第124話、アスンシオン島、砲撃
第一、第二挺身部隊がアスンシオン島に近づくまで、また異世界帝国重爆撃機部隊が、ゲートを使って本土を攻撃した。今回狙われたのは父島だったが、いつ帝都が襲われるかはわからない。
アスンシオン島の周辺には、敵の潜水艦乃至潜水型駆逐艦が十数隻、警戒しているのが、マ号潜水艦の索敵で判明している。現在のところ、大型艦の姿はなし。
ただしサイパン島周辺に巡洋艦戦隊がおり、通報あれば、アスンシオン島へ半日以内に駆けつけられる状態にある。
挺身部隊にとっては、余計な敵が介入しないように、発見されるのは極力遅らせたいところだった。
12月17日。マ号潜水艦戦隊、アスンシオン島警戒の敵潜水艦を雷撃、これを撃沈。挺身部隊の島への接近を通報する敵を事前に排除した。これにより、二つの挺身部隊は、さらに島へと接近した。
そして第一挺身部隊、旗艦『比叡』を発艦した零式水上偵察機は、アスンシオン島上空に侵入した。
『ゲートと思われる発光物を確認。また島に建造中の小規模基地を発見!』
異世界帝国が、アスンシオン島に基地を作っていた。第三戦隊司令部に緊張が走る。栗田健男中将は顔をしかめた。
「ゲート発生機は、島にあり、か」
それならば、第一挺身部隊はアスンシオン島に艦砲射撃を見舞わねばならない。
その直後、偵察機から『我、敵機と遭遇』の報告が入った。水偵は、敵に発見されたのだ。
偵察機が島に現れたとみれば、異世界帝国は当然警戒を強めるだろう。用心深い敵ならば、日本の艦隊が近くにいるのでは、と索敵機を飛ばしてくるに違いない。
栗田は考える。ここは艦隊がいないと見せるために、一時退避を選択するか。いや、仮に発見されるとしても、次に来るのは攻撃隊ではなく、偵察機だ。そこで艦隊の規模を把握し、攻撃隊を編成するにしても少々準備が必要だろう。
その間に、我々は島に近づき、ゲート発生機を破壊してしまえば攻撃隊が飛んでくることもなくなる。引くよりも、突っ込んだほうが被害は少ない――うむ。
「第一挺身部隊、全艦増速。アスンシオン島へ突入し、敵ゲート発生機を砲撃する」
栗田は、可能性を天秤にかけて、発見覚悟で最短を行くほうが結果的によいと考えた。
一度退避して、航空攻撃の可能性が低い夜間に突入も考えたが、島の周りには水上艦艇と潜水艦がいるため、かえって待ち伏せの危険があった。
日が出ているうちなら、敵の雷撃も夜に比べて発見しやすい。とはいえ、敵がゲートから空襲してこない可能性がないわけではないので、第四航空戦隊の空母から戦闘機を出して防空の傘をかける。
「攻撃隊は出されないのですか?」
「今は出さない」
栗田は先任参謀に応えた。『飛鷹』『龍鳳』の航空隊は新人が多いと聞いている。洋上航法についても若干の不安があり、攻撃隊を出すなら極力、目標に近づけてほしいと四航戦側から希望が出されていた。
人材不足の弊害。日本海軍航空隊の消耗からは完全に立ち直っているとは言い難い。多数の新人パイロットを抱える第三艦隊に比べれば、まだマシというだけで、ヒヨッコであることは変わらない。
もちろん、任務のためならば、そんな新人だらけの航空隊でも出さなくてはならない。だがら栗田は、戦艦部隊による艦砲射撃が不可能と判断した場合に攻撃隊を出すつもりでいた。
「先行する潜水艦部隊より入電。我、敵警戒部隊を攻撃せり」
・ ・ ・
マ号潜水艦『海狼』以下、魔技研潜水艦戦隊は、アスンシオン島の周りにいる敵駆逐艦や潜水艦に対する攻撃を開始した。
