第151話、反撃の炎


 連合艦隊第一艦隊と、異世界帝国太平洋艦隊の砲撃戦は続く。

 180度のターンを行い、左砲戦から右砲戦へと移行した第一艦隊戦艦部隊。対する異世界帝国戦艦部隊は、艦首を向け、突進しながら砲撃を繰り返す。


 しかし、彼我の射撃精度は、日本海軍側に軍配が上がる。観測機と、能力者の弾道修正により、より正確な命中を引き出す日本戦艦に対して、異世界帝国戦艦の砲撃は、中々日本戦艦を捉えられない。


 異世界帝国戦艦の主力を形成するオリクト級戦艦は、前方に主砲火力を集中できる配置上、正面からの攻撃に対する装甲が厚めとなっている。しかし高い角度で落下してくる遠距離砲弾に対しては、完全に防ぎ切れず、損傷、煙を吐いている艦も多かった。


 カスパーニュ大将の旗艦『アナリフミトス』は、41センチ砲弾をほぼ弾く強固な装甲がある。故にここまで大きな損傷もなかったが、艦隊司令長官は大いに苛立っていた。

 ハワイを出撃した時は、日本軍を圧倒できると思っていた。威風堂々、正面から撃ち破れると思い描いた太平洋艦隊は、ここに来るまでに前衛艦隊を失い、航空兵力を喪失した。


 航空兵力を除けば、まだ五分の戦いができると考えていたカスパーニュだったが、現実はどうだ? 打つ手打つ手が裏目になるが如く、苦戦している。


「巡洋艦戦隊は?」

「駄目です。日本海軍に完全に抑え込まれています」


 太平洋艦隊から見て、右舷側から攻める日本艦隊――第二艦隊は、カスパーニュの派遣した重巡洋艦、軽巡洋艦部隊を蹴散らした。

 金剛型戦艦、雲仙型大型巡洋艦の火力に、異世界帝国重巡洋艦では対抗できず、一方的に叩かれている。


 また遠距離砲戦を仕掛ける主力――第一艦隊に対して、左舷側に残していた巡洋艦部隊を放って、敵の行動を妨害しようとしたのだが、こちらも主力に随伴する日本海軍の新型巡洋艦戦隊に阻まれた。

 新型重巡洋艦戦隊――第十二戦隊の吾妻型4隻と、第十三戦隊の笠置型4隻。これらは20.3センチ三連装砲3基9門の砲撃型重巡洋艦だ。

 その主砲は伊吹型重巡洋艦にも採用された自動砲であり、その装填速度、発射速度は、異世界帝国重巡洋艦を上回る。


 さらに異世界帝国側から始末が悪いのは、この重巡は対艦誘導弾を搭載しており、砲撃に先駆けてこちらの重巡洋艦にダメージを与えてきたことだ。

 先制され、ダメージを受けたところで、20.3センチ速射砲弾を浴びせられる。異世界帝国巡洋艦部隊は、日本戦艦部隊に近づくことさえできなかった。


 なお、この日本新型重巡洋艦だが、言うほど新型ではない。吾妻型は、ニューオーリンズ級など米重巡。笠置型が、異世界帝国のプラクス級重巡の鹵獲改装艦なのだ。これらは日本海軍重巡洋艦の系譜である艦橋や煙突などに変更された結果、原形となった艦がわからないほど変容していた。


 カスパーニュにとって、両翼の巡洋艦部隊は、ほぼ失われた。幸い、第一艦隊に張り付いている部隊は、戦艦部隊の護衛らしく向かってくる気配はない。

 危険なのは、突出する第二艦隊。これらが巡洋艦部隊を粉砕し、カスパーニュの戦艦部隊の側面を、水雷戦隊で突くのは時間の問題だった。


「後列の戦艦は、右舷より接近する敵艦隊を阻止せよ!」


 太平洋艦隊には12隻の戦艦があり、前列の横陣に9隻。その後方にオリクト級1、ヴラフォス級戦艦2がついていた。

 オリクト級戦艦は問題ないが、ヴラフォス級は主砲が34.3センチ連装砲と、対戦艦相手にはやや不足がある。


 だが迫る第二艦隊の金剛型戦艦や大型巡洋艦相手ならば充分である。隻数は不足しているが、ヴラフォス級は連装砲全門を正面に向けられ、その火力は突撃時、侮れないものがある。

 後列の3隻を送れば、当面は凌げる。問題はやはり、正面の敵主力戦艦部隊。こちらはすでに3隻が撃沈破され、2隻が損傷がかさみ、なお苦戦中。だが敵戦艦は一隻の撃沈も脱落もない。


「ここらで、風向きを変えねば――」


 カスパーニュは決断した。フィリピン海海戦後、修理と並行して搭載された新装備を使う!


