第79話、マレー方面作戦


 異世界帝国の東洋艦隊主力は、海の藻屑となった。

 最大の障害が取り除かれたことで、日本軍は南方作戦を進行。フィリピン作戦――E作戦を開始した。


 第三艦隊が、キャビテ軍港を空襲している頃、台湾に配備されていた第十一航空艦隊の零戦、一式陸上攻撃機の攻撃隊が、フィリピンは旧クラーク、旧イバ基地を攻撃した。


 キャビテ軍港の援護のため、戦闘機が少なかったことも、基地飛行場への攻撃を許す結果となった。


 第三艦隊の後方で待機していた上陸部隊は、第五水雷戦隊の護衛を受けて、レガスピーに上陸。


 また第一艦隊後方、第三水雷戦隊の護衛を受けていた船団も、ルソン島西部リンガエン湾に上陸を開始した。


 またこの頃になると、第三艦隊の航空隊が、フィリピン各所に存在する敵拠点や部隊への攻撃を開始。その圧倒的な航空戦力の動員で、異世界帝国陸軍部隊は、各所で大きな損害を受けて、上陸した陸軍に駆逐されていった。


 一方、南雲忠一中将指揮の第二艦隊は、マレー上陸作戦とタイ・仏印逆上陸作戦を行う陸軍を乗せた船団を護衛し、南シナ海を進んでいた。


 そこで艦隊は、タイランド湾へ侵入する主力艦隊と、マレー上陸部隊を支援する馬来マレー部隊に分かれた。



○第二艦隊主力部隊


第四戦隊:大型巡洋艦4:「雲仙」「劒」「乗鞍」「白根」

第五戦隊:重巡洋艦2:「伊吹」「鞍馬」

水上機母艦:「日進」「神川丸」


第二水雷戦隊:軽巡洋艦1:「由良」

第十駆逐隊:「巻雲」「風雲」

第十六駆逐隊:「雪風」「初風」「親潮」

第十七駆逐隊:「磯風」「谷風」「浜風」

第十八駆逐隊:「霞」「霰」「陽炎」「不知火」


○第二艦隊馬来部隊

第六戦隊:重巡洋艦4:「鳥海」「足柄」「羽黒」「筑摩」

第四航空戦隊:空母2:「隼鷹」「龍驤」


第4水雷戦隊:軽巡洋艦1:「那珂」

第4駆逐隊:「嵐」「野分」

第7駆逐隊:「曙」「潮」「朧」

第9駆逐隊:「朝雲」「山雲」「朝潮」

第41駆逐隊:「橘」「蔦」「萩」「菫」



 第二艦隊主力部隊は、カンボジアへ上陸する陸軍を支援。同時に北ベトナム、ラオスからの陸軍の大反攻と連動し、敵異世界帝国軍の後背を強襲した。


 またマレー上陸は、幻に終わった対米英戦での想定であった南方作戦に準じた計画を踏襲する形で進められた。


 その護衛についたのは、重巡洋艦四隻の第六戦隊と、第四航空戦隊、そして第四水雷戦隊である。陸軍の航空隊は、ほぼ仏印作戦に投じられているため、マレー上陸支援は、第四航空戦隊の「隼鷹」「龍驤」が担当した。


 だが、こちらは米英想定のマレー作戦に比べると、現地の異世界帝国軍は、かなり少ないのがわかっていた。


 というのも、最前線がタイや仏印にあるので、異世界帝国陸軍のマレー方面の展開戦力は、後方警備部隊に毛が生えた程度しか置いていなかったのである。


 だが懸念はある。シンガポール、ジャワ、インドネシアに展開する異世界帝国軍である。

 特に海上戦力では、一大軍港があるシンガポールに、それなりの戦力が存在していたのだ。


 第九艦隊による奇襲によって被害を受けたシンガポール駐留軍は、施設の復旧と共に、インド洋から援軍を呼びつけていた。


 現在確認されているのは、戦艦二、空母一と巡洋艦、駆逐艦が十数隻となっているが、これが上陸船団と護衛の第二艦隊に向かってくる可能性があった。



  ・  ・  ・



 異世界帝国の東洋艦隊は東南アジアとインド洋を主な活動領域としていた。


 この広大な二つの海域を支配するため、その艦隊も、A群とB群に分けられていた。


 メトポロン大将の主力A群は、侵攻中の東南アジア。すでに支配化にあるインド洋は、B群が受け持っている。


 さて、現在シンガポールに駐留する異世界帝国海軍は、A群残存の現地守備艦隊の軽巡洋艦4隻と駆逐艦8隻、そしてインド洋に展開する東洋艦隊Bから派遣された戦艦2、空母1、駆逐艦4であった。


 シンガポール駐留艦隊の司令キリアキ少将は、増援派遣艦隊の司令であるデフテラ中将のもとを訪ねた。


「メトポロン大将が戦死された」


 マニラ湾での日本海軍との交戦で、東洋艦隊旗艦『メギストス』が沈み、司令長官が戦死したことも伝わっている。


 敵はフィリピンに侵攻軍を上陸させ、またベトナム、タイ、そして目と鼻の先であるマレーにも攻めてきた。


 厳つい顔つきのデフテラ中将は、静かに言った。


「先任順から、指名がない限り、私がこの東洋艦隊の臨時司令官となる」

「はい」


 キリアキ少将は頷いた。デフテラは腕を組む。


「陸軍は本国や南方軍へ増援要請を出している。そして我が海軍にも、出動要請が来ている」

「その件は、私のほうにも届いております」


 キリアキは渋顔を作った。


「アジア侵攻軍のリコンスロポス将軍から、タイ、カンボジアに上陸してきた敵の後方を攻撃せよ、と催促の電文がきております」

「正式な司令長官が着任するまで、私が指示を出さねばならない」


 デフテラは苦り切った調子で言った。


「フィリピンとタイ・カンボジア、マレー半島……。我が艦隊では、全部に対処など不可能だ」


 東洋艦隊主力を破った日本海軍は、戦艦7隻を有しており、しかもほとんど無傷で残っているという。さらにフィリピン方面は、強力な空母機動部隊の航空攻撃にさらされており、迂闊に近づけば徹底的に叩かれるだろう。


 ……そうなると。


「リコンスロポス将軍の要請に従い、タイ・カンボジアの日本軍を攻撃するか」


 偵察報告では、戦艦ないし大型巡洋艦6隻と1個水雷戦隊がいるという。さらに複数の水上機も確認されている。


 戦艦と巡洋艦では話も変わってくるのだが――デフテラが、いまいち自信がないのは、そこである。


 仮に戦艦6隻だったなら、手持ちは鹵獲品改修の旧式戦艦2隻のデフテラ艦隊では、圧倒的に不利なのである。一方で巡洋艦が6隻であったなら、まだやりようがある。


「マレー半島にも、重巡洋艦と空母の上陸護衛艦隊が展開しております」


 キリアキは告げた。こちらは重巡4隻に空母が2隻確認されている。合流されたら、ますます勝ち目が薄くなる。


「しかし、このまま出ないわけにもいかんのだろうな……」


 気は進まないながらも、デフテラ中将は、艦隊に出撃命令を発した。

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