第189話、敵機動部隊を撃滅せよ


 第一機動艦隊は、ウェーク島に近づく異世界帝国機動部隊へと攻撃隊を送り出した。

 真っ先に艦隊に到達したのは、遊撃潜水艦隊所属の第七航空戦隊『海龍』『剣龍』『瑞龍』から飛来した先制襲撃隊だった。


 遮蔽装置によって、レーダーや目視監視をかいくぐった九九式戦闘爆撃機、二式艦上攻撃機隊は、一気に、機動部隊に突撃した。


 上空警戒中のヴォンヴィクス戦闘機に、九九式戦爆は対空誘導弾を発射。戦闘機の後方から高速接近した突然のミサイル兵器に、異世界帝国パイロットたちは気づかず回避することなく撃墜された。


 艦隊近くでの爆発音が、目覚ましとばかりに艦隊乗組員たちを驚かせる。しかしその時には九九式戦爆は、時速600キロを超える猛スピードで、空母めがけて殺到、ロケット弾をありったけ撃ち込んだ。


 リトス級大型空母、アルクトス級中型空母の飛行甲板や艦橋で立て続けに爆発が起こり、混乱に拍車をかける。

 被害報告からのダメージコントロール。各機器の異常の確認と、見張り員たちが突然の襲撃を仕掛けた敵の捜索に熱を入れるが、そこで見たのは二式艦攻の放った大型対艦誘導弾である。


「敵飛翔弾!」


 報告した頃には、空母にそれぞれの対艦誘導弾が突き刺さり、爆発した。第七航空戦隊お得意の隠密爆撃により、まず空母の発着艦能力を奪う。


 一隻の中型空母が爆沈したが、残る三隻は火だるまとなって洋上を漂う。


 だが、これで終わりではなかった。小沢機動部隊・甲部隊から放たれた航空隊263機も、現場海域に到着したのだ。


「空母というのは、よく燃えるのぅ!」


 一航戦『大鶴』航空隊の下村太一郎少佐は、九七式艦上攻撃機二三型――春風エンジン1400馬力搭載型九七式艦攻――に乗り、敵空母から登る煙を視認した。


「もうここまで来れば、誘導機もいらないな! 全機、上昇。攻撃位置につけぃ!」


 零式水上誘導機に引っ張ってもらっていた攻撃隊が、高度を上げて、それぞれの攻撃目標を視野に収める。


 また零戦隊も艦隊の上空直掩機に向かって突撃をかける。護衛についている零戦の数からすれば僅かな数に過ぎない敵機をよそに、九九式艦爆が、九七式艦攻が、それぞれ運んできた対艦誘導弾を投下する。

 それらは護衛の巡洋艦、駆逐艦に突き刺さり、さらに炎上する空母にトドメを刺した。中型、大型対艦誘導弾の乱れ撃ちは、敵艦をことごとく撃沈、海の藻屑へと変えた。

 対空砲がほとんど火を噴く前の出来事である。一応、飛んではきたが、弾道もまた遠かった。


「うーん、こうもあっさり終わってしまっていいんだろうか」


 下村少佐は、沈みゆく敵艦を見やり、独りごちる。


 フィリピン沖海戦では、多くの搭乗員を失い、以後上層部も搭乗員を大事にするようになってから、だいぶ仕事が楽になった。中部太平洋海戦でもそうだったが、犠牲になる機体、搭乗員の数がグッと減った。

 そして今回――艦爆、艦攻で誰かやられた奴はいたのか?


