第126話、ゲートを爆撃せよ


 アスンシオン島上空のゲートをくぐった先は、見知らぬ大地。異世界帝国のものと思われる巨大要塞飛行場があった。

 第九艦隊から飛び立った攻撃隊による急襲で、要塞飛行場を混乱させている間に、二式水上攻撃機に乗る須賀と犬上は、ゲート発生機を探す。


 目星はついた。

 ゲートの下にあるY字の構造物。そこからプラズマが走り、上空のゲージに繋がっている。エネルギーを供給しているのだろう。


「あれを破壊したら、ゲートは消滅するか?」

「おそらく」


 犬上は冷静だが、見たところの感想の域を出ない。異世界帝国の装置を見て、わかる人間などそうはいない。


「ゲートに直接関係しているのが、あの装置しか見当たりませんから」

「だな。問題は、八〇番で効くかどうかだ」


 今回、須賀機には、八〇番陸用爆弾改の誘導爆弾が搭載されている。今ある航空爆弾では最大のものだ。


「やるしかないか」

「そうですね。では味方機にゲートから退避指示、出します」


 犬上は無線機を使い、鰤谷丸攻撃隊に撤退の指示を出す。須賀は、ゲートと周囲を見回し、そして攻撃のための位置どりを組み立てる。


 攻撃は1回のみ。侵入コースを外れたら駄目。当然ながら、爆弾が誘導して当たるコースを飛ばなくてはいけない。

 訓練はしているが、本職の爆撃機乗りではないので、緊張する。一発勝負だ。


 投弾を終えた味方機が全速力で、ゲートへと飛ぶ。彼らが全機ゲートを潜るまで、攻撃はできない。

 ゲート発生機を破壊すれば、数秒以内にゲートは消滅するだろう。つまり破壊した時こちらにいれば、アスンシオン島に帰れなくなる。この異世界かもしれない、どこかに置き去りになるのだ。


 ――早く行けよ。早く……!


 要塞飛行場は巨大だ。十数機の攻撃機の爆撃で与えるダメージなど高が知れている。無事な滑走路から、敵機が上がろうとしているのだ。須賀機が最後の仕上げに掛かる前に、敵戦闘機に妨害される可能性がでてくる。

 次々に味方機がゲートに突入しては消えていく。


「もういないな!?」

「はい、あの3機が最後です」


 犬上は言った。その最後の機体も、間もなくゲートに突入する。須賀は二式水攻を旋回させて、ゲートに対して正面から向かう。文字通り最後尾だ。


 ――敵機が上がってきた!


 蜂のように見えるのは、フィリピン海海戦で目撃された敵の新型戦闘機だろう。時速650キロ超えの脅威の高速機。喰らいつかれたら、二式では逃げ切れない。

 フルスロットル。一気に、しかし真っ直ぐゲートへ突進する。


「犬上!」

「爆撃針路そのまま!」


 誘導装置を覗き込み、犬上は語気を強めた。須賀も腹に力を入れる。爆弾の投下、そしてそのままゲートに突っ込む。手順に間違いはない。投下タイミングさえ間違えなければ当たる。ゲートがグングン迫ってくる。


「用意――撃ててぇ!」


 800キロ誘導爆弾が切り離された。一瞬、機体が軽くなったような感覚。そしてたっぷり一秒を噛みしめるほどの長さを感じたままゲートに突入した。


 ――さあ、どうなった!?


 ゲートを突き抜け、海と、第九艦隊の艦艇が眼下に見えた。そのまま背後を振り返れば、ゲートが揺らめき、すぅ、と消えていく。


「やった!?」


 喜んだのもつかの間、ゲートほとんど消えた空間を裂いて、1機飛び出してきた。蜂型戦闘機――!


「ついてきやがった!?」


 ペダルを踏み込み、操縦桿を捻った。背中を刺すような感覚から逃れるべく、二式水攻が回避すると、寸でのところを、敵機の放った曳光弾の束が通過した。


「くそっ」


 遮蔽装置を――須賀は操縦桿を倒しつつ、遮蔽装置のボタンに手を伸ばす。獰猛な高速蜂の毒針が迫る――その時だった。


 九九式艦上戦闘機が突っ込んできた。両翼の12.7ミリ機銃六丁が火を噴いて、敵高速戦闘機エントマ、その翼を吹き飛ばした。

 錐揉みしながら墜落していく敵機。須賀機の横に敵機を叩き落とした九九式艦戦が並んだ。


 第九艦隊の実験空母『翔竜』の制空隊の機体だ。第九艦隊の防空と、島に近づいた『鰤谷丸』の援護にいた戦闘機である。


「あの尾翼の識別は――」

『よう、ジロウ、生きてっか?』


 無線から馴染みの戦闘機隊長の宮内桜 中尉の声が響いた。


『ドンケツがお前だってことはわかってたからな。ラムネを奢らせてやるぞ』

「助かりました、宮内中尉」


 礼を言いつつ、周囲の確認。周りは味方機ばかりで、敵機の姿はない。ギリギリで通過したのは、先の1機だけだったようだ。


『大和三番、こちら『大和』、応答せよ。無事か?』


 母艦からの通信が無線機に入った。須賀が合図すると、後座の犬上が報告を送る。ゲートの向こうで、発生機らしき装置に爆弾を投下し離脱したこと。直後にゲートが消滅したことから破壊したものと思われる。


『作戦は成功と認む。全機、母艦へ帰投せよ』


 終わった――須賀は一息つきつつ、母艦である戦艦『大和』へと二式水上攻撃機と機体を導いた。

 まず思ったことは、戦闘機より鈍い攻撃機に乗るのは、今後遠慮したいということだった。新型の敵機に追われた時は命が縮んだ。



  ・  ・  ・



 ゲートの消滅を確認し、第二挺身部隊はアスンシオン島海域から離脱した。

 先に離脱していた第一挺身部隊と合流し、内地への帰還を目指す。


 戦果は、敵駆逐艦および潜水艦15隻を撃沈。航空機二十機ほどを撃墜した。

 一方の被害は、第一挺身部隊で、重巡洋艦『鞍馬』、駆逐艦『暁』が至近弾により軽微な損傷。駆逐艦『若葉』、第二挺身部隊で大型巡洋艦『生駒』、巡洋艦『鈴鹿』駆逐艦『天雲』が機銃掃射を受けて、数名の死傷者が出た。

 また四航戦の戦闘機は2機が撃墜され、3機が被弾した。


 全体で見れば、軽微な被害である。

 かくて、作戦は成功し、異世界帝国重爆撃機による、日本本土空襲は、ひとまず防がれたのだった。

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