第162話、第二次トラック沖海戦
小沢機動部隊より出撃した攻撃隊は、第三艦隊の『瑞鶴』『翠鷹』『白鷹』『大龍』と、第二航空戦隊の『蒼龍』『飛龍』『黒龍』の7隻の航空隊から編成される。
高高度戦闘機である青電は、重爆に備えて攻撃隊には参加していない。
7隻の空母群から発艦した274機の攻撃隊は、異世界帝国トラック駐留艦隊に迫った。
「ようやく、敵艦隊攻撃か。腕が鳴る!」
中部太平洋海戦における敵太平洋艦隊撃滅の際、出番がなかった二航戦の艦爆・艦攻隊員たちは、本格的な艦隊攻撃が出来ると張り切っていた。
「しかし……敵、には見えないんだよなぁ」
目標が、ほぼ日本海軍の艦となれば、搭乗員たちの気分を複雑なものにさせた。もっとも、すでに一度攻撃を経験している第三艦隊の搭乗員たちは、前回に比べて抵抗は少なかった。やはり、一度目より二度目。慣れというのは早いものだ。
「敵機!」
攻撃隊を迎え撃つように、異世界帝国のトンボ型戦闘機――ヴォンヴィクスが無数に飛んできた。
敵艦隊に空母はない。トラック守備隊の航空隊だ。
『制空隊、敵戦闘機を、攻撃隊に近づけるな!』
飛行隊長の指示が飛び、零戦三二型の編隊が増速して躍り出た。敵の主力はトンボだが、より新型の蜂型が出てきた時に備えて、空対空誘導弾を搭載している。
戦闘機が爆弾を抱えて空中戦とか、少し前までは考えられない話である。魔技研の提供する軽量化魔法の刻まれた発射機に取り付けることで、搭載している間のみ爆弾の重量をほぼ無しにするという効果があってはじめて可能なことだ。
かくて、異世界軍のヴォンヴィクス戦闘機と零戦三二型の空中戦が始まる。一進一退、戦闘機同士の戦いをよそに、攻撃隊は艦隊に迫った。
・ ・ ・
トラック駐留艦隊は、対空戦闘に備える。
艦隊戦力は以下の通り。
○異世界帝国トラック駐留艦隊:アーガン・イリスィオス中将
・戦艦(4隻:「長門」「陸奥」「日向」「山城」
・重巡洋艦(4隻:「那智」「最上」「古鷹」「衣笠」
・軽巡洋艦(5隻:「川内」「神通」「阿武隈」「龍田」「夕張」
・駆逐艦(16隻:「吹雪」「白雪」「磯波」「浦波」「敷波」「天霧」「狭霧」「春雨」「夏雲」「初春」「大潮」「満潮」「時津風」「舞風」「スパシ」「アントス」
2隻の駆逐艦は異世界帝国製だが、残りの艦は、日本海軍第四艦隊とトラック沖海戦で撃沈したものを回収、再生したものになる。
他にも『扶桑』や『最上』『三隈』などがあったが、先の空襲ですでに沈められている。
地方の防衛艦隊として配備されているが、異世界帝国側からすると、警備などの第二線任務をこなす格下艦隊である。
――日本人は、かつての自分たちのフネを相手に何を思って引き金を引くだろうか。
イリスィオス中将は漫然と思ったが、口に出すことはなかった。
かつての味方を前に躊躇うだろうか? それとも撃沈された時の傷を無理矢理繋いだような跡が醜く、化け物を相手にしているような気分だろうか? ……今さら考えたとて、しょうがないことだが。
日本軍機が広く散開しながら迫る。高角砲の射程圏に入ったか、各艦の40口径12.7センチ連装高角砲が火を噴いた。
しかし、その攻撃は実に頼りない。長門型、伊勢型、扶桒型の戦艦は、連装高角砲を四基八門搭載している。だが片舷に向けられる砲は、二基四門しかない。しかも速射能力はともかく、俯仰、旋回速度が高速機相手には不足しており、中々正確に敵機を追尾できない。
弾幕を張ろうにも、片舷二基では貧弱といわざるを得ない。
始末が悪いのは、重巡洋艦も12.7センチ連装高角砲四基ないし、12センチ単装砲四門と力不足の上、軽巡洋艦には7.6センチ砲二門と貧弱、駆逐艦に至っては、高角砲に対応していないときた。
これでは多数で押し寄せる敵航空機に、ほぼ無力と言える。距離が縮まれば、25ミリ機銃によって弾幕を形成することも可能になるが、全体的に日本艦の機銃装備数も不足であった。
そして、これまでの戦闘で、散々機体を失った日本軍は、そんな機銃の射程に飛び込むことは控えた。
「敵誘導弾、接近!」
「弾幕を張れ! 落とせよ!」
足付き――日本軍の九九式艦上爆撃機は、十八番である急降下爆撃を今やほとんどしない。対基地攻撃ならばまだしも、艦隊攻撃は、ほぼ誘導弾で攻撃する。
