第100話、フィリピン海海戦
日本軍第三艦隊の攻撃隊を迎え撃ったのは、異世界帝国の主力戦闘機ヴォンヴィクスと、新型の迎撃戦闘機エントマだった。
どこかトンボを思わせるヴォンヴィクスに対して、エントマはさながらハチのようであり、小型かつ鋭角的だ。
実際、トンボとハチでは、トンボのほうが速いのだが、あくまで連想させるだけで、本当にこれらの虫ではないので関係はない。
ともかく、第三艦隊攻撃隊の護衛である零戦二一型改は、異世界帝国の戦闘機隊と交戦に入ったが、苦戦を強いられた。
ヴォンヴィクスの時点で、零戦を上回る速度を持っていたが、エントマは最高時速が650キロを余裕で超えていたのだ。
さらに武装も、12.7センチ機銃4丁に、新型の速射光弾砲を1門装備しており、魔法防弾板で装甲が強化された零戦でも、食らい続ければ撃墜されてしまった。
制空隊が苦戦する一方、九九式艦上爆撃機、九七式艦上攻撃機部隊は前進し続けて、敵太平洋艦隊を発見した。
戦艦を縦に二列。その後ろに、横二列に並んだ空母群、その数8隻を確認。目標が一塊になっているのは、攻撃する方としては悪い話ではない。
第三艦隊攻撃隊は、戦艦を無視して、8隻の空母を目指して突撃を開始した。
再度発艦した直掩隊、そして空母とその護衛艦からの対空砲火が、攻撃隊を襲った。
敵戦艦群から打ち上げられる対空光弾によって、魔法防弾板を抜かれた艦爆、艦攻が撃墜されていく。
さらに零戦の壁を抜きてきた敵戦闘機が、対艦誘導弾やロケット弾を抱えて鈍重な攻撃隊に襲いかかった。
後部7.7ミリ機銃で反撃を試みる九七式艦攻や九九式艦爆だが、容易には追従できず、逆に光弾を浴びせられて火を噴いて墜落していく。
それでも、数と魔法防弾板は、攻撃隊の多数の機体を攻撃位置にまで生き残らせた。一発被弾で即終了のこれまでと、一発や二発は耐える機体では、その生存率も大きく変わるのだ。
トラック沖海戦では、戦闘機と対空光弾で、ほぼ撃破できていた日本機が空母に迫り、異世界帝国艦隊は高角砲や対空機銃も動員して迎撃する。
連続して被弾し、撃墜される九九式艦爆や九七式艦攻。だが誘導弾射程に飛び込めた機体は、次々と攻撃を開始した。
誘導弾、誘導魚雷が、異世界帝国のリトス級大型空母やアルクトス級中型高速空母に迫る!
・ ・ ・
一方、日本艦隊も、異世界帝国航空隊による攻撃を受けていた。
その対象は、前衛の第一、第二艦隊だった。後方にいる第三艦隊に気づいているのかいないかはわからないが、敵の放った第一次攻撃隊は前衛艦隊に殺到したのだ。
第一艦隊には六航戦の『瑞鳳』『祥鳳』、第二艦隊は四航戦の『隼鷹』『龍驤』があって、直掩の零戦隊が迎撃。さらに第三艦隊からも制空隊が援護に駆けつけて、敵攻撃隊に襲いかかった。
『隼鷹』からは戦闘機だけでなく、九九式艦爆も発進。後座の偵察員が操作する誘導装置を使った空対空誘導弾で、防空戦に参加した。
ヴォンヴィクス戦闘機を零戦と交戦する中、迎撃をかいくぐったミガ攻撃機が、艦隊に迫る。
「防空戦闘! 主砲、一式障壁弾、装填!」
戦艦『土佐』艦長、武田勇大佐が声を張り上げる。『土佐』の41センチ連装砲五基が旋回を始め、砲身仰角が上げられる。
「主砲で斉射できるのは最初だけだ。それ以後は、高角砲、対空機銃で応戦!」
艦内に主砲発射のブザーが鳴る。主砲の斉射時に、甲板に出ていると遮蔽に隠れる、もしくは艦内に避難しないと人体にダメージがある。砲が大きいほど、その衝撃は凄まじく、大和の主砲発射時に出ていたら、余裕で死ねる。
