第149話、中部太平洋での激突


 4月21日、日本連合艦隊とムンドゥス帝国太平洋艦隊は、マリアナとウェークのほぼ中間海域で、大規模艦隊戦に突入した。


「突撃せよ! 日本艦隊を撃滅だ!」

「皇国の興廃この一戦にあり。各員一層奮励、努力せよ!」


 カスパーニュ大将と山本五十六大将。双方の意思が噛み合った時、決戦の火蓋は切って落とされた。


 異世界帝国艦隊は、戦艦9隻を横一列に並べ、正面から日本海軍第一艦隊に向かってくる。

 彼らの戦艦は、正面に対して全砲門を向けられる。艦首を敵に向け、突撃こそ、ムンドゥスの戦い方。


 対する第一艦隊は、縦に並ぶ単縦陣を採用。敵に対して横腹を向けて、艦首から艦尾までの全砲門を指向した。

 制空権は、日本海軍のものだった。第一、第二艦隊の空母6隻の直掩機が空にあって、睨みを利かしている。

 各戦艦のカタパルトから射出された観測機が空を舞い、第一艦隊の準備は整った。


「撃ち方、始め!」


 戦艦『播磨』『武蔵』の46センチ三連装砲が火を噴いた。

 先手をとったのは、日本海軍だった。フィリピン海海戦でやったように、遠距離砲撃からのアウトレンジ射撃を仕掛ける。

『土佐』『天城』が連装五基一〇門、『紀伊』『尾張』は三連装砲三基九門、残る『薩摩』以下、標準型戦艦は連装四基八門を発砲する。


 一式徹甲弾により、他国海軍の戦艦主砲より射程距離が伸びている分、異世界帝国戦艦群よりもアドバンテージがある。遠距離砲戦を仕掛けるというのも、きちんとある程度命中率があるのならば、日本海軍にとっては利にかなっているのだ。


「第二艦隊は、敵右翼側へ機動。側面より突撃を敢行せよ」


 山本は命令を発した。戦艦同士の砲撃の間に入らないように、第二艦隊は側面より敵に近づけさせる。


 南雲忠一司令長官率いる第二艦隊は、旗艦、大型巡洋艦『雲仙』に乗り、先陣を切る。

 雲仙型大型巡洋艦4隻、金剛型戦艦4隻で単縦陣を形成。敵に近い右側に重巡洋艦『伊吹』他8隻と、黒部型軽巡洋艦3隻、そして軽巡となった『青葉』率いる第二水雷戦隊が列を形成。

 反対の左側には、軽巡洋艦となった『エクセター』こと『仁淀』率いる四水戦が、水中からの襲撃に備えつつ、いざという時の突入に備えている。


 第二艦隊は、白波を立てつつ、やや迂回するように異世界帝国艦隊へと突入する。敵戦艦が、第一艦隊を砲撃圏内に収めるまでに、手持ち無沙汰だからと第二艦隊を砲撃してくると、囮にはなるが突撃の邪魔となるのだ。

 それでなくても――


「敵巡洋艦群、接近!」


 第二艦隊に対して、戦艦部隊の側面を守っていた敵重巡洋艦、軽巡洋艦戦隊が迎撃に来る。

 これらは日本軍の巡洋艦や、雷撃を仕掛けようと突撃する駆逐艦を排除するのが役目だ。

 第二艦隊旗艦『雲仙』の艦橋に、見張り員の報告が飛び込む。


「向かってくる敵は、重巡6、軽巡6、駆逐艦10以上!」

「蹴散らせ! 六戦隊、七戦隊は敵巡洋艦を砲撃! 八、九、十戦隊も、射程に入り次第、砲撃せよ!」


 南雲は命令を出す。

 第七戦隊、雲仙型の30.5センチ連装砲が、近づきつつある敵に指向する。第六戦隊の金剛型戦艦の35.6センチ連装砲もまた、巡洋艦相手には過剰ともとれる大砲を向ける。


