第101話、激突する攻撃隊


 第三艦隊攻撃隊は、異世界帝国艦隊の対空砲火と、防空戦闘機をかいくぐり、誘導弾や誘導魚雷を、敵空母に集中。


 光弾砲や機銃の雨あられに撃墜されながら、リトス級大型空母2隻、アルクトス級中型空母4隻を撃沈破した。


 残る空母は大型空母1、中型空母1という状況であり、敵太平洋艦隊の航空打撃力はかなり弱体化した。


 しかし、攻撃隊もまた、犠牲は少なくなかった。魔法防弾板による耐久力の上がった日本機だが、敵戦闘機の装備する光弾砲の威力は高く、角度によっては一撃で撃墜されてしまう。


 新型戦闘機エントマは、この光弾砲の速射性能が強化されており、高い精度で攻撃を当ててきた。


 鈍重な九七式艦攻では逃げ切るのはまず不可能。時速650から670キロもの高速力は、零戦に軽く追いつき、また追われても振り払い、九九式艦爆もその運動性に掴まれば撃墜された。


 600機近い攻撃隊を繰り出したが、帰還したのは、およそ半分の311機。うち3割が被弾、損傷していた。


 第三艦隊では、残存機の収容を終えると、第二次攻撃隊の準備に取りかかった。敵にはまだ2隻の空母が残っているし、第一、第二艦隊は、敵艦隊めがけて向かっていたから、まだ戦いは終わっていないのだ。


 一方、日本側の被害は、航空機だけではない。敵艦載機の攻撃を受けた第一、第二艦隊にも被弾、沈没艦が出た。


 敵は戦艦と空母を狙ってきたが、特に空母がやられた。


 第四航空戦隊では、『隼鷹』が敵魚雷を受けて中破。『龍驤』が、撃墜直後の敵攻撃機が突っ込んだせいで船体を突き破り、格納庫で誘導、大炎上を起こして航行不能となった。


 第六航空戦隊の『瑞鳳』は、甲板に敵ロケット弾を受けたが、飛行甲板に施された魔法防御により無傷だった。しかし『祥鳳』が、片舷に魚雷を二本集中され大傾斜、そして沈没した。


 これら空母の高角砲は一式障壁弾を装備していたのだが、空母を守る駆逐艦の防空能力の低さが隙となって、敵の攻撃を許してしまったのだ。


 その護衛をする駆逐艦にも被害が出て、『夕暮』が沈没。『響』『初風』が中破、『朝潮』『杉』『楢』『菫』が損傷した。


 結果、第一艦隊、第二艦隊の損害を集計すれば、戦艦、巡洋艦群はほぼ無傷。戦闘可能な空母は『瑞鳳』のみ。『龍驤』は手のほどこしようがなく、雷撃処分。損傷した『隼鷹』は、同じくダメージを受けた駆逐艦と共に、後退が決まった。


 連合艦隊旗艦『土佐』、その司令塔で、山本長官は、幕僚たちに言った。


「小沢君は、まだやるつもりだ」


 空母機動部隊である第三艦隊は、敵の航空攻撃を受けることはなかった。現在、攻撃隊の再編成中であると報告がきている。


「攻撃隊は、ほぼ半数がやられました」


 三和作戦参謀は発言した。


「しかし、まだ半分残っております。空母の大半を叩いたとはいえ、敵の戦艦群は健在です。連中が侵攻をやめないのであれば、たとえ数をすり減らしてもこれを阻止しなくてはなりません」


