第138話、反撃の始まり


 アメリカ海軍が太平洋戦域にも動き出した頃、4月の大攻勢に向けて準備を進めていた日本軍もまた、行動を開始していた。

 この頃、連合艦隊は、以下の通りとなっていた。


・第一艦隊:決戦主力部隊。戦艦を中心に、艦隊決戦ならびに、敵地砲撃を担う。


・第二艦隊:前衛遊撃部隊。高速戦艦、巡洋艦を中心とし、艦隊決戦時は第一艦隊を支援。それ以外の作戦行動時は、第三艦隊の前衛や、高速を利しての追撃戦を行う。


・第三艦隊:空母機動部隊。航空機を用いた攻撃、防空、偵察を行う。艦隊攻撃、敵地攻撃、追撃戦など、多目的に任務を遂行する。


・第四艦隊:欠(中部太平洋奪回後に、復活の可能性大)


・第五艦隊:北方警戒艦隊。アメリカとの通商路を護衛する海上護衛隊を支援する。


・第六艦隊:潜水艦隊。潜水艦を用いた偵察、哨戒、通商破壊戦を展開。艦隊決戦時は、主力の支援を行う。


・第七艦隊:潜水戦闘艦隊。潜水型水上艦隊を含む遊撃艦隊。敵地奇襲、艦隊決戦前の漸減、決戦支援を行う。


・第八艦隊:南西方面艦隊。フィリピン、東南アジア方面で活動する防衛、警戒艦隊(南遣艦隊も含む)。


 なお、第九艦隊は、軍令部直轄の魔法実験部隊ということで、連合艦隊の編成には含まれていない。もっとも、その戦闘艦艇の一部は、第七艦隊へスライドする形で移動していた。


 ともあれ、魔技研による再生艦が多数配備され、規模が拡大した連合艦隊は、完全ではないものの、反攻作戦のための編成や練成も進んでいた。


 そして、1943年4月15日。連合艦隊は動き出した。

 臨時編成を加えた第八艦隊が、東南アジアから東進。異世界帝国領となっていたパラオを襲撃した。



  ・  ・  ・



 パラオ諸島。中部太平洋にあり、トラックのある東カロリン諸島の西、すなわち西カロリン諸島にある。


 第一次世界大戦の頃は、ドイツの植民地だった。だが、かの国の敗戦とヴェルサイユ条約によって領有権は消滅。その後、紆余曲折あり日本の委任統治領となった。


 異世界帝国の侵攻により、トラック失陥後、パラオ諸島もまた敵の手に落ちた。日本にとっては、トラックと並んで因縁深き土地である。


 そして、日本軍は帰ってきた。


 三川軍一中将指揮する第八艦隊は、フィリピン海を通り、パラオへと向かった。

 第八艦隊は、戦艦4隻、空母4隻、重巡洋艦2隻、軽巡洋艦5隻、駆逐艦15隻からなる。今回は臨時編成部隊として、さらに水上機母艦4隻が、航空戦力の足しとして加わっている。


 まず、攻撃目標とされたのは、航空基地のあるペリリュー島だった。ここには日本統治時代に大規模な飛行場が作られており、異世界帝国軍も同地を占領後、航空基地として運用している。


 そしてペリリュー島の異世界帝国軍は、偵察機により、第八艦隊を発見した。だが発見当時、第八艦隊が西進の動きを見せていたため、マリアナ諸島へ向かっているのでは、と考えて太平洋艦隊司令部に通報するに留めた。


 日本軍の次の侵攻がマリアナ諸島と目されていたことも、それを後押しした。まさかパラオに向かってくることはないだろう――その油断が、命取りとなった。

 第八艦隊は、夜のうちに進路を変えて距離を詰めると、夜明けとともに攻撃隊を繰り出したのである。


 第八艦隊に所属する第四航空戦隊『飛鷹』『隼鷹』『龍鳳』『瑞鳳』、そして臨時編成の第十一航空戦隊の水上機母艦『千歳』『千代田』『日進』『瑞穂』から航空隊が発進。ペリリュー島のペリリュー飛行場、そしてすぐ北のガドブス島に作られていた飛行場を急襲した。