 目標は、戦艦のように高い艦橋を持つ異世界帝国重巡洋艦。一見すると戦艦のようにも見える重厚な艦だ。

 だが、しょせんは20.3センチ砲レベルの攻防性能。雲仙型、金剛型とまともに殴り合うには、パワーも装甲も不足だ。


「撃ち方始めェ!」


 南雲の怒号にも似た声と共に、第二艦隊は砲撃を開始した。



  ・  ・  ・



 第一艦隊と異世界帝国戦艦群の交戦は、まず『播磨』と『武蔵』の46センチ砲弾が、標的となったオリクト級の水平装甲をぶち破り、大爆発を引き起こさせた。

 40.6センチ砲弾対応防御のオリクト級だが、それよりも遥かに威力の勝る46センチ砲弾を跳ね返すことは、ほぼ不可能。『播磨』の砲弾を浴びて、たちまち黒煙を吐きながら洋上に停止するオリクト級戦艦。また『武蔵』に狙われた艦は、被弾した次の斉射で艦橋を吹き飛ばされて、こちらも隊列から脱落した。


 突撃を続ける異世界帝国艦隊、旗艦『アナリフミトス』の司令塔で、カスパーニュは舞い込む凶報に目を怒らせる。


「一方的ではないかっ! ええい、構わん! 撃ちまくれ!」


 当初の砲撃開始距離からは遠いが、異世界帝国戦艦群も砲撃を開始した。旗艦の43センチ砲弾は、第一艦隊に余裕で届いたが、その狙いは荒く、まだまだ目標を捉えられない。

 オリクト級戦艦の40.6センチ砲も、日本艦隊の手前に虚しく水柱を連続させた。もちろん、射程内であるため、次はより合わせるのだが、弾着観測機が飛ばせず、正確な射撃は難しかった。


 そうこうしている間に、『播磨』と『武蔵』が競うように、オリクト級戦艦1隻ずつにトドメを刺した。

 そしてここで、第一艦隊に動きが見られた。それは連合艦隊旗艦『播磨』に飛び込んだ報告がきっかけだ。


「先導の一水戦『阿賀野』より入電。艦隊針路上に、敵潜水艦ないし潜水型駆逐艦の反応あり! 複数!」

「味方ではないのか?」


 潜水・水上両用艦艇で構成される第七艦隊艦の可能性を山本が確認するが、通信兵は答えた。


「いえ、友軍ではありません!」


 敵は、砲撃に集中する第一艦隊戦艦群を阻むように潜水艦を動かしていた。気づかずに突っ込めば、思わぬ襲撃に隊列を乱されていたかもしれない。トラック沖海戦では、第二艦隊が、潜水襲撃部隊による攻撃でやられているのだ。


「一水戦に処理させろ。第一艦隊は、180度回頭。ターンしつつ、敵戦艦への砲撃は継続する!」


 山本は命令を発した。


 軽巡洋艦『阿賀野』に率いられた駆逐艦隊は、そのまま前進を続ける。山本率いる戦艦部隊は、『播磨』を先頭に面舵を切る。そのままグルリと円を描くように波をかき分け、回頭。後続する『武蔵』『土佐』『天城』などは、前を行く艦の航跡を踏むように動き、元来た方向へターンした。

 主砲も左を向いていたものが、旋回に合わせて右へと動く。


 相変わらず向かってくる敵戦艦部隊も、日本艦隊の動きに合わせて艦首の向きを調整してくる。

 そして、敵左舷面の位置についていた重巡洋艦5、軽巡洋艦6、駆逐艦戦隊に突撃を命じたらしい。戦艦部隊よりも優速なので、日本戦艦部隊に接近して砲撃を妨害しようというのだ。

 だが――


「巡洋艦戦隊に阻止させよ」


 第一艦隊には、重巡洋艦8隻、砲撃型軽巡洋艦3隻が配備され、突撃する敵巡洋艦に対する準備はできていた。

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