第142話、夜戦部隊攻撃陣形


 異世界帝国太平洋艦隊、前衛中央群を、多数の魚雷が襲った。


 第七艦隊第四隊――特巡『九頭竜』が16本、軽巡『水無瀬』『鹿島』が3本ずつ合計6本、駆逐艦『海霧』『山霧』『谷霧』『大霧』が8本ずつ合計32本を発射。

 それを海中の特マ潜『海狼』の能力者による魔力誘導によって導かれ、異世界帝国駆逐艦が血祭りに上げられた。


 前衛中央群の旗艦、戦艦『シデロス』。指揮官であるトゥリティ中将は、突然のことに驚いた。


「なんだ、敵襲か!?」


 深夜である。敵艦発見の報はなく、可能性とすれば潜水艦かとも思ったが、周囲の喧騒と轟音が鳴りやまない。

 大型空母5隻を中央に、前方に戦艦5隻、後方に重巡洋艦5隻。それをグルリと取り囲むように軽巡洋艦5隻と、駆逐艦20隻がいるのだが、その外周艦艇が、立て続けに水柱を上げて、爆発と共に沈んでいくのだ。


「多数の魚雷による雷撃の模様!」


 ようやく報告が聞き取れた時、新たな叫び声が響いた。


「発光飛翔体、艦隊に急接近! 多数!」

「なんだと!?」


 味方駆逐艦の損傷と、止まらぬ被雷報告に、注意がそちらに向いてしまったのか。自分たちの艦も魚雷を受けるではと気にした結果、距離2万以上の闇から複数の噴射炎がわき起こったことへの反応が遅れた。


 魚雷の次は、対艦誘導弾だった。それらは未だ襲撃が何なのかわからないまま戦闘配置についていた兵たちを余所に、前衛中央群に飛び込んできた。


「飛翔体、北北東より飛来!」

「南南東、西南西からも飛来!」

「囲まれているのか!?」


 トゥリティ中将は怒鳴る。


「レーダーは何をやっているのだ? 敵がいるのだぞ!」


 先手を取られた。最悪なのは、まだ前衛中央群側が、敵の全容を掴めていないことだ。敵を発見する前から、一方的に撃たれるなど、あってはならないことである。

 爆発音が連続した。飛翔体――誘導弾に狙われた艦艇に、相次いで被弾したのだ。


「空母『グラナディス』、被弾!」

「空母『サピロス』に直撃、大爆発!」


 全長320メートルを誇る大型空母群が狙われた。闇夜に、赤々とした火の手が浮かび上がる。天に昇る勢いの火柱が、赤き光源となって周囲の艦艇にその影を落とした。



  ・  ・  ・



 第七艦隊第四隊に続いて攻撃したのは、第一隊、第二隊、第三隊だった。

 潜航可能な水上戦闘艦艇は、雷撃命中の直前に、旗艦からの命令に従い、緊急浮上した。その艦種は、大型巡洋艦、特殊巡洋艦、駆逐艦である。


 第一隊が、大巡『黒姫』、特巡『初瀬』『八島』、駆逐艦『氷雨』『白雨』『霧雨』『早雨』。


 第二隊は、大巡『荒海』、特巡『北上』、駆逐艦『漣Ⅱ』『朧Ⅱ』『夕暮Ⅱ』『巻雲Ⅱ』。


 第三隊が、大巡『八海』、特巡『木曽』、駆逐艦『黒潮Ⅱ』『早潮Ⅱ』『山雲Ⅱ』『霰Ⅱ』。


 これら大型巡洋艦は、幽霊艦隊所属の潜水戦艦だが、日本海軍に編入されるにあたり、大型巡洋艦に艦種が変更された。


『黒姫』がテゲトフ級『プリンツ・オイゲン』、『荒海』が『オストフリースラント』、『八海』が『テューリンゲン』である。


 そして特殊巡洋艦――対艦誘導弾を集中配備し、遠距離から誘導弾攻撃を仕掛ける巡洋艦は、潜水戦艦からクラス変更された『初瀬』『八島』と、重雷装艦から改装された軽巡『北上』、同球磨型『木曽』である。


