第71話、未完成飛行場、砲撃
大型巡洋艦『妙義』と『生駒』。第九艦隊に所属し、戦隊を構成しているが、この二隻は、実のところ姉妹艦ではない。
『妙義』がドイツ、カイザー級戦艦の改造に対して、『生駒』は、ワシントン軍縮条約で廃艦されたイギリスのオライオン級戦艦だったりする。
『モナーク』――この戦艦を回収して、再生、改造が加えられたものが『生駒』である。
基準排水量2万5500トン。全長191メートル、全幅27.4メートル。
ベース艦は、主砲に45口径34.3センチ連装砲五基を装備しており、実は『生駒』状態よりも火力が高かったりする。主砲はサイズダウンし、砲塔が一基減っているが、その分、機関が強化され、21ノットから、32ノット――水抵抗軽減効果で35ノットを発揮可能と、大型巡洋艦として充分過ぎる脚の速さを誇る。
この『生駒』、そして『妙義』の主砲30.5センチ砲弾が、グアム島で建造中の飛行場建物や滑走路を容赦なく叩き潰していく。
軽巡『鈴鹿』、駆逐艦『海霧』『山霧』『大霧』も、『生駒』に続き、自動砲を連射しながら、グアム島を東から時計回りに航行する。
面積では淡路島よりやや小さいグアム島だが、日本の中部太平洋の委任統治領の中にあって、唯一のアメリカ領だった。
しかし異世界帝国によって占領された後、新たな飛行場のほか、アプラ港の拡張ほか軍事施設の拡大と、一大拠点化が進められていた。
それはまだ未完成ではあったが、着々と開発は進んでおり、いずれは北半球、日本やユーラシア大陸を攻め上がる上での海上拠点となるだろうことは予想された。
だからそれらが機能する前に、叩いておく。第九艦隊水上部隊の、大型巡洋艦の主砲ならば海上からでもグアム内陸に届いた。
北側に建造中の飛行場二つを、妙義隊、生駒隊がそれぞれひとつずつ叩き、グアム中央の三つの飛行場を砲撃。
その間、妙義隊の駆逐艦『氷雨』『追風』『疾風』『夕凪』が、『妙義』から離れて、アプラ軍港へと快速を飛ばして移動した。
そのアプラ港では、異世界帝国の守備艦隊が駐留していた。日本海軍の奇襲を受けて、軍港の艦隊は出航準備にかかっている。
哨戒に出る予定だった巡洋艦が一隻、港を出ようとしているが、残りの艦は乗員が集まって間もないのか、未だ動いていない。
『軽空母1、軽巡洋艦2、駆逐艦・潜水型8、輸送船20以上!』
一式水上戦闘攻撃機――妙義一番機を操る須賀中尉は、偵察員席の正木妙子の報告に、小さく頷いた。
「了解。……それじゃあ、動かないうちに空母の甲板を叩いておきますか! 妙義二番、俺に続け!」
『了解、妙義一番』
大巡『妙義』と『生駒』は、最大四機の航空機を搭載、運用可能である。今回は、それぞれの艦から二機ずつが発艦。水上部隊の防空任務についていた。
サイパン島とテニアン島の飛行場は第九艦隊航空隊が叩いた。ロタ島、そしてグアム島の飛行場はまだ建設中なのは偵察によってわかっていたが、少数機でも配備されていれば厄介ということで、須賀たちは待機していたのだが……。
――まだ戦闘機は配備されていなかったわけだ。
日本軍が反撃に出てくる可能性を考えなかったのか。あるいはサイパンとテニアンの戦闘機で間に合うとふんだのか。それとも、世界を相手にしている異世界帝国のことだから、兵力をとりあって配備が間に合っていないのか。
――まあ、出てこないならそれでもいい。
そうなると、唯一、航空機を持っているだろう軽空母を早々に叩いて、完全に制空権を手に入れよう。
一式水戦は速度を飛ばして、アプラ港に差し掛かる。停泊している艦艇を上から見下ろして――
