第148話、航空撃滅戦
「敵機、来襲!」
「戦闘機を上げろ。上空直掩機、敵を近づけさせるなよ!」
異世界帝国太平洋艦隊、旗艦『アナリフミトス』。カスパーニュ大将は声を張り上げた。
対空レーダーが、接近する日本海軍機の編隊を捕捉。これに対して、主力艦隊に随伴するグラウクス級軽空母10隻から、ヴォンヴィクス戦闘機が相次いで発艦する。
「接近する敵編隊は二群。第一群、およそ70機。第二群は約80機」
150機近い日本海軍航空隊の襲来。ナターレ参謀長は首を傾けた。
「思ったより少ないですな」
「フン、前衛艦隊がタダではやられなかったということだろう」
カスパーニュは鼻をならした。
彼は、航空攻撃が日本海軍の空母機動部隊からだと思っていた。だから先日、前衛艦隊が空襲を受けた時、対空砲火で日本機をかなりの数を返り討ちにしたと考えたのだ。
トラック沖海戦での一方的な勝利。結果的に敗北となったフィリピン海海戦でも、日本機に打撃を食らわせたのだから、カスパーニュは、敵機動部隊も損耗していると思ったのだ。
だが、実際のところ、前衛艦隊を壊滅させた第三艦隊は、トラック駐留艦隊の対応のために戦線を離れていた。だから飛来した航空隊は、まったく別の部隊であるのだが、それに太平洋艦隊司令長官は気づいていなかった。
「航空参謀、こちらの戦闘機は?」
「直掩に50を向かわせ、追加に100機に送りました。手元にはまだ90機残っていますので、新手が現れても対応できます」
「ようし。150対150。こちらは全部戦闘機だ。奴らの攻撃隊は、攻撃圏まで近づくことはできまい」
カスパーニュはほくそ笑んだ。
異世界帝国戦闘機隊は、日本軍機を迎え撃つべく中隊ごとに向かっていたが。機銃の射程に入る前より、飛来した対空誘導弾によって先制パンチを食らうのである。
「み、味方機の反応が――」
レーダー管制官の声が上ずる。
急に複数の機影が消え、また日本側も複数の機が唐突に進路を変えて引き返す。この一連の動きを、カスパーニュらは理解できなかった。
「どういうことだ……?」
艦隊に迫っていたはずの敵機が、ヴォンヴィクス戦闘機が近づいただけで、逃げたというのか? さらに味方が敵との接触前に突然複数消えたわけは?
旗艦の司令塔にいてはわからないことである。
事実は単純だ。日本軍攻撃隊を構成する、零戦三二型と九九式艦上爆撃機のうち、九九艦爆が、積んできた対空誘導弾をぶっ放し、空中戦の前に敵機の数を減らしたのだ。
運んできた誘導弾を使ったので、任務完了とばかりに、艦爆隊は撤退。生き残った敵機に、零戦隊が切りかかって空中戦を展開するのである。
……そう、カスパーニュと彼の参謀たちはまだ気づいていなかった。日本軍の攻撃隊の標的は、迎撃に出てきた戦闘機狩り――ファイター・スイープだったことに。
そして、異世界帝国側が、日本軍攻撃隊に注目している間に、艦隊に攻撃の手が迫っていた。
・ ・ ・
『――遮蔽解除する。柳一番より、桜隊、楓隊。攻撃を開始せよ! 叩け叩け叩け!』
柳隊指揮官の内田ハル少佐の命令が無線機から響いた。九九式戦爆――九九式艦上戦闘機二二型を操る宮内桜中尉は無線機に応答する。
「桜一番、了解!」
『楓一番、了解』
楓隊を率いる同期の井口タキ中尉も応えた。九頭島航空隊出身者で固められた第七艦隊航空隊は、遮蔽装置によってその姿を隠し、カスパーニュ大将の太平洋艦隊主力の上空に差し掛かっていた。
「第一、第二小隊で2隻ずつだ! 第三小隊は残り物を任せるぞ! 突撃ぃぃ!」
機体を電子、目視から隠していた遮蔽が解かれて、異世界帝国艦艇の見張り員、そして突然レーダープロットに出現した反応にレーダー員たちも驚いているだろう。
だが、もう遅い。
最高速度に加速。戦闘機のスピードを用いて、九九式戦闘爆撃機は、敵主力艦隊の小型空母群に、猛禽の如く襲いかかった。
――戦闘機に比べりゃ、空母の飛行甲板なんて、デカイ的だ!
敵小型空母――グラウクス級軽空母は、全長198メートルと、空母としては小型ではあるが、重巡洋艦並の大きさがある。大きさ10メートル程度の艦載機と比較すれば、照準器に収めるのは赤子の手をひねるより楽だった。
魔力マーカーで照準。
「発射!」
搭載してきた対艦用ロケット弾4発と、500キロ滑空爆弾を1発が切り離される。まず無誘導のロケット弾が、空母の甲板に相次いで命中。遅れてマーカーに吸い寄せられるように滑空爆弾が飛び込み、敵小型空母の飛行甲板、そして格納庫を派手に吹き飛ばした。
僚機と共に、フルスロットルで離脱。まだ呆然としているのか、周りの敵艦から対空砲火は上がっていないが、モタモタしていれば撃たれる。投弾したら、逃げるが勝ち!
「どうよ!?」
敵艦列を離れて、引き離した宮内は振り返る。艦隊で派手に燃え上がっているのは、標的である空母。桜隊の戦爆隊も離脱に成功したようで、ついてきている。
キャンドルの如く炎上する敵空母だが、次々に水柱が上がる。
柳隊――内田少佐の二式艦上攻撃機隊が、大型対艦誘導弾を使って、敵空母にトドメを刺したのだ。
この攻撃は、連合艦隊主力と連動して行われた。第七艦隊は、前衛艦隊への夜襲後、敵主力艦隊が通過するのを見送り、その後方へ回り込んだ。
そして、第一、第二艦隊から飛び立った攻撃隊に合わせて、第七航空戦隊――『海龍』『剣龍』『瑞龍』から攻撃隊36機を発艦させた。
戦爆隊二個中隊と艦攻一個中隊は、遮蔽装置に隠れて敵の目をくらまし、後ろからこっそり接近すると、奇襲をかけたのだ。
『こちら、第七航空戦隊攻撃隊。敵空母群、完全に沈黙せり!』
発信された通信は、敵戦闘機を引きつけていた二航戦、六航戦の戦闘機隊に届いた。零戦隊は、ただちに戦闘を切り上げて、撤退にかかった。
異世界帝国太平洋艦隊は、完全に虚を突かれた。ファイタースイープを仕掛けた二航戦、六航戦に気をとられ、レーダー員と見張り員以外のクルーの注意はそちらに向いていた。
その注意の反対側――つまりまったく想定していなかった方向から、突然現れ、攻撃されれば反応もワンテンポ以上遅れるもので、敵と認識して対空機銃が火を噴く頃には、日本機はほぼ射程外へ逃れていた。
かくて、太平洋艦隊主力は、航空戦力を完全に喪失した。グラウクス級軽空母10隻は撃沈破され、当然空母内の艦載機は全て失われた。
日本機の迎撃に出たヴォンヴィクス戦闘機は、母艦を失い、ウェーク島の飛行場へ向かうように指示が飛んだ。被弾し、ウェーク島までもたない機体が海上に着水する。
カスパーニュ大将の主力艦隊の上空に常時待機できる戦闘機は、もはやなかった。
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