第155話、重爆隊 対 第三艦隊
日本海軍第三艦隊、旗艦『伊勢』。
敵トラック駐留艦隊へ放った攻撃隊。その戦果について、戦場を観測していた二式艦上偵察機から速報が入った。
「戦艦1撃沈、1隻が大破、洋上停止中。空母4隻撃沈破。他、重巡2、軽巡2撃沈確実。駆逐艦数隻を撃沈した模様――以上です」
通信長の報告を受けて、小沢中将は頷いた。山田参謀長は口を開く。
「まずは、厄介な空母を撃沈できました。これで、マリアナに上陸する部隊への攻撃は、ひとまず回避されましたな」
「いや、ニューギニア方面からの重爆撃機が飛んでくる。あとトラックの飛行場にも、さほど多くないとはいえ、重爆や戦闘機もある。油断はできん」
仏頂面で小沢は海図を見下ろした。
「あと、敵トラック艦隊が、ここからどうするのか。まだマリアナに近づくなら艦砲射撃をされんように、反復攻撃を仕掛けねばならない」
まだ楽観できる状況ではない。そしてその予測は的中してしまうのである。
作戦室に通信兵が駆け込む。
「警戒中の利根三号機より入電、当艦隊方面に進撃中と思われる敵重爆撃機の大編隊を発見! その数、およそ100機!」
「来たか」
「敵重爆撃機……」
息を呑む山田。小沢は鼻をならす。
「フィリピン海海戦でも、終盤に送り込んできたな。マリアナではなく、こちらに来たということは、例の艦載機キャリアー――空中空母だ。航空参謀、ただちに直掩隊を増強。空襲に備えさせろ」
「はっ!」
航空参謀の青木武中佐は、ただちに通信室へと移動する。小沢は独りごちる。
「二度も同じ手で驚きはせん」
旗艦『伊勢』からの通信を受けて、第三艦隊9隻の空母から、制空隊を増強すべく、零式艦上戦闘機が準備、発艦作業にかかる。
今回のマリアナ攻勢では、パイロットの数的問題もあって、単座で済む戦闘機の割合が多めとなっている。
敵艦隊、敵基地攻撃の他、防空任務の対応も重視されていた。
「所詮は、攻撃の主軸は重爆ではなく、運んできた小型機だ。敵の空母からの航空攻撃となんら変わらない!」
小沢は鼓舞するように言った。
各空母から発艦した零戦三二型は、順次高度を取る。敵重爆撃機は高度1万メートルを飛び、艦隊へと迫っていた。そこから敵が小型機を落とすならば、できるだけ高度を稼いでおかねば、敵の先制を許してしまう恐れがあった。
その点、小沢をはじめ第三艦隊司令部は、航空機同士の空中戦の部分でやや知識が足りなかった。
零戦三二型は、これまでの零戦に比べて高高度での速度が強化されている。しかし6000メートルに上がるまで7分はかかる。
元々、艦載機として低高度で運用するのが基本で、艦上戦闘機ならばそこまでの高度で戦うことはそうそうない。だから高度1万メートルを戦場にするようにはできていない。一応、限界上昇高度1万1000メートルは、運用の範囲内ではあるが……。
ともかく、零戦がモタモタ高度を上げている間に、敵重爆撃機は、悠々と第三艦隊上空に到達してしまった。
そしてフィリピン海海戦の時と同様に、艦載機を切り離した。
これには小沢も、内地に配備が進む二式局戦『
青電は、まだ本格量産されていないが、マ式推進の高高度戦闘機である。今回のような空母機動部隊の上空に敵重爆撃機が来るという事態に対して、充分に追いつき、戦うことができる。
「しかし、嫌な感じだ……」
小沢は思わず呟いた。艦載機を切り離したなら、さっさと向きを変えればいいものを、何故か、第三艦隊の直上に針路を向けている。
山田が眉をひそめた。
「まさか、こちらを爆撃してくるつもりか?」
「しかし、高高度からの爆撃では、洋上を高速で移動するフネにはまず当たりません」
青木航空参謀は言ったが、山田はさらに顔をしかめた。
「それは知っている。俺は『蒼龍』と『加賀』の艦長もやっている」
「小沢長官」
戦艦『伊勢』艦長の長谷真三郎大佐が発言した。
「対空戦闘を仕掛けますか? 本艦には、迎撃用の対重爆用誘導弾が装備されております」
「あれだけの数が相手だと、焼け石に水だがな」
小沢の記憶に間違いなければ、魔技研の修理と改装によって、高高度迎撃用の誘導弾が8発装備された。……そう、たった8発しかないのだ。本当は対艦用誘導弾用だったのだが、空母機動部隊の護衛ということで、フィリピン海海戦の時のように敵重爆撃機が来た時のために対空誘導弾に変えられていた。
「航空機を切り離された後では、見分けがつかない。攻撃は待て。ただし、敵小型機が制空隊と抜けてきた時のために、高角砲、機銃は準備しておけ」
「承知しました」
この『伊勢』をはじめ、主力高角砲は40口径12.7センチ連装高角砲である。これは最大仰角が90度あるが、9300メートル付近の高さまでしか砲弾を飛ばせないので、1万メートル以上を飛ぶ敵機には手が出ない。そもそも、艦隊と高高度を飛行する重爆撃機が戦うなんてことがないのだ。
「こちら対空見張り! 上空から奇妙な光が見えます」
「光?」
長谷艦長は首を捻った。その時、電測兵が報告した。
「敵重爆、さらに小型物体を投下した模様! 多数!」
「敵小型機の第二派か!?」
第三艦隊司令部は騒然となる。フィリピン海海戦の時より倍の数の重爆撃機だったが、一斉に分離するのではなく、分散して落としてきたようだ。
その時、見張り員がやってきた。
「報告します。上空より正体不明の光点が照射されています」
「正体不明? どういうことか?」
艦長が問えば、見張り員も困惑の表情を浮かべる。
「自分にもわかりません。ただ、ブルブルと動きながら『伊勢』の動きを追っているようなのです。こんなはっきり見える光が、何もないと思えないので報告を……」
「……」
「その、頭上に敵重爆が飛んでいるので、それと関係があると思うのですが――」
「誘導装置だ!」
小沢は叫んだ。九頭島で魔技研の神明大佐と話していた時に、誘導兵器の誘導方式についてあれこれ説明を受けた。正直、半分くらいピンときていないのだが、その時の誘導方式に、光を照射して誘導する方式があったはずだ。
「全艦、回避運動用意! 高角砲、一式障壁弾で頭の上に傘を張れ! 敵の誘導弾に狙われているぞ!」
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・MEBB-18オルキ
乗員:9名
全長:32.4メートル
全幅:全幅40.8メートル
自重:49トン
発動機:魔式エンジン(連装型×4)
速度:550キロ
航続距離:5400キロメートル
武装:20ミリ機銃×3 12.7ミリ連装機銃×3 爆弾12トン
その他:ムンドゥス帝国の主力重爆撃機。圧倒的な爆弾搭載力を持ち、航続距離、高高度での速度ともに高いレベルでまとまっている。爆撃仕様の他、輸送機型も存在する。ニューギニア方面軍において、艦上機を外付けして輸送する空中空母型が試作、運用された。
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