第188話、第一機動艦隊、動く


 ウェーク島で待ち続け、このまま何もなければ、無駄飯食らいなどと言われていたかもしれない第一機動艦隊。

 トラック島が襲われた後も、がんとしてウェーク島を離れなかったが、それが報われる時がきた。


「伊608潜より、空母を含む敵艦隊を発見との報告!」

「二式艦偵を発進させろ! 敵編成の詳細を掴め!」


 小沢中将が艦橋に上がると、青木航空参謀が背筋を伸ばした。


「すでに、一航戦から触接機を発艦させたとの報告が入っております」

「よろしい。戦争はスピードだ。最初の5分で戦いは決まるのだ。触接如何に問わず、攻撃隊の発進準備を急がせろ」


 第一機動艦隊は動き出す。小沢が率いる甲部隊は、第三艦隊が主力となっている。

 空母は、先の中部太平洋海戦で損傷した『赤城』『加賀』『翔鶴』が復帰していないため、全体的な攻撃力は落ちている。


 対して、フィリピン沖海戦で撃沈された軽空母『祥鳳』がサルベージ後、再生・改修を受けて復帰した。ただし直掩空母という扱いで、その艦載機は高高度艦上迎撃機である『青電』である。


 艦隊としてみれば、インド洋遠征を視野に入れ、通商破壊や遊撃戦闘の可能性を踏まえた結果、第二艦隊から金剛型戦艦と一個重巡洋艦戦隊が増強されていた。また駆逐艦も松型がはずれ、秋月型が増えている。


○第一機動艦隊・甲部隊


 独立旗艦:戦艦1:「伊勢」


・空母

第一航空戦隊:「大鶴」「瑞鶴」

第三航空戦隊:「翠鷹」「蒼鷹」「白鷹」

第五航空戦隊:「大龍」「祥鳳」


・戦艦

第六戦隊:「金剛」「比叡」「榛名」「霧島」


・重巡洋艦

第十戦隊 :「妙高」「足柄」「羽黒」

第十一戦隊:「利根」「鈴谷」「熊野」

・防空巡洋艦

第十七戦隊:「米代」「岩見」「宇治」

第十八戦隊:「六角」「中津」

第十九戦隊:「狩野」「秋野」「伊佐津」


第一防空戦隊:「大淀」

第三十五駆逐隊:「大風」「西風」「南風」

第三十六駆逐隊:「早風」「夏風」「冬風」

第六十一駆逐隊:「秋月」「照月」「涼月」「初月」

第六十二駆逐隊:「新月」「若月」「霜月」



○第一機動艦隊・乙部隊


・戦艦

 第七十一戦隊:『大和』『美濃』『和泉』


・空母

 第七航空戦隊:『海龍』『剣龍』『瑞龍』


・大型巡洋艦

 第七十二戦隊:『黒姫』『荒海』『八海』


・特殊巡洋艦

 第七十三戦隊:『北上』『木曽』

 第七十四戦隊:『初瀬』『八島』『九頭竜』


・特殊敷設艦

 第七十五戦隊:『津軽』『沖島』


 第七水雷戦隊:軽巡洋艦2:『水無瀬』『鹿島』

 ・第七十二駆逐隊:『海霧』『山霧』『谷霧』『大霧』

 ・第七十三駆逐隊:『黒潮Ⅱ』『早潮Ⅱ』『漣Ⅱ』『朧Ⅱ』

 ・第七十四駆逐隊:『山雲Ⅱ』『巻雲Ⅱ』『霰Ⅱ』『夕暮Ⅱ』


 第十七潜水戦隊:補給・潜水母艦3:『ばーじにあ丸』『あいおわ丸』『迅鯨』

 ・第七十潜水隊 :伊600(特マ潜水艦)、伊611、伊612

 ・第七十一潜水隊:伊607、伊608、伊613

 ・第七十二潜水隊:伊609、伊610、伊614



 一方、乙部隊は、第七艦隊がほぼそのままで、ウェーク島攻略戦で大型巡洋艦『早池峰』を護衛した七十一駆が外れている以外は、特に変更はない。七航戦の空母や、『黒姫』など大型巡洋艦戦隊は、原隊である第一機動艦隊に復帰している。


