第108話、突撃、幽霊艦隊


 異世界帝国輸送船団、第四グループを襲ったのは、幽霊艦隊第二部隊。ジャワ沖で沈められたABDA艦隊の艦艇再生・改修艦隊だった。


 重巡洋艦『ヒューストン』を旗艦に、軽巡洋艦『ボイス』『マーブルヘッド』『パース』『ジャワ』『デ・ロイテル』『エメラルド』『ダナイー』、軽空母『ラングレー』、駆逐艦『スチュワート』『ポープ』『アルデン』『エドソール』『ホイップル』で構成される。


 部隊はさらに、前衛突撃隊と後衛隊に分けられ、突入したのは『ジャワ』『ダナイー』を除く6隻の巡洋艦と、駆逐艦3隻の9隻だった。


 これらの艦艇は、遮蔽装置によって、ギリギリまで姿を隠し、敵護衛の空母が壊滅するのを見定めてから、遮蔽を解除し突撃を開始した。


 米、豪、蘭、英と多国籍艦艇だが、それらは再生の際、日本海軍風の艤装に変更されている。そのため、細部のマスト、煙突の位置にかつての面影があるものの、言われなければ気づかないほど艦橋ほか上部構造物が変わっていた。


 また、その主砲と配置も重巡『ヒューストン』は、20.3センチ三連装砲三基九門と変わらないが、軽巡『ボイス』は、15.2センチ三連装砲五基十五門が、四基十二門に変更された。


 残る『マーブルヘッド』『パース』『デ・ロイテル』『エメラルド』は、全長170メートル前後と大きさが近く、魔技研製15センチ連装自動砲を連装四基八門で統一したため、かなり似た艦容となっている。


 例えるなら、日本海軍の5500トン型のようなものか。球磨型、長良型、川内型と違いはあるが、パッと見たところ、全部同じに見えるアレである。


 さて、これら幽霊艦隊第二部隊は、敵の護衛である駆逐艦に対して砲撃を開始した。『ヒューストン』の20.3センチ三連装砲は、直撃すれば駆逐艦は一撃で大破もあり得るハードパンチであり、軽巡洋艦の15.2センチないし15センチ砲の速射砲撃は、防御の弱い駆逐艦にとっては自艦の有効範囲外から、その戦闘力を奪っていく恐るべき暴力であった。

 次々と撃ち抜かれ、異世界帝国駆逐艦は反撃もままならない。


 これら護衛部隊を一方的に食い破った第二部隊は、恐れおののく上陸船団に切り込み、破壊の限りを尽くすのだった。



  ・  ・  ・



 同じ頃、異世界帝国輸送船団第三グループも襲撃を受けていた。


 小型空母が、突然襲撃され混沌としたちょうどその時、機雷が護衛部隊と船団の前に現れた。


 これの対処に混乱している間に、忍び寄った呂号潜水艦の魚雷攻撃を受けて、駆逐艦は大破、沈没。


 さらにその隙をついて、海面に浮上してきたのは、幽霊艦隊第三部隊だった。


 香取型練習巡洋艦――その船体を延長し、14センチ連装砲を一基増加させた強化型『鹿島』と、戦闘敷設艦に改装された『沖島』『津軽』。14センチ連装自動砲を二基四門装備した2隻の敷設艦は、先の第三グループの足を止めさせた機雷をばらまいた艦でもある。


 これに潜水駆逐艦となって再生された『如月』『弥生』『朝凪』が続いた。


 これらはトラック沖海戦の前まで、第四艦隊に所属し、同地からの撤退の際に、異世界帝国の空爆と追撃部隊によって沈められた艦たちだ。


 それだけではない、そのトラック沖海戦で撃沈された駆逐艦『漣』『黒潮』『早潮』が、こちらも潜水駆逐艦となって姿を現し、最後にこれらよりも大きな全長200メートル超えの巨艦が艦橋から海面を割って出現した。