 異世界帝国軍航空隊も、レーダーで接近する日本軍航空隊を発見。ただちに戦闘機を迎撃に出した。

 ヴォンヴィクス戦闘機は、四航戦の戦闘機――零戦二一型のマイナーチェンジである三二型と激突。その間に九九式艦上爆撃機、九七式艦上攻撃機、そして零式水上偵察機改め、改装された零式水上攻撃機部隊が、飛行場を爆撃した。


 この第一次攻撃で、第八艦隊航空隊に少なくない被害が出たものの、当初の攻撃目標である敵飛行場の一時的な無効化に成功した。


 制空権を確保したのち、第八艦隊はパラオ港へ接近。第二次攻撃隊で敵施設を攻撃しつつ、艦隊も砲撃に加わった。


 アラカベサン島のコバサン港、マラカル島のマラカル港――これらを合わせてパラオ港と呼んでいるが、ここにも異世界帝国は駐留部隊として、軽巡洋艦2隻、駆逐艦5隻を置いていた。


 本当はもっと配備されていたのだが、マリアナ諸島への補給、その護衛部隊に引き抜かれてから補充されておらず、戦力としては弱体だった。


 そこへ第八艦隊が襲いかかった


 第五戦隊の戦艦『常陸』『磐城』『近江』『駿河』の4隻と、第十四戦隊の重巡洋艦『九重』『那須』は、パラオ港にいた警戒の巡洋艦、駆逐艦を砲撃。第二十戦隊の軽巡洋艦部隊「鳴瀬」「新田」「神流」「静間」もこれに加わった。


 バイエルン級戦艦、リヴェンジ級戦艦改装の『常陸』『磐城』『近江』『駿河』の主砲は38センチ砲だが、食らえば巡洋艦などひとたまりもない威力である。38センチ砲十六基三十二門を集中されれば、異世界帝国のメテオーラ級軽巡洋艦は、ろくな反撃もできず一蹴された。


 残る駆逐艦は、第二十戦隊の獲物となった。

 この新設された第二十戦隊は、連合艦隊に編入される前は幽霊艦隊に所属していた。

 その艦は、ABDA艦隊サルベージの、オランダ巡洋艦『デ・ロイテル』、オーストラリア巡洋艦『パース』、イギリス巡洋艦『エメラルド』、『エンタープライズ』である。

 正確には『エンタープライズ』だけは、幽霊艦隊ではなく、南雲中将の第二艦隊が、マレー沖で沈めた敵シンガポール駐留艦隊の艦艇の再生、改修艦ではあるが。


 いずれも、大体排水量が7000トン前後で、全長、全幅も近く、武装も15.2センチ連装自動砲四基八門に統一、艦橋やマストなど構造物も、ほぼ合わせたため、ぱっと見では、ほぼ姉妹艦に見えるように仕上がっている。

 もちろん、同型艦でも違いがわかると豪語する通が見れば、一目見ただけで、微妙に煙突位置や砲の幅などの違いがわかるくらい、別物の集まりだと看破できるが。


 なお、連合艦隊編入に合わせて艦名が変更されており、『デ・ロイテル』が『鳴瀬』、『パース』が『新田』、『エメラルド』が『神流』、『エンタープライズ』が『静間』となっている。


 ともあれ、第二十戦隊の軽巡洋艦戦隊の15.2センチ自動砲の弾幕に、異世界帝国駆逐艦は瞬く間に蜂の巣となり、沈んでいった。


 かくて、パラオの異世界帝国軍は、第八艦隊の急襲により、その戦力を喪失。中部太平洋戦域における、日本海軍反撃の狼煙となった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る