第140話、炎上するマリアナ要塞
4月19日。マリアナ諸島サイパン、グアム、テニアンなど異世界帝国飛行場及び基地施設が、多数の航空機による空爆を受けた。
重爆の配備はともかく、迎撃戦闘機が配備され、日本軍の襲来に備えていた異世界帝国軍だったが、当日、各島のレーダー基地は、潜入していた日本軍特殊部隊の工作により、機能せず、まんまと日本海軍航空隊の奇襲を許した。
先制の航空攻撃を仕掛けたのは、連合艦隊の空母機動部隊である第三艦隊である。
小沢治三郎中将指揮の第三艦隊は、第一、第三、第五航空戦隊、合計9隻の空母による艦載機を展開させ、異世界帝国が建造中のマリアナ要塞を叩いたのである。
現在の第三艦隊は、戦艦1隻、空母9隻、重巡洋艦4隻、防空巡洋艦11隻、軽巡洋艦1隻、駆逐艦16隻の合計41隻となっていた。
○日本海軍第三艦隊、編成
・戦艦
単独旗艦:「伊勢」
・空母
第一航空戦隊:「翔鶴」「瑞鶴」「大鶴」
第三航空戦隊:「翠鷹」「蒼鷹」「白鷹」
第五航空戦隊:「赤城」「加賀」「大龍」
・重巡洋艦
第十一戦隊:「利根」「筑摩」「鈴谷」「熊野」
・防空巡洋艦
第十七戦隊:「米代」「木戸」「岩見」「宇治」
第十八戦隊:「六角」「小貝」「中津」「真野」
第十九戦隊:「狩野」「秋野」「伊佐津」
第一防空戦隊:「大淀」
第十四駆逐隊:「楓」「欅」「柿」「樺」
第三十五駆逐隊:「大風」「東風」「西風」「南風」
第三十六駆逐隊:「北風」「早風」「夏風」「冬風」
第六十一駆逐隊:「秋月」「照月」「涼月」「初月」
昨年は11隻の空母を抱えていた第三艦隊だが、第二航空戦隊が、前衛部隊である第二艦隊に配備されたため、9隻となっている。
中型扱いの『白鷹』を除き、残る8隻の空母は全長250メートル超え(『加賀』が248.6メートルと僅かに届かないが)の大型空母から編成されていた。
翔鶴型2隻、翠鷹型2隻、『赤城』『加賀』に加え、新顔として『大鶴』、『大龍』が編成されている。
『大鶴』は、回収した異世界帝国のリトス級大型空母であり、その大きさは全長300メートルを超える。艦載機も100機以上を搭載可能と、日本海軍最大の空母である。
『大龍』は敵に鹵獲されていたアメリカ空母『レキシントン』だ。全長は271メートルあり、80機程度は収容できる性能を持つ。
艦隊の艦載機数は、補機なしで673機。二航戦が抜け、一航戦の空母1隻が別艦となっているが、その時が732機と、空母3隻減っても艦載機の差は60機程度しかない。
実際、前衛の第二艦隊に配備されている二航戦と共同攻撃すれば、その分で以前の数を上回る。
なお、第三艦隊の補用機が100機以上ほどあるので、それらを含めればおよそ790機の航空機があった。
空母群の護衛艦艇に目を向けると、ドイツ艦改修の防空巡洋艦8隻に加えて、英軍沈没艦であり幽霊艦隊が回収したダナイー級軽巡洋艦が、防空艦として再改装されている。
ダナイー級は排水量5000に満たない小型軽巡洋艦で、主砲は15.2センチ速射砲6門と、日本海軍の5500級より若干弱い性能だが、主砲を連装高角砲四基八門に換装。秋月型駆逐艦に準じた防空能力を持たせた。
第十九戦隊を構成し、その艦名は、『ダナイー』が『狩野』、『ドラゴン』が『秋野』、『ダーバン』が『伊佐津』となる。
排水量に比べて、いささか軽武装ではあるが、全長も144メートルで、秋月型と10メートルしか差がないので、無理はさせられない。それでなくても、多数の高角砲搭載艦は、トップヘビーになりがちなので、敢えて防空駆逐艦並みに抑えて、安定性のある秋月型と思って割り切るのである。
