第98話、放たれる矢


 マリアナ諸島を通過し、フィリピン海を西進するムンドゥス帝国軍太平洋艦隊。


 その戦力は、まず戦艦が9隻――メギストス級超弩級戦艦『アナリフミトス』を旗艦に、40.6センチ三連装砲四基十二門を装備するオリクト級戦艦4隻、米海軍から鹵獲、再生したコロラド級戦艦『メリーランド』『ウェストバージニア』、テネシー級戦艦『テネシー』『カリフォルニア』からなっている。


 鹵獲艦のテネシー級2隻が唯一、主砲が35.6センチ砲だが、残り6隻は40.6センチ砲であり、旗艦に至っては43センチ砲を四連装砲十六門と強力である。


 次に空母だが、艦載機120機搭載のリトス級大型空母が3隻。72機を搭載する中型高速空母アルクトス級が5隻の計8隻が主力を務め、その航空機は、戦闘機と攻撃機が半々の360機ずつ、合計720機を有する。


 他、重巡洋艦は4隻、軽巡洋艦は7隻、駆逐艦は42隻。これらは異世界帝国艦と、米海軍の再生艦で構成されており、今回の遠征の主力艦隊を形成している。


 なおこの後方には、460隻にも及ぶ各種輸送船と、30隻の軽空母、110隻あまりの護衛駆逐艦がおり、それだけでも数だけならば主力の太平洋艦隊を圧倒する。


 後衛である輸送船団は、主力艦隊の戦いに巻き込まれないように、かなり後方にいるが、その規模を見れば、異世界帝国が南方奪回に本気なのは理解できるだろう。


 一方、これを迎え撃つ日本海軍の誇る連合艦隊は、第一艦隊、第二艦隊、第三艦隊の戦力を結集し、迎え撃つ構えを見せていた。



◎連合艦隊編成


・第一艦隊(山本五十六大将

第1戦隊:戦艦2:「土佐」「天城」

第2戦隊:戦艦4:「薩摩」「安芸」「常陸」「磐城」

第3戦隊:戦艦1:「比叡」

第6航空戦隊:空母2:「瑞鳳」「祥鳳」


第1水雷戦隊:軽巡洋艦1:「鬼怒」

第6駆逐隊 :「暁」「響」「雷」「電」

第21駆逐隊:「初霜」「若葉」「有明」「夕暮」

第24駆逐隊:「海風」「江風」「五月雨」

第27駆逐隊:「白露」「時雨」「夕立」


第3水雷戦隊:軽巡洋艦1:「木曽」

第11駆逐隊:「松」「竹」「梅」「桃」

第12駆逐隊:「桑」「桐」「杉」「槇」

第19駆逐隊:「樅」「樫」「榧」「楢」

第20駆逐隊:「桜」「柳」「椿」「檜」


・第二艦隊(南雲忠一中将

第4戦隊:大型巡洋艦4:「雲仙」「劒」「乗鞍」「白根」

第5戦隊:重巡洋艦2:「伊吹」「鞍馬」

第6戦隊:重巡洋艦3:「足柄」「羽黒」「筑摩」

第4航空戦隊:空母2:「隼鷹」「龍驤」


第2水雷戦隊:軽巡洋艦1:「由良」

第10駆逐隊:「巻雲」「風雲」

第16駆逐隊:「雪風」「初風」「親潮」

第18駆逐隊:「霞」「不知火」

第17駆逐隊:「磯風」「谷風」「浜風」


第4水雷戦隊:軽巡洋艦1:「那珂」

第4駆逐隊 :「嵐」「野分」

第7駆逐隊 :「曙」「潮」「朧」

第9駆逐隊 :「朝雲」「山雲」「朝潮」

第41駆逐隊:「橘」「蔦」「萩」「菫」


・第三艦隊(小沢治三郎中将

第1航空戦隊:空母3:「瑞鶴」「翔鶴」「黒鷹」

第2航空戦隊:空母3:「蒼龍」「紅鷹」「瑞鷹」

第3航空戦隊:空母3:「翠鷹」「蒼鷹」「白鷹」

第5航空戦隊:空母2:「赤城」「加賀」


第12戦隊:防空巡洋艦4:「米代」「木戸」「岩見」「宇治」

第13戦隊:防空巡洋艦4:「六角」「小貝」「中津」「真野」


第10戦隊:軽巡洋艦1:「長良」

第14駆逐隊:「楓」「欅」「柿」「樺」

第35駆逐隊:「大風」「東風」「西風」「南風」

第36駆逐隊:「北風」「早風」「夏風」「冬風」

第61駆逐隊:「秋月」


 南方作戦時と、あまり変わったようには見えないが、南方作戦中に第二水雷戦隊の駆逐艦『霰』が潜水艦の雷撃によって沈没、『陽炎』が大破し、キャビデ軍港に留まっている。


 そして第三艦隊に新鋭の防空駆逐艦『秋月』が合流した。今は単艦だが、先月末に就役した『照月』といずれは隊を組むことになる。


 また、連合艦隊主力が抜けた後の南方攻略支援のため、第二艦隊から重巡『鳥海』が引き抜かれ、第一、第二艦隊にあった4隻の水上機母艦もまた支援で、南西方面艦隊に配備されている。これに空母『大鷹』『雲鷹』、第六水雷戦隊の残存を加えて再編された第五水雷戦隊が、南方作戦を担う。


 そんなわけで、連合艦隊は戦艦7、空母15、大型巡洋艦4、重巡5、軽巡洋艦13(うち防空巡洋艦8)、駆逐艦61隻となる。


 そして今回、攻撃の鍵を握る第三艦隊の航空機は計715機。第一・第二艦隊に随伴する4隻の空母の機体は計108機。全部合わせて823機。


 連合艦隊と敵太平洋艦隊主力に限れば、日本軍が機体数で優勢ではある。


 だが仮に、後方に控えている輸送船団の護衛空母群が、艦載機を送り出してくれば、数の差はあっさりとひっくり返されるだろう。


 故に、連合艦隊は、当初想定していたフィリピンに引き込んでからの襲撃から、第三艦隊、小沢提督の提唱した前に出ての先制攻撃案を採用した。


 敵が日本本土襲撃に空母を分け、その数が日本軍の半分程度になったから、多少強引でも一撃粉砕の可能性が出てきたためだ。もっとも、敵空母の正確な搭載数まで把握していないので、主力の第三艦隊の航空機とほぼ互角であるとの想定はされていなかったが。


 後ろの護衛空母群と合流される前に、主力の空母を叩く。


 夜明け前には、敵艦隊の正確な位置を突き止めて攻撃隊を出すために、索敵機を発進させた。


 しかし、異世界帝国太平洋艦隊もまた、待ち受けていると想定される連合艦隊の姿を求めて、偵察機を飛ばした。


 太陽が東から昇ってしばし、二式艦上偵察機が、異世界帝国太平洋艦隊を発見。戦艦9、空母8を含む艦隊、その位置を通報した。


 第三艦隊は、ただちに11隻の空母から、待機していた攻撃隊を一斉に発艦させた。


 魔式カタパルトレールにより、一度の発艦で飛ばせる機体が大幅に増えている。第一次、第二次と分けることなく、一撃必殺の攻撃を繰り出す。フィリピン奪回における敵東洋艦隊を壊滅させた時と同じ手法だ。


 三分とかからず攻撃隊が全機飛び立ち、東の空へと消えていく。空母『瑞鶴』で第三艦隊の指揮を執る小沢は、勝利を確信した。


 航空戦は先手必勝である。

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