 これら19隻は、三方向から、各艦から一式対艦誘導弾を発射した。

『黒姫』『初瀬』『八島』が片舷各8発。『荒海』『八海』が各16発、『北上』『木曾』各12発。残る駆逐艦も各4発ずつ、12隻48発を放ち、それらは残る異世界帝国前衛中央群を襲った。


 5隻の大型空母は、各艦10発以上の対艦誘導弾を集中され、その艦体は火だるまとなった。甲板を貫き、機関や格納庫、爆弾庫などが誘爆し、巨大な炎の塊となって吹き飛んだ。さらに残る誘導弾が、戦艦、重巡洋艦を襲い、艦上構造物が抉られ、艦側面を貫き爆発して穴を開けられた艦が浸水によって傾斜していく。



  ・   ・  ・



 前衛中央群にとって地獄が具現化した。

 旗艦『シデロス』で、トゥリティ中将は歯噛みする。


「敵の姿は、確認できんのか!」

「レーダーに反応ありません!」

「見張り員の報告では、敵艦らしきものを視認したのですが、距離をとったか、今は確認できません!」


 まるで突風のような襲撃だった。


 雷撃と誘導弾による攻撃で、前衛中央群は、リトス級大型空母5隻を、艦載機約600機ごと喪失。戦艦4隻損傷うち、1隻が大破、2隻中破。重巡洋艦2隻沈没、2隻中破。軽巡洋艦3隻沈没、1隻中破。駆逐艦12隻沈没、5隻大破の大打撃を被った。


「何たることだ……!」


 血反吐を吐くような声を出すトゥリティ中将。旗艦『シデロス』は4発被弾したが、バイタルパート部分だったために艦の航行に支障はない。ただし、司令塔近くの被弾で測距儀とレーダーにダメージがあった。


 残存する艦艇は、戦艦5、重巡洋艦3、軽巡洋艦2、駆逐艦8だが、戦闘可能なものとなると、戦艦2、重巡洋艦1、軽巡洋艦1、駆逐艦3。空母は全て失われたから、前衛部隊としての機能を喪失したと言ってもよい。

 その時、またも大きな爆発音が響き、旗艦の艦橋の窓を震えさせた。


「重巡洋艦『オアシス』轟沈!」

「何だと!?」


 無傷で残っていた重巡洋艦がやられた。大破した艦が消火しきれず爆沈したとかならわかるが、沈没するはずのない艦が沈むなど。


「まだ敵がいるというのか!? 残存警戒艦! 敵発見を急げ!」


 艦長らが慌ててやりとりをしている。まだ敵が見つかっていないというのであれば、潜水艦による雷撃か?

 無事な艦艇は、大破艦の消火支援や、敵への警戒として速度を落として見張っていた。そんな中を、傷ついた艦艇狙いのハイエナどもが寄ってきたのか。


「亡霊とでも言うのか……!」


 そう口にしたところで、参謀団がざわめく。この海域は、日本潜水艦部隊が跳梁ちょうりょうするデス・ルートであると。

 そこへ通信士官が駆け込んできた。


「報告! 前衛左翼群が、敵の攻撃を受けて、空母5隻を撃沈破された模様!」

「!?」


 司令部が騒然となる。敵は、中央群だけでなく、左翼群も襲ったのだ。


「飛翔弾にやられたのか?」

「仔細は不明です!」


 通信士官は背筋を伸ばした。そこへ別の通信兵が現れた。


「追加の報告です! 前衛右翼群が、敵の敷設した機雷と、潜水艦による襲撃を受けました。現在、艦隊が機雷原に囚われているため、行動不能とのこと!」


 悲報が続いた。これが猛将と謳われた前任の司令長官を更迭に追いやった日本軍か。トゥリティ中将と幕僚たちは、この夜の間に発生した被害の大きさに強い衝撃を受けたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る