それを言えば、以前から配備されているドイツ艦改修防空艦も、防空駆逐艦に毛が生えた程度なので、準秋月型11隻と考えたほうがいいだろう。
これら秋月型もどぎ防空巡洋艦と、松型駆逐艦4隻、大風型8隻、そして新鋭秋月型は、4隻が揃い、こちらも1個駆逐隊を編成できるようになった。フィリピン海海戦では『秋月』のみだったから、新型長10センチ高角砲装備の4隻が揃ったことで、防空能力も強化された。
これらの他に、『利根』『筑摩』『鈴谷』『熊野』の4隻の重巡洋艦が護衛に付き、艦隊旗艦は、高速戦艦化した『伊勢』が務める。
これら重巡、戦艦は、防空戦闘において大口径の一式障壁弾を展開し、艦隊防空を助ける。フィリピン海海戦で、駆けつけた『大和』の障壁弾展開能力を小沢中将らが見て、高角砲弾より広い範囲に障壁を広げられる大口径砲搭載艦の有効性を見いだしたのだ。
また、敵の潜水型水上艦艇が浮上、近接戦闘を仕掛けた場合の護衛として、『伊勢』や重巡洋艦らの護衛も期待できた。
そして現在、第三艦隊の旗艦は、戦艦『伊勢』が務める。
魔技研による大改装を受けて、主砲を35.6センチ連装砲六基から41センチ三連装砲三基に換装。機関を交換、高速化したこの戦艦は29ノットと、空母機動部隊に随伴可能な足を持つ。
「第一次攻撃隊、サイパン、グアム、テニアンの各飛行場を痛打。地上、また空中に敵航空機なし――以上です」
通信長の報告に、第三艦隊司令部参謀たちが安堵する。参謀長の山田定義少将は、小沢へ向き直った。
「やりました。奇襲は成功です」
「うむ……」
小沢は腕を組み、小さく頷いた。実に無愛想な態度であり、それを見た参謀たちは、内心ヒヤリとする。
昨年末、第三艦隊司令部は、人事が大幅に変わり、草鹿龍之介少将から、山田に参謀長が変わった。
本来は小沢が第三艦隊の司令長官になる時に、司令部要員も交代するところである。しかし時期がトラック沖海戦後の人事移動でごたついていた時であり、指揮官重傷で交代となった第二艦隊司令長官に南雲中将が慌てて異動となり、小沢もその流れに乗って、第三艦隊司令長官となったので、幕僚人事まで動かす余裕がなかったのである。
要するに引き継ぎの余裕もなく異動させられたので、司令部が機能不全にならぬよう参謀たちは変えなかったのである、
だから、ようやく正しく司令部要員が交代となったわけだが……はっきり言って、小沢はこの人事に不満があった。前任の草鹿は空母戦闘の経験があり、当然幕僚たちも然り。だが新たな幕僚たちは、空母での戦闘経験がなかったのである。
山田とて、かつては『蒼龍』や『加賀』の艦長を勤めていたが、どちらかというと軍令部勤めが長く、実戦に関しては不安だった。
いや、小沢の本音を言えば、自分のスタッフに、九頭島の神明大佐を加えたかった。
小沢が、旗艦を空母から戦艦にしているのも、実は神明大佐から聞いた話が、きっかけだったりする。
戦艦の高いマストは、空母に比べて受信能力に優れるため、実は艦隊旗艦としては空母より有利という話である。指揮官が重要な通信情報を逃して、決定的な判断を下せないのはよろしくないと言われ、なるほどと感じた。
――神明は、実戦経験が豊富だ。
軍令部直轄部隊という立場だったこともあるが、大胆不敵な作戦を決行し、勝利を収めてきた。彼が補佐についてくれれば、これほど頼もしいこともないだろう。
――まあ、奴は今頃、第七艦隊だ。
小沢は口元を緩める。マリアナ要塞は沈黙させた。次はマリアナへ救援に来る異世界帝国太平洋艦隊である。
――新・夜戦攻撃の威力……お手並み拝見だな。
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