 この言葉に佐々木航空参謀は、一瞬ためらいの感情を顔に出した。

 トラック沖海戦で壊滅し、ようやく再建させた空母航空隊。今回の戦いが決戦に近いそれとわかっていても、『すり減らしでも』という言葉には思うところはあった。


 黒島先任参謀が口を開いた。


「第三艦隊には、さらに敵を痛打してもらわないといけない」


 その神妙な調子に、参謀たちの視線が集まった。


「彼らだけで、敵主力艦隊を撃滅するのはおそらく不可能だろう。第一、第二両艦隊で残敵を叩かねばならない。だが現状では、まだ我が方が有利とはいえない」


 お互いの戦艦が無傷で残っている。戦艦同士の砲撃戦では、日本側が劣勢と予想された。

 何もかも上手くいっていれば、敵空母は全滅し、戦艦の数隻にも損害ないし撃沈に追い込めていたかもしれないが、世の中、そうそう上手くはできていないのだ。



  ・  ・  ・



 第三艦隊から第二次攻撃隊が発艦した。その数およそ230機。


 これに対して異世界帝国太平洋艦隊を指揮するエアル司令長官は、戦闘機によるインターセプトを選択した。


 戦艦戦力で、日本軍よりも優勢であることがわかっていたから、航空攻撃を凌ぎ、砲撃戦に持ち込めば勝機はあると考えたのだ。


 さらに彼は、後衛の輸送船団を護衛する小型空母群に、戦闘機の増援を要請し、艦隊の防空支援を派遣させた。


 塵も積もれば山となる。たかだか30機程度の搭載数といえど、30隻もいれば、ある程度のローテーションを組んで支援に出せる。


 結果、日本軍第二次攻撃隊は、太平洋艦隊主力に随伴するリトス級大型空母を大破、戦闘不能においやり、残る中型空母を撃沈したが、またも出撃の半分以上の機体を撃墜、または損傷で失うこととなった。


 やはり、想定より多くの敵機からの迎撃を受けたことは、零戦隊の奮戦を以てしても、完全に押さえ込むことはできず、艦爆隊、艦攻隊に犠牲を出してしまった。


 そして正午近く、連合艦隊第一、第二艦隊は、異世界帝国太平洋艦隊を水平線に認めた。


 艦隊決戦だ。


 双方とも砲撃戦の距離を詰める。

 山本五十六は、敵東洋艦隊を撃滅した時、同様、遠距離砲戦で敵を叩くことを考えていた。


 こちらには魔技研出身の能力者の誇る遠距離からの観測射撃が使える。砲撃の命中率で圧倒的に有利である。自軍の被害を抑えて、敵にダメージを与えるアウトレンジ戦法で、アドバンテージを掴むのだ。


 だがそのためには、制空権を確保しなくてはならない。艦隊に随伴する『瑞鳳』と、第三艦隊から戦闘機を出して、観測射撃が行える環境を整える。


 異世界帝国太平洋艦隊には、使用可能な正規空母が残っていない。一にも二にも敵空母を叩いたことが、のちの砲戦でも有利になる――そう考えていたのだが、敵は護衛空母からの戦闘機を出して、これに対抗してきた。


 遠距離観測射撃ができなければ、途端に日本艦隊が不利になる。連合艦隊司令部も、空中戦を結果を固唾を呑んで見守ったが――


「どうやら、観測射撃をすることはできそうですな」


 宇垣参謀長が安堵の声を漏らす。敵艦隊の上空にはまだ戦闘機がいて、完全に制空権を握ったとは言い難いが、弾着観測機を護衛付きで飛ばすのは可能なレベルに落ち着いた。


 各戦艦のカタパルトから、零式観測機が次々と打ち出され、零戦の護衛をつけて、観測位置へと飛んでいく。


 山本は命令を下した。


「第一艦隊は、敵戦艦群に遠距離砲撃。第二艦隊は、敵巡洋艦ならびに護衛艦群を撃滅せよ。隙あらば、敵戦艦に雷撃を敢行!」


 もはや使えるものは何でも使う。戦艦部隊はアウトレンジに徹する一方、多数の誘導魚雷を有する第二艦隊は、敵護衛を叩いた上で、あわよくば敵戦艦を攻撃する。

 特に旗艦級の大型戦艦を仕留めるのは、砲撃だけでは難しく、水線下に穴を開ける魚雷が鍵となるだろう。


 トラック沖海戦での借りを返す時がやってきた。


 目標、異世界帝国太平洋艦隊!

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