 金剛型戦艦、一番艦『金剛』。トラック沖海戦で、金剛型として唯一撃沈された彼女は、魔技研製魔式機関を搭載し、潜水可能な戦艦として蘇った。


 号砲一発。35.6センチ連装砲が吼える。『金剛』の一撃は、輸送船を構成する船体をいとも容易く貫通、開いた大穴から浸水をもたらした。


 船団に食い込むように突撃する『鹿島』『沖島』『津軽』と駆逐艦部隊。さらに『金剛』もまた船団に乗り込むように続く。


 そのような至近距離で、10ノット程度の輸送船など、的も同然だ。改装によって増強した高角砲を副砲代わりに『金剛』は撃ちまくる。


『鹿島』も『沖島』も『津軽』も自動砲化した14センチ連装砲を、装甲のない輸送船に次々に叩き込む。


 さらに6隻の駆逐艦も、敵輸送船の列に併走しながら、12.7センチ自動砲を撃ち込む。


『如月』『弥生』『朝凪』は12.7センチ単装自動砲二基二門。『漣』『黒潮』『早潮』は連装自動砲二基四門。砲門数は改造前より減っているが、速い旋回、俯仰と速射能力でカバーする。さらに使用する砲弾が違った。


 いくら無装甲の輸送船でも、駆逐艦の12.7センチ砲クラスでは、貨物が爆発するような誘爆でもない限り、一発二発撃ち込んだ程度では沈まない。これでも1万トン級の船だった。


 だから、潜水駆逐艦群は、対空用の一式障壁弾を用いて、一斉射で仕留めにかかった。


 駆逐艦の砲弾は装甲のない輸送船の船体鋼板を貫通する。その瞬間、砲弾は爆発――障壁を展開する。この50メートル程度の光の壁は、船内の甲板や壁を破壊する。少なくとも、高速で突っ込んでくる航空機をスクラップに変える強度は余裕である障壁である。


 無防御の船体を中から引き裂く障壁は、真横から当てれば、輸送船の船首から船尾まで真っ直ぐ切断し、障壁が消える頃には船内に大量の水が流れ込み、あっという間に沈没。


 斜めから当てられれば、命中箇所から、船首、船体中央、船尾の三つに両断され、こちらも瞬く間に轟沈していった。


 これならば少ない砲弾で、最大の効果を発揮できる。大量の輸送船を、睦月型、特型、陽炎型の駆逐艦――ここではないが、第二部隊にいる『スチュワート』らアメリカ駆逐艦改装艦も、一式障壁弾で次々に海の藻屑へと変えていったのである。



  ・  ・  ・



「雷撃、1番から6番、発射!」


 特マ潜『海狼』――魔技研、第九艦隊潜水艦部隊は、敵輸送船団第一グループへと攻撃を開始していた。


 海道はじめ少佐の命令を受けて、『海狼』は53センチ誘導酸素魚雷を発射した。妹であり、能力者である鈴の複数同時誘導により、放たれた魚雷は、敵駆逐艦に1隻1本を命中させ、無装甲の艦体をへし折り轟沈させた。


「少佐。敵護衛艦、6隻撃沈しました」

「よくやった」


 鈴の報告に、海道少佐は頷く。相変わらず、同時制御で確実に仕留める能力の高さは、『海狼』の主役といってよい。


 通信士の荻野が振り返った。


「艦長、念話通信。マ-7号、マ-10号よりそれぞれ報告。受け持ちの敵護衛艦、排除したとのこと」

「了解。さて、輸送船狩りは、我ら潜水艦乗りの本領発揮……と言いたいところだが、敵の数が多すぎて、魚雷は足らないし、本艦には砲がないので浮上して水上戦闘をするわけにもいかない」


 1940年代までの潜水艦は、高価な魚雷を惜しんで、輸送船相手には浮上して、8センチから14センチ砲で砲撃する、というのが割と普通にある。

 しかし、マ号潜には、甲板に砲は置いていなかった。


「ということで、誘導機雷でちくちく沈めていこう。敵さんの輸送船など、機雷1個で沈められるだろう。……なあ、鈴?」


 機雷一個で、というのは大げさでもない。何せ、魔技研が再生させた5万トン超えの巨艦『鰤谷ぶりたに丸』、その前身であるブリタニック号は、その機雷一個で沈んだのだ。


「はい、お兄……少佐」


 言い直す妹大尉である。マ号潜水艦は、誘導機雷を二桁台装備している。『海狼』は40個、マ-7号が80個と倍以上。なお最多は防護巡洋艦『高千穂』改造のマ-8号の120個で、マ-10号(防護巡洋艦『千代田』改造)は32個となっている。


 第一グループ船団の足を止めた機雷は、重力バラストで一度潜行すると、能力者の誘導で、輸送船の船底に吸い込まれていき、爆発。次々と異世界帝国陸軍の戦力を載せた船を沈めていった。

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