「ま、全機帰還なら最高なんじゃないの」


 戦闘機隊が、残っていた敵戦闘機と交戦したが、果たして全員無事だろうか。

 役目を終えた攻撃隊は、第一機動艦隊へと引き上げるのだった。



  ・  ・  ・



 未帰還機ゼロ。敵機動部隊、全滅の報告は、第一機動艦隊司令部を狂喜させた。

 小沢中将は、キャビデ軍港攻撃からフィリピン沖海戦と、搭乗員の消耗を見てきただけに、ようやく搭乗員を消耗させない完璧な戦いができたことが嬉しくてたまらなかった。


 遮蔽装置付きの奇襲部隊でまず空母を叩き、制空権を確保。後は遠くから誘導弾を撃ち込めば勝てる――今回はその理想的展開で決着がついた。神明としては、今日のようなワンサイドゲームは、今後ないだろうと思っている。


「被弾機は七機。搭乗員は全員無傷だそうです」


 青木航空参謀が言えば、神明は小さく肩をすくめた。さすがに無傷とはいかなかったようだ。


「これで、インド洋に行けますかね? それとも、またウェーク島に来るんでしょうか」

「すぐには来ないとは思う」


 神明は考える。


「奇襲で送った機動部隊がやられたのだ。敵は、ウェーク島の守りが強固だと知ったはずだ。充分な戦力が揃わなければ、攻めるのは危険と判断するだろう」

「そうですね……」

「もうひとつの機動部隊は、パラオの方へ行ってしまっているからな。連中がトラックの後、ウェークに来ていたらまた違ったのだろうが、敵からしたらウェーク島は、一撃離脱の標的でしかなかっただろう」


 だから、これ以上リスクが高い場所には、何か策がなければ近づかないだろう。


「だが、今はそれよりも――」


 山本長官が、戦艦『播磨』単艦で、パラオに近づいている敵機動部隊へ転移による襲撃をかけようとしていることのほうが問題だ。


 一対複数というのは、いかに性能が優れていようとも油断できない。問題なのは、長官自ら行こうとしていること。そうでなければ、たとえ機敵動部隊と『播磨』が相討ちで沈んでも大したことではない。


 ――諏訪は、長官は第八艦隊と共闘するつもりのようなことを言っていたから、パラオについては、間に合わないと踏んでいるのだろう。その上で、敵機動部隊を逃がさないように叩こうというのだ。


 やはり第一機動艦隊が、インド洋へ移動するから、その前に敵空母を是が非でも叩きたいのだろう。


 ――第八艦隊と共闘するつもりというなら、まだ数日余裕があるか……?


 第八艦隊はシンガポールとタウイタウイにいる。共同作戦とするなら、敵の動きから考えて、第八艦隊のタウイタウイにいる部隊が出撃してこなくては不可能だ。


 ――そうなると、想定される交戦海域は……モルッカ海か、ハルマヘラ海あたりか?



  ・  ・  ・



 パラオが、もう一つの敵機動部隊の攻撃を受けた。

 事前に敵襲が予想されていたこともあり、戦闘機隊は全力迎撃の一方、攻撃機や輸送機などは空中退避が行われた。


 攻撃は、飛行場に集中し、地上での破壊は修理中で飛び立てなかった機体のみで済んだ。

 パラオ全体から見れば、損害は軽微だったが、飛行場に被害が出たことで、防空態勢の整備に遅れが出るのは間違いなかった。


 敵機動部隊は空襲を一回しかけたのち、そのまま退避行動を取った。ニューギニア島沿岸に沿って、東へ――ではなく西へと。


 二式陸上偵察機による偵察報告を受けて、連合艦隊司令部に緊張が走った。

 第一機動艦隊司令部の見立てが、いちいち的中した。もしここで、東へ逃げてくれれば、ウェーク島の第一機動艦隊を南下させて、仕掛けられる可能性があった。


 だが西に行ったとなれば、東南アジアへの侵入の可能性が出てくる。攻撃でなく、ニューギニア島沿岸に沿ってオーストラリア方面から離脱という説もあるが、そうなっては敵機動部隊を捕捉はほぼ不可能になってしまう。


 連合艦隊司令部としては、敵の一撃離脱戦法をこれ以上許すわけにはいかず、叩けるうちに叩いておきたいと考えていた。


 東南アジアの守備を担当する第八艦隊に出撃を命ずると共に、山本五十六大将は連合艦隊旗艦『播磨』による転移奇襲の準備を進めさせるため、転移魔法の使い手である秋田中尉を、ダバオへ派遣した。

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