「一式障壁弾、撃てぇーっ!!」
飛来する敵編隊に、41センチ砲が咆哮した。吹き出す噴煙。そして主砲は1回しか撃たないと通知してあるため、対空要員が甲板に出て、それぞれの担当機銃へと走った。敵が懐に飛び込んできたならば、対空機銃が最後の綱である。
機銃要員たちは、艦隊の周りの空に、青く光る膜が広がったのを見た。
一式障壁弾――魔技研開発の対空砲弾であり、一定範囲に魔法の壁を作り、防御すると同時に、接近する敵機にぶつけて撃墜してしまおうという攻防一体の兵器だ。
急降下爆撃、ないし雷撃しようと接近する敵編隊を、障壁にまとめてぶつけて撃墜する。いかな航空機でも壁にぶつかれば、強固な装甲を以てしてもただでは済まない。
前のほうにいた数機が、障壁に激突し果てる一方、少し離れていた後続機は、空に浮かぶ魔法の壁を避けて、さらに迫ってくる。
こうなれば、高角砲と機銃座の出番だ。土佐型ならびに天城型、いや、魔技研が再生させた戦艦群は、各艦が40口径12.7センチ連装高角砲を八基十六門を装備し、従来の日本戦艦の高角砲搭載数の倍となっている。
さらに電動機を強化し、旋回と俯仰速度を向上させており、追従性能も上がっていた。
――しかも、この高角砲にも障壁弾がある。
戦艦『土佐』の司令塔にて、山本長官は双眼鏡を手に防空戦闘の様子を見ていた。空に主砲のそれより小さな壁がいくつか広がり、それで数機の敵機が避けきれずに激突して爆発した。
通常の高角砲弾、機銃弾を何百、何千浴びせてようやく高速の敵機を捉えられるというのが防空戦闘というものだ。
一式障壁弾は、かすめただけでもその航空機に致命的なダメージを与える可能性が高い。正確に照準できなくても、ある程度カバーできてしまう効果範囲は、これまでの防空戦闘と比べても画期的だ。
山本のそばに宇垣参謀長がきた。
「敵は迂闊に近づいてこれませんな」
「うむ」
各艦艇の対空戦闘。今のところ見張り員や通信兵から、味方艦被弾の報告はきていない。障壁弾がなければ、今頃、第一艦隊はどうなっていたか――それを考えると、冷や汗が出る山本である。
戦艦よりも航空機のほうが優れている――そう考えていただけあって、航空機による威力というものについて理解があるのだ。
「しかし――」
宇垣は首を捻った。
「障壁弾の効果は抜群でありますが、我が海軍の艦艇の防空能力は、少々問題ですな」
参謀長が気になっているのは、魔技研製の艦艇はどれも高角砲を搭載し、防空戦闘に積極的に活動している一方、護衛の駆逐艦――特型以降の駆逐艦が、ほぼ機銃でしか応戦できていないことだろう。
第一水雷戦隊がまさにそれであり、一方、魔技研から補充された第三水雷戦隊の松型――元ドイツ駆逐艦の再生&改造駆逐艦は、砲門こそ少ないが高角砲として使える両用砲であり、機銃による近接防空のほか、敵小編隊への中距離射撃を行っている。
もっとも、松型といえど、艦型が小さい駆逐艦ゆえに、波による船体の揺れが中々あって、対空戦闘は難しいようではあったが。
「失礼します、長官!」
司令塔に、連合艦隊司令部付き通信士が入ってきた。
「第三艦隊より報告! 攻撃隊、敵主力艦隊を攻撃し、大型空母2隻、中型空母4隻を撃沈破! うち大型2、中型2が撃沈確実!」
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