官のほうが重傷ですが、先ほど意識を取り戻されました。安静にしていれば、おそらく大丈夫だろうと軍医は申しておりました」
「それは不幸中の幸いだった」
山本は目元をわずかに潤ませながら頷いた。
「早速だが、敵は、どんな奴らだった?」
・ ・ ・
第八艦隊を叩いたのは大型戦艦だと言う。
「おそらく、この『播磨』に匹敵するものと思われます」
山澄の報告によれば、敵は艦首に三連装ないし四連装の主砲を二基、背負い式にしている。戦艦級と思われる艦橋を持ち、その左右には副砲に高角砲、光弾砲が装備されていたという。
しかし不思議なことに、敵戦艦は艦中央から後部まで、まるで空母のように平らだったらしい。
「副砲かあるいは高角砲か。光弾砲は間違いなくありましたが、大口径の主砲などは艦尾にはありませんでした」
「それはまた、奇妙なフネですなぁ」
黒島先任参謀が首を傾げた。
主砲は明らかにメギストス級の43センチ砲か、はたまた大和型の46センチ砲に匹敵すると思われる。だがそれが艦首だけ。
「敵の戦艦は、旗艦級を除けば艦首と両舷に主砲を集中し、後部は副砲というのがよく見られる例ではありますが、空母のように真っ平らというのは解せませんな」
夜間なので見間違えたのでは、という指摘に、山澄は首肯した。
「その可能性は否めない。我が『常陸』だけ、足を止められ肉薄できなかったからな」
とにかく、敵大型戦艦は、『常陸』を航行不能にした後、接近する『磐城』に砲弾を集中させ、撃沈すると、続く『近江』を一発で轟沈させてしまった。
「……イギリス艦は、案外脆いのですかね」
黒島の呟きに、宇垣は何とも言えない顔になった。
戦艦『近江』は、英リヴェンジ級戦艦の改装艦だ。速力のアップと魔法防弾による装甲強化が図られ、オリジナルよりも強力な高速戦艦に仕上がっていた。それが一発で轟沈とは、当たり所が悪かったのだろう。そしてそのリヴェンジ級の装甲を容易く貫通させられる敵戦艦の砲弾の強さも。
「それで、『駿河』は?」
『近江』の僚艦であり、リヴェンジ級『レゾリューション』の改装戦艦はどうなったのか?
山澄は渋い表情になった。
「それが、よくわからないのですが、見張り員の報告では片舷に水柱が集中し、直後、『駿河』は急激に傾きながら転覆、爆沈したようです」
「砲撃ではないのか?」
目を見開く宇垣に、山澄は眉をひそめた。
「砲撃とはまた違ったようです。もしかしたら、敵の駆逐艦の放った雷撃かもしれませんが、よくわかりません」
少なくとも、その攻撃で、戦艦『駿河』は撃沈された。
「敵は護衛の巡洋艦もまた新型のようでした。『名取』がやられ、護衛駆逐艦も壊滅した後、敵巡洋艦が『常陸』を近距離から砲撃してきましたが、その主砲は連装ではなく、三連装でした」
「新型巡洋艦か……」
ここにきて、新型巡洋艦に未確認の大型戦艦。敵機動部隊を撃破し、本来なら喜ぶべき状況なのだが、それに水を差される格好になった。
・ ・ ・
第四航空戦隊の索敵機が、ハルマヘラ島の東、ハルマヘラ海を南東方向に移動する敵艦隊を発見した。
その規模は、大型戦艦1、重巡洋艦2、駆逐艦4。
『常陸』ら第五戦隊と、第五水雷戦隊を撃破した異世界帝国艦隊だ。ただちに四航戦の3空母から攻撃隊が編成され、第八艦隊の復讐に飛び立った。
零戦18機、九九式艦上爆撃機9機、九七式艦上攻撃機14機の合計41機が、敵艦隊に襲いかかったが、なんと敵戦艦はX字型の飛行甲板から戦闘機を発艦させ、迎え撃ってきた。
ニューギニア方面から向かってくるかもしれない敵直掩機に備えていた零戦隊は、初動で遅れた。上がってきたエントマ高速戦闘機は、これを逃さず急襲。零戦は追い回され、さらに艦爆、艦攻隊も襲われた結果、半数以上を喪失して、四航戦攻撃隊は退却を強いられた。
しかし、この痛い損害と引き替えに、敵大型戦艦は、艦載機を運用する航空戦艦であることがわかったのであった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
・プロトボロス級試験航空戦艦:『プロトボロス』
基準排水量:7万5000トン
全長:322メートル
全幅:46メートル
出力:25万馬力
速力:27.5ノット
兵装:50口径45.7センチ四連装砲×2 50口径20センチ三連装砲×2
13センチ高角砲×16 8センチ光弾砲×32 20ミリ機銃×60
60センチ5連装魚雷発射管×8
航空兵装:カタパルト×4 艦載機×32
姉妹艦:――
その他:ムンドゥス帝国の試験型航空戦艦。戦艦火力と、航空戦力、さらに多数の魚雷発射管を備えた万能戦艦として設計された。艦首に砲火力、艦中央に航空艤装とX字型の飛行甲板、艦尾に魚雷装備と分割配置されている。艦全体には多数の対空砲を備える。また防御にも障壁展開能力を有する。
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