第143話、新編、第七艦隊


 日本海軍第七艦隊は、敵前衛部隊に対する襲撃を終えて、集結しつつある。

 今年になって新編成された第七艦隊は、全艦艇が潜水航行が可能である。ただの潜水艦ではなく、誘導兵器をメインに、敵の不意をつく遊撃戦を得意とする。

 第三艦隊の小沢中将と、魔技研の神明大佐が中心となり、武本中将の幽霊艦隊戦術をベースに研究、考案された戦術を具現化させた部隊である。



○第七艦隊編成


 第七十一戦隊:戦艦3:『大和』『美濃』『和泉』

 第七航空戦隊:空母3:『海龍』『剣龍』『瑞龍』

 第七十二戦隊:大型巡洋艦3:『黒姫』『荒海』『八海』

 第七十三戦隊:特殊巡洋艦2:『北上』『木曽』

 第七十四戦隊:特殊巡洋艦3:『初瀬』『八島』『九頭竜』

 第七十五戦隊:特殊敷設艦2:『津軽』『沖島』


 第七水雷戦隊:軽巡洋艦2:『水無瀬』『鹿島』

 ・第七十一駆逐隊:『氷雨』『白雨』『霧雨』『早雨』

 ・第七十二駆逐隊:『海霧』『山霧』『谷霧』『大霧』

 ・第七十三駆逐隊:『黒潮Ⅱ』『早潮Ⅱ』『漣Ⅱ』『朧Ⅱ』

 ・第七十四駆逐隊:『山雲Ⅱ』『巻雲Ⅱ』『霰Ⅱ』『夕暮Ⅱ』


 第十七潜水戦隊:補給・潜水母艦3:『ばーじにあ丸』『あいおわ丸』『迅鯨』

 ・第七十潜水隊 :伊600(特マ潜水艦)、伊611、伊612

 ・第七十一潜水隊:伊607、伊608、伊613

 ・第七十二潜水隊:伊609、伊610、伊614



 基本となる任務は、遊撃である。

 艦隊決戦ともなれば、連合艦隊より前進し、来航する敵艦隊に対して、遊撃戦闘を仕掛けて、敵戦力の漸減、妨害活動を行う。


 その他、敵基地や飛行場への一撃離脱、有力な輸送船団や、航行中の小艦隊を襲撃し撃滅する。

 潜水艦隊である第六艦隊と被る部分はあるが、潜水艦では不可能な、より攻撃的な任務を担当する。本来、潜水艦隊に割り当てられていた敵艦隊への漸減、奇襲を担当する専門艦隊といえた。


 遊撃任務として、割と行動の範囲が広いため、戦艦、空母に加えて、機雷戦を行う敷設艦や、潜水艦、そしてその潜水艦への補給を行う潜水母艦兼輸送艦も、専属艦が配備されている。


 モデルケースとなったのは、軍令部直轄の第九艦隊や、幽霊艦隊であり、そこでの艦隊運用の結果が反映されている。所属全艦艇の潜水機能を有することも、その一つだ。


 第七艦隊旗艦『大和』、その艦橋で報告を受けた武本中将は、マリアナ諸島へ向かう敵太平洋艦隊に与えた打撃に相好を崩した。


「初陣としては、上々じゃないか」


 大型空母5隻を有する前衛中央群は、日本海軍が古くから暖めつつ、実現性は低いと見られていた『夜戦部隊攻撃陣形』を真似ての四方からの攻撃により撃滅に成功。四つに分けた巡洋艦部隊と駆逐隊、そして潜水隊の援護で、ワンサイドゲームとなった。


「あれで、七十一戦隊が突っ込んでいたら、文字通り全滅させられたんだがな」


 武本が言えば、神明は、口元に小さな笑みを浮かべた。


 第七十一戦隊は、第七艦隊最強の火力を誇る戦艦戦隊だ。旗艦『大和』は46センチ砲搭載戦艦で、僚艦を務める『美濃』『和泉』は、異世界帝国戦艦の16インチ(40.6センチ)砲搭載のオリクト級戦艦を鹵獲、潜水戦艦に改装したものであり、より言えば、旗艦の能力者で、遠隔操艦できるようになっている。