これらが薄い弾幕をを抜けて、外周の護衛艦に突き刺さる。
「『イソナミ』被弾! 爆発!」
「『アブクマ』速度低下! 落伍しつつあり!」
相次ぐ被害報告。運良く誘導弾を撃墜できればよいが、高速かつ標的が点のように小さいため、目視撃墜は難しい。
護衛の巡洋艦、駆逐艦に被害が出る。高速の誘導弾が相手では、回避運動すら難しい。避けても弾のほうが方向を変えて追ってくるのだから、いち早く撃墜するしか方法がないのだ。
九九式艦爆が外周を散らしている間に、より大型の誘導弾や魚雷を積んだ九七式艦上攻撃機が突っ込んでくる。
厄介なのは、800キロ超えの大型対艦誘導弾の射程は、こちらの対空機銃の範囲外から余裕で届くということだ。
つまり、母機である九七式艦攻は、やはり弾幕の外で、誘導弾を発射し、さっさと退避してしまうのである。
「『フルタカ』爆沈!」
より威力のある大型誘導弾が直撃すれば、重巡洋艦とて、あっけなく撃沈される。
旗艦『長門』にも敵機の放った大小誘導弾が突き刺さる。小型のほうは、ピンポイントで砲塔に直撃しても装甲で耐えるが、その衝撃で機器が損傷したり、旋回不能などに陥った。
――日本軍の艦は、見た目よりモロいのではないか……!
続出する被害報告に、イリスィオスは顔をしかめる。こうも故障が続くと、艦長はもちろん、対応指示を出す副長も困ってしまうだろう。
激震が『長門』を襲う。大型誘導弾が艦体中央に直撃したのだ。高角砲が破損し、機銃要員が吹っ飛んだ。
「左舷に注水! 艦の平行を保て!」
艦長の命令が飛ぶ中、イリスィオスは黙する。そうこうしている間に、轟音が後ろから響いたのだ。
――これは……弾薬庫が誘爆したか?
「『ヤマシロ』轟沈!」
戦艦部隊、最後尾の『山城』が敵の攻撃に耐えきれず沈んだのだ。
「右舷より雷撃機!」
敵九七式艦攻の、誘導魚雷搭載型が、航空魚雷を使う。つまり、この航空攻撃における仕上げの段階に差し掛かっているのだ。護衛艦、高角砲や機銃などがやられ、対空能力が薄くなったところに、誘導弾より射程は短いが威力のある魚雷を使うのである。
「取り舵いっぱい!」
艦長が叫んだが、おそらく無駄だ。敵の魚雷も誘導式。落とされた時点で、故障しない限り、避けようがない。
艦体に魚雷が刺さり、爆発した。巨大な水柱が吹き上がり、巨艦は傾く。
イリスィオスのトラック駐留艦隊は、日本海軍機動部隊の航空攻撃によって、そのほとんどが海に没したのである。
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・黒竜型装甲空母:『黒竜』(インドミタブル)
基準排水量:23000トン
全長:230メートル
全幅:29.3メートル
出力:15万2000馬力
速力:34.1ノット
兵装:40口径12.7センチ連装高角砲×8 25ミリ三連装機銃×16
航空兵装:カタパルト×3 艦載機×48
姉妹艦:
その他:イギリス海軍のイラストリアス級空母を改装したもの。異世界帝国が鹵獲、修理していたものを日本海軍が奪取。その後、魔技研の技術にて改装された。装甲空母として作られたため、艦の大きさに対して艦載機は少なめ。魔法防御装甲加工を加えることで、防御はさらに向上。機関も改装した結果、速力もアップしている。しかし艦載機搭載数の少なさの影響で、やや扱いずらい面もある。連合艦隊配備前に、第九艦隊に加わり、マリアナ諸島奇襲に参加。鹵獲艦の中では古参かつ歴戦艦である。
・大龍型大型空母『大龍』(レキシントン)
基準排水量:3万6000トン
全長:271メートル
全幅:32メートル
出力:16万馬力
速力:35ノット
兵装:40口径12.7センチ連装高角砲×8 25ミリ三連装機銃×22
航空兵装:カタパルト×3 艦載機×84
姉妹艦:
その他:アメリカ海軍空母『レキシントン』を異世界帝国から回収、再生したもの。日本海軍流の擬装が施され、魔法防御装甲や魔式カタパルトを装備した。翔鶴型に匹敵する空母として、主力機動部隊の一角を担う。
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