魔力誘導された魚雷が、海上を警戒する異世界帝国艦艇に吸い込まれ、次々に爆沈する。 襲撃を受けて、慌てて潜水を始める異世界帝国潜水艦。
しかし、誘導魚雷を持たない異世界帝国艦では、マ号潜水艦に手も足も出ない。島に接近する水上艦艇を潜水艦が、潜水艦には駆逐艦が相手するつもりだったが、マ号戦隊に手当たり次第に雷撃され、仕留められていった。
異世界帝国軍アスンシオン島警戒部隊は、複数潜水艦による敵襲を全軍宛てに通報した。これで敵――おそらく日本海軍がゲートを狙っていることが報告されたのだが、それが裏目に出る。
栗田の第一挺身部隊が島へ現れた時、ゲートから飛び出したのは、対潜爆弾を積んだミガ攻撃機であり、すぐに日本艦隊へ攻撃することが不可能だったのだ。
いや攻撃自体はできるのだが、対潜爆弾――つまり爆雷で、水上艦艇に有効なダメージを与えるのは難しかったのである。
しかも第一挺身部隊の栗田は、ゲートから敵攻撃機が出てきたのを確認した時、四航戦の戦闘機隊に、全力迎撃を命令した。
積んでいるのが対艦爆弾か爆雷かなど、遠距離から判別できなかったのだ。艦隊が攻撃されないように直掩機を突っ込ませたのだが、これにより、異世界帝国攻撃機は、牽制すらかなわず逃げまどうしかなかった。
その間にも、第一挺身部隊は島との距離を詰める。
「目標、アスンシオン島、敵陸上施設」
栗田の命令を受けて、旗艦『比叡』を先頭に『常陸』『磐城』が単縦陣で続く。昼戦である。距離2万5000を切り、接近しつつ、それぞれ戦艦は砲門を島へと向けた。
「第三戦隊、撃ち方始め!」
戦艦『比叡』が35.6センチ連装砲を発砲した。続く戦艦『常陸』『磐城』も38センチ連装砲を発射した。各艦8門、3隻24発の砲弾が、アスンシオン島を襲った。
地表を抉り、爆発に混じって土砂が吹き飛ぶ。そして一部施設に直撃したか、派手に火の手が上がった。
三戦隊の戦艦は砲撃を続ける。施設のどれがゲート発生機かわからないので、目につく建造物はすべて破壊対象だった。
「まだ、ゲートは消えないか」
装置を破壊すれば、それでゲートは消える。だが今のところ爆発四散した建物は、発生機ではないようだ。まごまごしていると、敵航空機が出て来る。
栗田は焦燥にかられる。幸い、島には砲台がないのか、反撃は飛んでこなかった。
だが、ゲートから敵大型機が出現する。本格的な反撃が始まるか――第三戦隊司令部に緊張が走る中、ゲート付近に新たな光が複数発生した。
「戦艦『大和』です! 第二挺身部隊が到着!」
見張り員からの報告。さらに通信兵がやってきた。
「第二挺身部隊、伊藤長官より電文。『我、障壁弾で、敵ゲートからの航空機出現の妨害を試みる』以上です」
「なるほど、ゲートに蓋をするわけか」
『大和』の46センチ砲弾は、ドンピシャで一式障壁弾をゲート付近に展開させるので、中から飛び出てきた敵機がそれに激突していく。数機がすでに外に出ているが、それくらいならば四航戦の戦闘機隊で追い払えるだろう。
「砲撃続行。ゲート発生機を叩き潰せ!」
戦艦3隻の砲撃は続く。さらに第五戦隊の重巡洋艦『伊吹』『鞍馬』も、20.3センチ三連装砲による砲撃を開始。地上施設の破壊を進めていく。
すべて順調だった。敵の駆逐艦が、第一挺身部隊に迫ったが第一水雷戦隊がこれを迎撃し、返り討ちにした。そしてアスンシオン島から人工構造物は、すべて破壊された。
だが、ゲートは、空中に浮いたまま、存在し続けたのである。
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