「空母発見!」
平らな飛行甲板のおかげで、他より目立つ。そしてその飛行甲板には――
「エレベーターが動いている! 戦闘機を出すつもりだ」
空母が動き出したら、敵機も上がってくる。
『じゃあ、さっさと叩かないとね!』
妙子の声は弾んでいた。一式水戦は、今回、短距離空対空誘導弾4発と、中型対艦誘導弾1発装備で飛んでいる。
防空任務なので、敵機が出てくれば当然、こちらより数が多いだろうと、対戦闘機用の誘導弾が優先して搭載していた。空中戦の初っ端で誘導弾4発を使って、軽くしようという戦術である。
が、その敵機が現れないので、対艦誘導弾を先に使うことになった。
――敵空母のエレベーターは2基、っと。
「こちら妙義一番。敵空母のエレベーターをやる。俺は前、二番は後ろのやつを狙え!」
『こちら二番、了解』
二番機、馬場
馬場は、九頭島航空隊で教育を受けた戦闘機乗りである。身体適性のどこかで採用基準を満たせず弾かれたところを拾い上げられた組らしい。魔技研が問題をクリアしたので、戦闘機操縦には何の問題はないという。
『妙義』配置は、ここ最近ではあるが、実際に何度か飛んでみた感想で言えば、腕は悪くなかった。
須賀は一式水戦を、軍港内に浮かぶ軽空母へと向かわせる。照準よし――標的を枠内に収めた。といっても、魔力式誘導弾を導くのは後座の偵察員――能力者である。
「妙子ちゃん、用意……」
「よーい!」
復唱確認。須賀は声に力を込めた。
「撃て!」
対艦誘導弾が切り離された。ロケットモーターを点火させ、対艦誘導弾が飛んでいく。
須賀は機体の機首を翻す。誘導は妙子がやってくれるので、操縦担当の須賀は周囲の警戒や監視に集中できる。
そして誘導弾は、まだ抜錨できずにいる異世界帝国空母に吸い込まれ、命中した。須賀機の誘導弾は、艦首側のエレベーターとそれに乗った敵戦闘機を吹き飛ばした。
続いて馬場機の誘導弾も、敵空母に着弾しエレベーターと飛行甲板を破壊する。馬場の相棒である偵察員こと能力者の春田一等飛行兵も、いい腕をしている。
『妙義一番、こちら生駒一番』
もう一隻の大型巡洋艦から飛び立った一式水戦、その一番機からの無線だ。
『お見事。空母の飛行甲板は叩けたようだが、こっちでトドメを刺してしまってもいいかな?』
――トドメねぇ……。
空母が無力化したなら、他の艦艇――たとえば動き出した艦の艦橋に誘導弾を命中させて、その機能を麻痺させる手も使える。どの道、今回の一式水戦は対艦用は中型誘導弾1発しか積んでいない。よほど当たり所がよくなければ、撃沈するのは――
「義二郎さん!」
妙子の慌てた声がした。
「敵空母、敵機が!」
「なっ! 甲板に出てたヤツが!?」
飛行甲板に出ていた異世界帝国の戦闘機が、滑走することなく、ふわりと浮き上がった。――空母が動かなくても発艦できるのかよ!
「生駒一番! 空母にトドメを刺せ! 敵戦闘機はこっちで引き受ける!」
『了解、妙義一番。生駒二番、対艦誘導弾を使用! 用意――』
にわかに忙しくなってきた。炎上している敵空母の甲板に出ていた戦闘機は高が知れているが、こちらも四機しかいないのだ。
「妙子ちゃん、今度は対空誘導弾だ。……用意――
空中戦をやる前に、機体を軽くするためにも誘導弾で先制である。一式水戦から放たれた零式一番短距離ロケット誘導弾は、妙子の制御を受けて飛翔。スピードを上げつつあった敵戦闘機を撃墜した。
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