 武本の言う通り、ここで『大和』と僚艦2隻の戦艦が、殴り込めば、残存艦を蹴散らすことは容易だっただろう。


「ここで中央群を全滅させてしまうと、溺者救助の手間が掛かります」


 敵であり条約も何もないのだが、海に生きる者として、溺れている者を見捨てることには抵抗がある。

 現在、敵残存艦は、沈没艦の生存者を可能な限り収容作業を行っている。


「そうは言っても、こちらから救助しても、勝手に死んでしまうのだろう」


 武本は難しい表情を浮かべる。現在、日本軍は、異世界人の捕虜を確保できていない。神明は言った。


「敵に限っていえば。……どのみち、前衛の他に後続する本隊がいる状況で、一カ所に留まるのは危険です」


 神出鬼没。潜水可能な遊撃部隊として、敵に捕捉される事態は、最小限に留めたい。


「できれば、生存艦も手傷を追わせて、今回の戦いにはリタイアしてもらいたかったのですが……」

「重巡が一隻、吹っ飛んじまったなぁ」


 無傷の大型艦の戦闘力を削るべく放った魚雷が、当たり所が悪かったらしく、一発轟沈させてしまった。


「まあ、運のいい奴もいれば悪い奴もいる。それが人生ってもんだ」


 そう武本は言うと、戦術ボードを見た。


「敵右翼部隊は、まだ動いておらんのか……」

「機雷が空母の周りに漂っていますからね」


 神明は皮肉げに言った。


「第七十五戦隊と七十一潜水隊としては充分でしょう」


 潜水敷設艦の『津軽』『沖島』――かつて第四艦隊に所属し、敵に撃沈されたが、幽霊艦隊で回収、特殊艦として復活した艦だ。

 多数の機雷を搭載し、それをばらまくのが機雷敷設艦という艦種であるが、『津軽』と『沖島』は、補給艦の機能を持つ多用途艦である。


 が、幽霊艦隊により、武装が強化された結果、ある程度の水上戦闘も可能な、強行敷設艦となった。


 また援護役の七十一潜水隊は、3隻ある潜水艦のうち、伊607(旧マ-7号)、伊608(旧マ-8号)が誘導機雷を多数搭載しており、機雷敷設戦にも秀でている。

 これら潜水隊と『津軽』『沖島』が、マ式誘導機雷を散布することで、敵一個群の足を止める活躍を見せたのだった。


「そして敵左翼」


 武本は視線をスライドさせた。


「こっちは、敵空母5隻をやっつけた」


 第七航空戦隊の空母『海龍』『剣龍』『瑞龍』から、夜間も戦闘可能な夜戦航空隊が発艦し、敵に夜襲を掛けたのだ。


 この空母群も、潜水航行が可能なように大改装されたが、『海龍』は米空母『エンタープライズ』、『剣龍』は英空母『アークロイヤル』、『瑞龍』は、異世界帝国中型空母である。


 この3隻は、海上に浮上すると、発艦作業を始め、夜間に九九式艦上戦闘機二二型――戦闘爆撃機仕様を出撃させ、能力者の誘導のもと、夜間手薄な敵前衛部隊を襲撃。中型空母5隻を対艦誘導弾とロケット攻撃で、撃沈ないし大破に持ち込んだのだった。


「夜間空爆とはな」

「パイロットたちは魔力視野ゴーグルを使っています。昼ほどではありませんが、暗闇でもよく見えますよ」


 神明は一切不安を感じさせることなく告げた。


 能力者の夜目の魔法と同様、能力がなくとも魔力視野ゴーグルをつければ、夜でも視界は確保できる。


 すでに2か月前の、『大和』単艦でのマリアナ諸島殴り込み作戦でも、大和航空隊の搭乗員たちは、魔力視野ゴーグルをつけて、夜間航空作戦を完遂している。


「何はともあれ、これで敵は空母を10隻失ったわけだ」


 武本はニヤリとした。


「こと航空戦力については、かなり漸減できたと思うが、どうだね、神明?」

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