「各艦、収束熱線砲、発射用意っ!」


 収束熱線砲、発射よーい――横列を形成する『アナリフミトス』と3隻のオリクト級戦艦が、艦首と艦橋上部の突起に光を溜める。


「魔力充填率50パーセント!」

「100まで溜める必要はない。充填率70で発砲」

「了解」


 一発の威力と引き換えに、動けなくなっても困る――というのが、カスパーニュの考えだ。この熱線砲は一撃必殺砲ではあるが、その分、エネルギーの消費も大きい。100パーセントまでの充填は、以後しばらくの行動不能を意味する。



  ・  ・  ・



 連合艦隊旗艦『播磨』。

 46センチ三連装砲4基が唸りを上げて発砲を繰り返す中、艦橋に、弾着観測機からの緊急電が入った。


『敵戦艦に、正体不明の発光を確認! 何らかの攻撃の予兆の可能性大!』

「どういうことだ……?」


 宇垣参謀長が思わず呟く。山本五十六大将は、不可思議な発光について思案するが、諏訪情報参謀が、彼にしては珍しく声を張り上げた。


「長官、敵の決戦兵器の可能性があります! 本艦搭載の防御障壁の展開、いや、緊急発動を具申します!」


 この『播磨』は元異世界帝国大型戦艦メギストス級である。その装備に強力な防御シールドが存在する。

 だが発動にはエネルギー消費がついて回るので、常時発生させ続けるのは困難だ。ここぞという場面で使うのだが。


 ――今がそのここぞという時か……!


「艦長、防御障壁展開だ。急げ」

「承知しました!」


 艦長の西田少将は、『播磨』の防御装置発動を命じる……!



  ・  ・  ・



「収束熱線砲、発射ァァ!」


 カスパーニュ大将の命令が飛び、『アナリフミトス』と3隻のオリクト級戦艦から、三つずつ光が空に向かって放たれた。

 それらの光が空中で交差、否ぶつかると、角度が変わり日本艦隊めがけて4本の赤いビームとなって飛んだ。


 それらは瞬きの間に、標的となった日本戦艦に直進。そして命中した。

 1つは旗艦『播磨』、1つは続く『武蔵』。1つは『安芸』に、最後に『甲斐』に命中した。


 強烈な熱線が装甲を焼き、溶かし、艦体内部へ流れ込む。『武蔵』が艦体中央から後部まで大爆発を起こし、『甲斐』が艦首から艦体前部を失い、『安芸』が艦の至る所から吹き、火山の如く爆発、吹き飛んだ。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

・吾妻級重巡洋艦:『吾妻』(ニューオーリンズ)

基準排水量:1万1000トン

全長:179.2メートル

全幅:18.8メートル

出力:11万馬力

速力:33ノット

兵装:50口径20.3センチ三連装砲×3 

   40口径12.7センチ連装高角砲×4

   四連装対艦誘導弾発射管×2 25ミリ三連装機銃×10

航空兵装:カタパルト×2 水上偵察機×4

姉妹艦:『六甲』(サンフランシスコ)『蔵王』(アストリア)

その他:米太平洋艦隊に所属していたニューオーリンズ級重巡洋艦。異世界帝国が鹵獲し、使用したものを撃沈後、日本海軍が再生したもの。主砲、高角砲を日本海軍式に換装、主砲は伊吹型重巡洋艦と同じ自動砲となっている。魚雷発射管は変わらず搭載していないが、対艦誘導弾発射管を装備し、遠距離戦闘を得意とする。日本海軍では、戦艦群の直掩部隊を構成。


・笠置型重巡洋艦:『笠置』

基準排水量:1万6300トン

全長:210メートル

全幅:22メートル

出力:15万2000馬力

速力:34.5ノット

兵装:50口径20.3センチ三連装砲×4 長10センチ連装高角砲×6

   対潜短魚雷投下機×2  四連装対艦誘導弾発射管×2 

   8センチ光弾砲×6 25ミリ三連装機銃×12

航空兵装:カタパルト×2 水偵×4

姉妹艦:「阿蘇」「葛城」「身延」

その他:ムンドゥス帝国の主力重巡洋艦を回収、改装した重巡洋艦。対8インチ防御が施された真・重巡洋艦であり、防御性能が高い。主砲も伊吹型重巡洋艦と同様の自動装填装置付きであり、攻撃面にも優れる。


・プラクス級重巡洋艦

基準排水量:1万5000トン

全長:210メートル

全幅:22メートル

出力:12万馬力

速力:32ノット

兵装:50口径20センチ連装砲×5 15センチ単装砲×4 8センチ光弾砲×6

航空兵装:

姉妹艦:

その他:ムンドゥス帝国の主力重巡洋艦。塔状の艦橋が二つと、シルエットが主力戦艦に似ており、誤認効果がある。海軍軍縮条約とは関係のない異世界建造の重巡洋艦であり、その装甲は対8インチ砲防御が施されており、地球各国の重巡洋艦と比べて遥かに強固となっている。

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