 さて、しばらくして、敵艦隊の続報が入る。

 確認された敵機動部隊は、大型空母1、中型空母3、重巡洋艦4、軽巡洋艦3、駆逐艦9という編成である。


「トラックを襲った敵機動部隊と、ほぼ同一編成だな。貴様の読みは正しかったぞ、神明」


 小沢は相好を崩す。


「乙部隊も、攻撃隊を出しただろうか?」

「予定通りの位置にいれば、先制襲撃隊を発艦させているでしょう」


 遮蔽装置を搭載した七航戦の戦爆、攻撃機が、制空権を奪うべく攻撃隊を発艦させている。小沢が指示するまでもなく、一番槍をつける部隊なので、敵発見と共に航空隊を出しているはずだ。


「こちらも攻撃隊を」

「よし。各空母へ、攻撃隊発艦!」


 小沢の命令を受けて、七隻の空母中、『祥鳳』を除く六空母から攻撃隊が発艦する。零式艦上戦闘機三二型、九九式艦上爆撃機二二型、九七式艦上攻撃機二三型が順次、マ式レールカタパルトで連続射出されていく。


「『利根』より、誘導機、連続射出」


 甲部隊、第十一戦隊に所属する巡洋艦『利根』は、魔技研の改装により航空巡洋艦の能力を高めた艦となった。


 艦首にあった連装砲四基は三基に減ったが、対空誘導弾発射管が新装備され、艦尾の搭載機スペースが全通式に改めている。これまでは水偵をカタパルトまで移動させる時に、スロープを登らなければならず、地味に時間がかかっていたのだ。

 射出時間を削減し、搭載機全機の射出を完了した『利根』。放たれたのは零式水上偵察機改造の遮蔽装置付き零式水上誘導機だ。


 マ式フロートにより、通常飛行時はフロートを消して、艦上機並の速度を誇るこの機体だが、最大の特徴はそれではない。

 遮蔽を展開することで、前方からのレーダーや目視から完全に見えなくなることにある。一応、全周囲遮蔽に対応できるが、基本は前方を中心にした範囲だけに留めている。後ろからは丸見えである。


「各空母の攻撃隊、零式誘導機の後方につく!」


 各航空隊は、高度を下げて、海面近くを飛行する。これは地球は丸いのを利用して、敵のレーダーに引っかかり難くするための手段であるが、同時に航空機側からも敵を発見しづらくなる。


 そこで効果を発揮するのが、零式誘導機である。レーダーを回避できる誘導機が高度を取ることで、敵艦隊までの航路誘導ならびに広い視野を活かしての敵の目視発見に務める。海面低めの攻撃隊は、そんな誘導機を追うことで、視界の狭さを補うのである。


 かくて、攻撃隊は、敵機動部隊を求めて太平洋を飛んだ。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

・利根型航空巡洋艦:『利根』

基準排水量:1万2450トン

全長:201.6メートル

全幅:19.4メートル

出力:15万2000馬力

速力:35ノット

兵装:50口径20.3センチ連装砲×3 長10センチ連装高角砲×6

   6連装対空誘導弾発射機×1  61センチ四連装魚雷発射管×2

   対潜短魚雷投下機×1 25ミリ三連装機銃×12

航空兵装:マ式カタパルト×2 艦載機×11

姉妹艦:『筑摩』

その他:異世界帝国との戦いで大破した巡洋艦『利根』を改装して、航空巡洋艦としたもの。艦尾の艦載機搭載用甲板に段差があったために機体の整備、発進作業に不便だった欠点を解消し、運用能力と搭載数が向上している。搭載機は零式水上偵察機やその改良型、また新型の『瑞雲』も予定されている。主砲は四番砲塔が撤去されたが、自動装填装置付きの砲に換装されているため、投弾量はむしろ増えている。高角砲は、新型の10センチ連装高角砲に換装し、二基増加。魚雷発射管も三連装から四連装に変更されたが、新式カタパルトの採用の結果、四基から二基に減らされている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る